いま、ゲームクリエイターが“創作”について語る意義とは。世界中で大反響の小島秀夫『ブレスト』から考える
グローバル番組の構造としての面白さ
もうひとつ、この番組の特徴は、すべてのエピソードが日本語と英語で全世界同時公開されている点である。これは日本語話者であろう我々には実感しづらいことだが、『ヒデラジ』を含めた小島のラジオ番組は当然ながらすべて日本語で、非日本語話者にとっては理解できないエピソードも多かった。そこで『ブレスト』では日本語版と、それを英語に吹き替えた英語版が、同時に公開されているのである。
実際、Twitterアカウントも日本語版の「@Kojima_Hideo」が約110万フォロワーに対し、「@HIDEO_KOJIMA_EN」は約340万フォロワーとその3倍フォローされていることからも、海外の小島ファンがどれだけ多いか、そして英語で視聴できる小島トークがどれだけ熱望されているかが容易に想像できる。
番組の内容を鑑みても、ビデオゲームのみならず「創作」全般を扱う幅広いテーマ設定や、BGMを含めてよりチルに寄せた雰囲気づくり、そしてここまでに呼ばれたゲスト(押井、ジョーダン)を見ても、英語圏は当然として「小島ファン」のみならず創作に関心のある人間であれば、だれが聴いても楽しめるような設計が徹底されている。
なかでも興味深いのが、番組の事実上レギュラーとなる存在、ジェフ・キーリーだ。ジェフは世界的ゲームの表彰式典『The Game Awards』の主宰にして国際的なゲームジャーナリストであり、小島とも親交が深い。英語圏においてはゲーム業界の“顔役”といっても差し支えない存在だ。
ジェフはジョーダンなど英語圏ゲストとの橋渡しのみならず、小島によるソロトークのエピソードでは後半に「TGA: The Geff’s Answer」という、ジェフのソロトークコーナーまで展開される。こちらでは、現代ゲーム業界における様々なニュースをジェフの視点から紐解く内容で、直近ではコロナ禍とゲーム業界など、表面的なニュースでは理解しづらい諸事情も明らかにされていた。
ホストである小島は無論、ゲストも基本的にクリエイターとなるこの『ブレスト』において、ジェフはあくまでジャーナリストという立場でより客観的に「創作」そして「ゲーム業界」について論じることで、一層この番組を重層的なものにしているのは、この番組の大いにユニークな点だ。いずれ、小島とジェフの対談というのも聴いてみたいと思う。
ここまで論じてきたように、『ブレスト』は小島ファンのみならず、創作に関心のある人すべてが興味深く聴けるような工夫に満ちている。小島個人の創作に関する幅広い経験や知識のみならず、ソロトークと対談とどちらもこなすカリスマ性、言語や関心分野を超えた番組設計、そしてレギュラーであるジェフのジャーナリスティックな視点と、このためだけにSpotifyに加入しても損はないだろうと思えるほどに充実した設計である。
いまのところまだ7エピソードしか公開されていないが、今後も非常に楽しみだ。個人的にはやはり小島なりのゲーム批評、そして『ヒデラジ』でも馴染み深いメンバー……菊地由美や大塚明夫との対談、さらには歴戦のゲームクリエイターとの対談も、ぜひ聴きたい。
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