『ブラッドボーン』オリジナルと『PSX』を比較 名作アクションゲームにおけるデメイク版の解釈は?
2022年2月より、Lilith Walther氏が『ブラッドボーン』を元に“デメイク”した作品『BloodBorne PSX』(以下、PSX版)がPC向けに配信されている。
デメイクとはベースにした原作をあえて古い技術で再構成することを指し、古い作品を最新の技術で作り直す“リメイク”とは対照的だ。本作は配信開始から24時間も経たずに10万ダウンロードを達成するなど、当時は大いに話題になった。
PSX版の元となった『ブラッドボーン』は、2015年にソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売された(開発はフロム・ソフトウェア)。19世紀のヴィクトリア時代をモチーフにした古都ヤーナムを舞台に、プレイヤーは“獣狩りの夜”を終わらせる狩人としてさまざまな敵と戦うことになる。本作では敵の攻撃を防ぐのではなく、回避することが前提になっており、高速のステップを駆使したテンポの速い戦闘が特徴だった。
過去にフロム・ソフトウェアが手がけてきた『デモンズソウル』や『ダークソウル』と同様、本作もシビアな難易度が特徴で、最初に立ちはだかるボスのガスコイン神父の撃破率は45%(2022年10月26日時点。トロフィー取得率を参照)。約2人に1人が最初のボスで脱落しており、その難しさがわかる。
PSX版は、そんな『ブラッドボーン』をどのようにデメイクしているのか。本稿では実際に筆者が一通り遊んだうえでの所感を交えつつ、本作を紹介しよう。
ヤーナムの街並みを再現しつつ、新たな地形やギミックを追加
高画質で表現されたプレイステーション4版に対し、PSX版には初代プレイステーションを思わせるローポリゴンのグラフィックが使われている。寝台に寝そべっている主人公が老人の勧めで血の医療を受け、その後誓約書を交わしたところでキャラクターメイキングへ。そしてヨセフカの診療所で目覚めて物語が始まるのは、原作と同じだ。
ローポリゴンで作られた街並みやキャラクターには、わかりにくいからこそ滲み出る得体の知れなさがあり、原作版にはなかった恐怖感がある。基本的に遠くは真っ暗でなにも見えず、近づくにつれて全容が分かるという構図も、作風に合っている。『ブラッドボーン』ではそもそも超常的な脅威による恐怖が少なからず含まれていたので、よく見えない、わからないという演出とは相性がいいのかもしれない。
ヨセフカの診療所を出てしばらくすると三叉路があり、左に行くとハシゴがある。そのハシゴを登っていると獣の咆哮が聞こえてきて、登り切った先には、プレイヤーの拠点“狩人の夢”へと行ける“灯り”がある。さらに、磔にされた獣が焼かれている広場や、下水道でプレイヤーを待ち構える豚など、原作で見られた地形や敵が再現されており、ローポリゴンながらもうひとつの『ブラッドボーン』として楽しめる。
PSX版ならではの要素もいくつかあった。まず各エリアが小さく分けられており、それぞれをまたごうとするとロードが発生する。デメイクによるレトロ感を出すためだろう。また、一部のエリアには新しい場所が追加されていたりする。
上で書いた“磔にされた獣が焼かれている広場”は、原作ならギルバートの家の近くにある灯りから右に折れ、道なりに進むと5分もあれば着く。
対してPSX版では、広場に続く通りを道なりに行くと、原作にはない入り組んだ裏路地に出る。オリジナル版ではあっという間に行けた広場も、PSX版では30分以上かかった。長い道のりに配慮してか、原作ではなかった場所に灯りが追加されていた。
ほかにも、下水道から橋に続く道には門が追加され、新たに「下水道の鍵」を探す必要があったり、「地下室の鍵」があると秘密のエリアに入れたりと、オリジナル版の同じ場所と比べると全体的にボリュームが増している。
本作で体験できるのは、ガスコイン神父と戦うところまで。オリジナル版では進め方を知っていれば、たどり着くのに1時間もあれば十分だ。PSX版では新しい通路やギミックを追加することでボリュームを増やし、その短い内容を時間をかけて楽しめるようにしたのだろう。
要素を追加・改変するにしても、作者は原作の雰囲気や世界観をかなり尊重しているようで、たとえば、下水道の鍵がある用水路や秘密のエリアにつながる扉を作るのに、原作では背景として存在していた場所を利用しているのも印象的だった。やみくもに拡張するのではなく、オリジナルにあるものを使ってアレンジしているわけだ。