Z世代が音声コンテンツを好む理由とは? 日本&世界の音声広告市場から考える

 ポッドキャストをはじめとした音声コンテンツは、日本だけでなく世界でもその盛り上がりがさらに加熱し、多くのZ世代にも支持されている。そんな結果を裏付けるように、Spotifyがカルチャーネクストレポートを発表した。

 このレポートからは、音楽・音声に関するあらゆる動きや、そのなかでもZ世代がなにを考えて音楽・音声コンテンツを楽しんでいるのかが記されており、非常に興味深い調査結果となっている。今回は日本における音声広告の旗手である株式会社オトナルの八木太亮氏にインタビュー。日本や世界の音声コンテンツ業界に関する最新事情について、さまざまな観点から聞いてみた。

音声SNSの登場でさらに発展した音声コンテンツ業界

――以前は八木さんに、ポッドキャストが日本で改めて盛り上がり出してからの状況や、コロナ禍での発展について伺いました(参考:ポッドキャストやClubhouseの躍進は「聴覚デバイス」でさらに加速する オトナル・八木太亮に訊く“音声コンテンツ”の可能性)。その時よりも後、2021年3月以降で大きなトピックはありましたか?

八木:大きな括りで革新的だったと感じているのは、2021年におけるアメリカの広告市場の話です。2021年を総括したレポートを見てみると、音声がどのデジタル広告フォーマットよりも成長していたというデータがあって。ポッドキャストだけで約1000億円で前年比の72%増オーディオ全体だと6000億円を超えて前年比の57%増。動画広告よりもSNS広告よりも成長を果たしている市場になっていて、かなり大きな出来事のように思えます。音声メディアがニッチなものではなくなっている、最大の証拠といえるのではないでしょうか。

――2019年〜20年に前年比20%増というジャンプアップがあって、さらに2021年に跳ね上がっているんですね。とても盛り上がっていることを感じさせられました。

八木:それ以外にも色んなトピックスがありますよ。たとえば、いろんなプレイヤーの動きが激しくなっていること。2021年前半にClubhouseが台頭してきたのですが、あの流行のおかげで音声SNSが定着したように感じています。現在はClubhouseが使われているというよりは、TwitterのSpacesが使われているといえるのですが、毎日Twitterを開くと誰かが話しているような状態は生まれている。

 音声配信は現在、音声SNSという新しい形をとって普及し始めたのだなと感じています。Twitter以外の各社にも動きはあって、大手のプラットフォーマーは新しい手法を探していますね。Spotifyも海外ではオーディオブックのサービスをスタートさせたり、PodsightsとChartableを買収するなど活発な動きを見せました。日本市場では、VoicyやRadiotalkといったサービスにてBtoC課金型のモデルが好調なようです。

ーーたしかにそうですね。ネガティブな意味での変化もあったりしますか?

八木:中国発の音声配信プラットフォーム・himalayaが、2021年の9月に音声配信機能から全部撤退してオーディオブックに特化するという動きがあったり、昨年Facebookが音声配信に参入するという話題があったのですが、今年の初旬にあっさり撤退するなど、マイナスな動きもあります。業界は盛り上がっていますが、サービス同士の淘汰は始まっているのでしょう。

――ClubhouseやSpacesのような音声SNSの隆盛と、AppleのサブスクリプションやSpotify、Amazonのライブオーディオといった大手企業のライブオーディオはまったく違うものでしたが、最近では合流するような気配も見られる気がします。それについてはどうですか?

八木:「ライブオーディオ≒音声SNS」という認識は、世界的にも間違っていないと思います。英語版のWikipediaにもまだ定義は曖昧である旨が記載されてますし。ただ、音声SNSは繋がりを大事にした、ある種“コミュニケーション”の性質があると思っていて。だからこそ、人と人との繋がりをベースにしたサービスであるTwitterが使われるのかもしれません。ですが、コンテンツを得意としている会社が音声SNSをやったときにどれくらい伸びるのか、というのは気になります。おそらく苦手な領域のようにも感じるので。

――そうかもしれませんね……。

八木:コンテンツを主軸とするサービスと繋がりを主軸とするサービスはそもそも基本設計の段階から違うので、どんな大手が参入しても、人と人の繋がりのようなものを作れなければ、音声SNSになりきれないように思えます。一方、Amazonのライブオーディオはアレクサのコンテンツを強化するという狙いがあるようです。人間と人間ではなく、人間とマシンを会話させようとしているのは、面白い試みのように感じます。

――相互のコミュニケーションじゃなくて、ラジオ的に聴くことが想定されているということですか。

八木:はい。2021年の11月にスマートスピーカー普及率の調査結果が出ているのですが、日本でも21%を越えていました。以前のラジオが自宅にあるように5人に1人はスマートスピーカーが家にあるような状態になっているのかなと。

――ハードウェア、ソフトウェアの両方で環境が整いつつあるというのが、ここ数年では大きい変化といえそうですね。Spotifyからはそんなポッドキャストを含めたカルチャーネクストのレポートが発表されました。これを見た上での八木さんの所感をお伺いできればと思います。

八木:大きなポイントは2点あると思っており、1点目は「クリエイターのファンのコミュニティ化が音声で進む」というもの。ラジオもそうなんですが、ミュージシャンやポッドキャスト配信者と紐づく広告は、エンゲージメントが高いということがデータとしても出ている。テキストだけで発信するだけだと、そんなに多くのファンは生まれないと思うのですが、ラジオや音声コンテンツはすごく良いエンゲージメント率なんです。わかりやすい例を挙げると、ニッポン放送の『オールナイトニッポン0(ZERO)』がイベントを打つと、大きな会場でもすぐに売り切れたりする。それは音声が持つ根源的な力のように感じているのですが、Z世代はその感情が音楽にも宿るのかなと。

 もう1点は「音楽をアイデンティティを表明するために使っている」という調査結果についても触れたいと思います。自分らしさを音楽を通じて見出しているというのは面白いなと感じました。Spotify広告には「ブランドプレイリスト」という広告メニューがあるのですが、あれはまさにブランドがどうあるべきかというかっていうのを音楽プレイリストで体現できるっていうサービスなんです。

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