懐かしいテクノロジー技術解説

"メアド交換"にも使われた赤外線通信 Bluetoothに代替されたその歴史を辿る

・赤外線通信の標準規格「IrDA」

 さまざまな機器に使われていた赤外線通信だが、ことPCやモバイルの世界においては、「業界標準」の規格があったことが、普及に大きな影響を与えている。この標準規格が「IrDA」だ。IrDAは「Infrared Data Association」(赤外線データ協会)という、赤外線通信の国際標準を策定する団体名に由来する。IrDAは赤外線通信に使用する波長などの物理面と、通信と接続の手続き(プロトコル)を定めたソフトウェア面の両方をカバーする規格だ。(参考:「IrDAの経緯および最新動向」北角権太郎、松本充司 画像電子学会誌39巻,6号、https://www.jstage.jst.go.jp/article/iieej/39/6/39_6_1124/_pdf)

 ちなみに、赤外線リモコンの「EIAJ」方式や、シャープが電子手帳/PDAの「ザウルス」シリーズで使っていた「ASK/DASK」方式、ハドソン(現在コナミに買収)がゲームボーイカートリッジで使っていた「GB KISS LINK」など、赤外線通信という括りでいえば他の方法もあるが、これらはお互いに使用する波長も、その上に流す情報のフォーマットもバラバラ。世界中で使われている共通規格と言えるのはIrDAだけだ。

 IrDAの元になったのは、米ヒューレット・パッカード社が1993年に発売したパームトップコンピュータ「HP100LX」が搭載していた赤外線ポートだ。HP100LX同士を対面させると片方がサーバー、片方がクライアントになってファイルを転送できるというもので、速度は115.2kbps。今からすれば非常に遅いが、当時としてはシリアルポートと同等の速度だった。

 当時はIBMがThinkPadシリーズを発売するなど、ノートPCの市場ができあがりつつある中で、マイクロソフトはIBMやHPと共に赤外線通信の標準化に着手。この3社が幹事となって赤外線通信のスタンダードを確立すべく設立されたのが「IrDA」だ。その後世界各国のメーカーが参画し、特に日本のメーカーが積極的に参画した。

 IrDAの特徴としては、プリンターメーカーでもあるHPが参画していることで、最初から印刷やファイルのやり取り、さらに通信モデムとの接続など、主にシリアルポートの無線化としての役割が与えられていた。その後、画像転送などの機能も与えられていく。

 通信速度は当初115.2kbpsでスタートし、1Mbps、4Mbps、16Mbpsと高速化する(実効速度は環境に依存するが概ね10分の1程度)。通信可能な距離は最大1m前後で、高速化するにつれ距離も短くなっていった。実際には初期の段階から数cm〜10cm程度で使うのが常だった。

 当初はノートPCやプリンターなどに搭載されていたが、これが携帯電話やPDAに搭載されたことで、モバイル環境での通信用ポートとしての役割も大きくなる。1999年にICカード型テレホンカードが登場したときには、ISDN公衆電話(いわゆるグレ電)にIrDAポートが搭載され、ノートPCやPDAなどで高速通信できることが一つのウリとなった。

大阪市内の駅に設置されていたJR西日本のICカード公衆電話(国際兼用)。これもIrDAポートが付いていてノートPCなどで通信することができた(筆者撮影)

 また、2000年代後半にはいわゆるプリクラにも赤外線ポートが付き、撮影した写真のデータを1枚1〜2秒で転送できる機種が登場する。おそらく、この頃が、IrDAが最も普及した時代と言えるのではないだろうか。

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