にじさんじ 葛葉、叶、ROF-MAOによる、強烈に「ポップ」な一夜 『Aim Higher』に感じたアーティストとしての成長
この日のライブ、宴のトリを務めるのは、にじさんじの誇る配信モンスターであり「KING」として名実ともに成り上がってきた葛葉である。
1stミニアルバム『Sweet Bite』は全体的にロック色が強いこともあり、1曲目「Wonder Wanderers」2曲目「Bad Bitter」とバンドサウンドを活かした重いサウンドで会場を揺らしていく。ゆったりとステージを歩きながら、腕をおもむろに広げて見せ、悠然とした面持ちで雰囲気を楽しみつつ、歌うとなれば前かがみになって訴えるように歌っていく。
「眠れない理由はおいていこう 真夜中 オレ達をとがめるルールはない はじめようぜ」(『Wonder Wanderers」)
「The taste of love is just bad bitter 憐れみも軽蔑も中傷も欠かせないオーソリティ Give me your fake, a piece of cake 誰も彼もがパブリックエネミー」(「Bad Bitter」)
真夜中24時以降にライブ配信を始めれば、平均視聴者数2万人から3万人、大型企画や大会となればその倍以上の視聴者を集め、リスナー・ファンもろとも真夜中に起こる饗宴へと誘っていくのが彼の生業だ。
そんな生業を5年近く続け、いまでは男性バーチャルタレント随一の人気者へと成りあがった彼だからこそ、その振る舞い・イメージ・歌詞の一つひとつがKO級のパンチとなって振りかざされる。
ROF-MAOや叶と同じくミニアルバムのジャケットで描かれたビジュアルに自身の3Dモデルが仕上がっていることも大きく加味され、この日の彼はパーティをともに楽しみ、先導するリーダーのようですらある。
MCパートに入ると、そんなクールな姿から一転してライブ配信で見せるいつもの茶目っ気全開でトークを進めていく。「ニートに殿(しんがり)はキチーよ!」と声をあげるが、それも含めて「葛葉ワールド」の術中にあるのだ。
緊張しているとは到底思えないほどにトークを進めると、3曲目に突入。ソロイベントでも使用した椅子に腰掛け、鐘の音が遠くから聞こえるなかでフっと声に出したのは「OH MY GOD...」の三単語。昨年ボーカロイドシーンから飛び出して大ヒットしている「神っぽいな」を披露した。
VTuberシーンで大きな流行だから乗っかったというだけではなく、歌詞全体がニヒルに悪態をつくような内容となっており、ライブ配信中の一気呵成に煽っていくスタイルが注目されがちな彼にはピッタリ。ファンからすればまさに待望の選曲でもあったろう。
4曲目となった「甘噛み」では、大仰に飾られたミドルテンポの楽曲をゆったりと歌い上げる。ヴィジュアル系バンド・シドのマオと明希が作り上げたロマンティックな一面を、いっさい崩すことなくパフォーマンスして見せる。
5曲目には彼流のパーティソングといえる「エンドゲーム」を、6曲目には「Owl Night」を次々に歌い上げていく。韻踏み・言葉遊びに溢れた歌詞は、前者がすこし着飾った印象を、後者はより素直な印象を与えつつ、葛葉と夜の関係性を捉えていく。
僕と「君(またはあなた)」と共に遊び、時間を共にする夜の時間を大切にしながら、朝へと徐々に向かっていく。7曲目に披露するのは、ミニアルバムでも最後に収録された「debauchery」だ。
「辛い 痛い でも 夜明けは拒否できない 御都合もフェイクされる 白んだネオン街 影を追い遣って ヒリつく肌に 現実(リアル)が押し寄せる」
「もう 夜と朝との境界で 享楽事後の副反応を 受け入れるんなら お気に召されるまま」(「debauchery」)
見たくもない朝と昼間の世界が訪れてもなお、夜を共に過ごしていったなかで築かれた繋がりを胸にし、いざ夜の世界から昼の世界へとともに飛び出していこうというメッセージは、曲の終了時に朝日が昇るシーンとしてしっかりと描かれる。
本ライブ本編の最後を飾り、葛葉のライブパートを締めるのに選ばれたのは、L'Arc~en~Cielの名曲「READY STEADY GO」である。
この曲はにじさんじのメンバーによる歌配信などで何度か歌われているどころか、00年代のアニソンを代表しうる名曲でもあるが、なぜこの曲が選ばれたのだろうか。
葛葉はライブ配信中に「オレはニートでクズだ」などと自虐気味に口走ることがあるが、そんな男はいつもダブルミーニング・トリプルミーニングに掛けた言葉遊びに長けている。この選曲も、さまざまな意味合いが込められているのが伝わってくる。
『夜の世界から昼の世界へとともに飛び出していこう』という葛葉からのメッセージをダメ押しで強化するだけではない、シドに楽曲提供してもらった立場として、にじさんじを背負うポジションとして、『Aim Higher(≒高みを目指して進む)』というライブコンセプトを貫徹するためのメッセージとして、様々な意味合いが込められた重みある選曲となっている。
自身の未来に美しい虹をかけるような、あまりにもクリティカルかつニクい選曲。ここまでのハイパフォーマンスの波に乗ってバッチリと歌いきり、本編は幕を閉じたのだ。
暗転して間を置かずしてアンコールへと突入すると、主演者6人によるコラボ配信のようなワチャワチャとした会話が続いていく。
「お互いに思っていることがある。いつの間にそんなに仕込んでたの?って」と加賀美が切り出せば、「3マンライブで目当てじゃない人を見たファンもいるとおもうけど、楽しんでもらえたと思う」と返す剣持。
「今日はもう終わるのか……っていう名残惜しさがある」と叶が口に出せば、「みんなとやるとモチベーションが湧く」と持ち前の負けん気でライブを迎えたことを振り返る葛葉。アンコールにはFLOWが作曲した「虹色のPuddle」を6人の歌声で綺麗にハーモニーを奏で、大団円を迎えることになった。
この日のライブパフォーマンスはまさに三者三様であった。さまざまなやり方でガムシャラさを前面に押し出していくROF-MAO、節々に切なさを織り込んでリスナーとともにあろうとする叶、「夜」「饗宴」といったイメージを押し出して熱狂と旅路へ向かおうとする葛葉。
三者に共通するのは、聴く者の心の傷・不安に添い合って、「君」と共に前へ進もうと後押しするポジティブなメッセージを投じていくことにある。聴く者の心を安心させ、導いていこうとすらする、まさに強烈な「ポップ」な存在・役割へと成長しようとひた走る6人の姿があった。
いまもっともエッジに立った者たちが見せる、最高の景色と強きメッセージが備わった一夜であった。