『Meta Quest 2』値上げと、『VRChat』に「EAC」導入の衝撃。大変動は多様性を生むきっかけになるか

『VRChat』に「EAC」導入の衝撃

 青天の霹靂だった。7月27日、VRヘッドセット『Meta Quest 2』の価格改定が発表されたのである。8月より、128GBモデルは37,180円から59,400円に、256GBモデルは49,120円から74,400円に、それぞれ値上げされる。

 値上げ幅は実に5割以上。唐突な価格上昇を前に、現役ユーザーはもちろん、これから買おうと思っていた人からも驚きと困惑の声が聞こえる。値上げの直接的な理由は「製造コストの増加」で、海外でも100ドル近くの値上げが行われるが、日本での値上げ幅がより大きいのは、円安の影響と見て取れる。

 『Meta Quest 2』は先週の時点で品薄が報告され、入手性の難しさが課題に上がっていたところである。ここから在庫不足が解消されたとしても、今度は価格上昇という新たなハードルが待ち構えることになる。それでもまだ”VR機器としては”安い方なのだが、4万円でお釣りが出ていたこれまでと比べれば、高い買い物となってしまうのは確実だろう。

 価格にいったん目を瞑ると、たしかな性能と豊富な対応タイトルの存在が、『Meta Quest 2』のセールスポイントとなるだろう。一方で、定価49,280円、かつカタログスペックでは同等の『Pico Neo 3 Link』が国内市場に控えている。すぐに勢力図が一変するとは思わないが、今後の動向次第ではひっくり返る可能性もあるだろう。VRやメタバースへのハードルが上がっただけで終わるか、それとも入口の選択肢が増えるか、今後の動向には注視が必要だ。

 7月27日には、ソーシャルVR『VRChat』にも大変動が起きた。アップデートによってチート対策ツール「Easy Anti Cheat(EAC)」が導入されたのである。かの『Apex Legends』にも導入されている著名なチート対策ツールであり、その導入目的は「悪質なMOD対策」と「クリエイターやサポートチームの負担解消」とのことだ。

 アバターのリッピング(盗難)やワールドそのもののクラッシュなどを引き起こす、悪意あるMOD(改造クライアント)は、『VRChat』では長らく問題視されてきた。これらを一掃するための施策と思われるが、突然の導入にユーザーの多くが困惑を隠せない様子だ。そして、様々な理由から大きく反発するユーザーが現れた。

 まず、MODコミュニティが激しく反発した。「EAC」の導入によって、MODは全て遮断されることになる。しかし、悪質なもの以外にも、MODには「携行可能なミラーを呼び出す」「テレポートする」といった便利な機能や、聴覚障がい者向けの「手話モーションの拡張」「リアルタイム字幕表示」などを提供し、『VRChat』プレイヤーのQoLを改善するものも存在する。規約上、MODによるクライアント改造は禁止されているものの、「遊ぶ上で必要だ」という理由で導入していた人にとっては、QoLの低下を運営より宣告されたと捉えられるだろう。

 そして、「EAC」という「異物」の導入に反発するユーザーも存在する。セキュリティ的な問題点も指摘されているチート対策ツールへの懸念はもちろん、それを予告も議論もなしに導入したこと自体への反感も観測されている。また、たとえ「EAC」が導入されたとしても、悪質なMODが「EAC」を回避し、より悪質化する可能性も指摘されている。MODをシャットアウトすることの是非はもちろん、その手法もユーザーコミュニティ側との議論が必要だったかもしれない。

 事態は相当に大きくなっている。「Steam」のページには大量の低評価が投下され、有料プラン解約やログイン停止といったボイコット運動の呼びかけも確認されている。『VRChat』はその後、MODで補われていた機能を優先的に盛り込むことを告知し、7月30日には一部がβ版として提供開始となった。開発進捗の公開まで行うなど、異例の対応はコミュニティを意識したものだろう。

 しかし、「EAC」導入は撤回されることなく、海外MODコミュニティ「VRChat Modding Group」は、別のソーシャルVR『ChilloutVR』への移行を決定した。『NeosVR』への移住呼びかけも行われており、この2つのプラットフォームへのアクセス数は跳ね上がっているようだ。特に『ChilloutVR』は同時接続人数が10人にも満たなかったものが数百へ急増し、サーバーがダウンするなどの影響が出ている。

 その上で、「VRChat Modding Group」から『ChilloutVR』へ開発メンバーが参加するなど、『ChilloutVR』はMOD文化を許容する方向で動き始めているようだ。『VRChat』から少なくないユーザーが離れる事態となったが、好意的に見れば、一極集中の状態から分散が始まったとも考えられるだろう。

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