「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」 “VTuber”の存在意義を問うた、黛灰の活動終了に寄せて

 ルックスと口調から物静かでクールな印象が強い黛灰。そんな彼の淡々とした喋りのなかからポンと出てくるのは、シニカルな指摘・考察の数々であり、興味本位で見に来たリスナーをファンへと変化させるキッカケにもなっていた。

 リスナーと対話することの多い普段の配信のなかでも、深い洞察眼から繰り出される指摘・ボケ・ツッコミの数々が飛び出し、お笑い気質な面々が揃うにじさんじの面々と絡むことで、より絶大なプレゼンスを発揮していく。

 お笑い芸人やバラエティ番組由来のネタや流れを汲んだやりとりのなかで、黛のツッコミとボケが挟まることで一気にヒネった質感へと様変わりしていったことは、これまでも何度となくあった。

 本人がどこまで意識していたかは不明であるが、その切れ味鋭さもまたにじさんじでも一、二を争うほどであり、同僚らとの会話でも黛の指摘・考察に耳を傾ける者は多かったはずだ。

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 新旧さまざまなインターネットミームに精通していることや、マンガ・アニメなどのテンプレートなやり取り、新しい視点などを次々と提示していく様は、まさに「知性派」と呼ぶにふさわしいものだった。

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 先述したような企画力の高さは普段の配信上で培われ、彼のオリジナル性を高めていくことになる。最たる例として挙げられるのは「凸待ち配信」である。

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 2019年10月21日に10万人記念の凸待ち配信を行なった。「相手方からの突撃を待つ」配信である凸待ち配信を企画するとなると、あらかじめ数人の友人に声をかけてもらい、配信してもいっさい人が来なくて盛り上がらず失敗するというリスクを減らすことが求められる。

 だがこの時の彼は前準備を一切することなく、凸待ちを予告し、そのままスタート。薄暗いパーティ会場、もの悲しいBGM、真ん中に一人小さく配置された自身の立ち絵、あまりにも寂しい絵面がそこにはあった。

 リスナーも「誰かが来るであろう」と当然期待しているわけだが、待てども待てども誰も来ず、それどころかコメント欄で次々と同情のコメントやスーパーチャットが流れていくことに。黛も「いまヒマならちょっと話さない?」と声をかけるが、さまざまな理由でやんわりと断られてしまう。

 Twitterで次々とライバーが反応し、3万人近い視聴者を集め、多くのリスナーが黛の惨めな姿を温かく楽しむことになった。

 とても印象的だったのはリゼ・ヘルエスタとのやり取りだろう。2度にわたって「いまから行けますよ!」とコメントするも、「違う、そうじゃない」と黛がお断りを入れる場面があった。

 つまりこの配信は「凸待ちをしても0人になっている人に対し、周囲が空気を読んで一切凸待ちをすることなく、物悲しく続いていく光景と黛のトーク」という構図を楽しむことにあり、リゼと黛のやり取りはその構図を印象付けることになった。

 後年この配信を振り返った際に「皇女殿下のくだりだけは本人に声をかけた」ということが明かされている。

 逆に言えば、リゼ以外の面々はいっさい打ちあわせなどをせずに、「周囲は声をかけなかった」ということを意味する。この時コメントなどで反応した面々には日本だけでなく当時NIJISANJI IDの海外メンバーもいたわけだが、全員ひっくるめて彼に声をかけなかったのだ。

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 この配信は、にじさんじに所属する面々がいかにお笑いやエンターテイメントの流れを察知し、その場の空気を読めるスキルが長けているかを知らしめることにもなった。

 それに加え普段の物静か・クールさ・ニヒルさといったイメージが先行しがちだった黛灰が崩れ、機転とアイディアに溢れたエンターテイナーとして知られるきっかけにもなった。

 その後に多くの切り抜き動画が制作されてVTuberファンに知られていっただけでなく、幸か不幸か「凸待ちが0人になってしまった」配信も多く登場することになった。

 リスナーやタレントらにまで影響がおよぶことで「凸待ち」配信そのものへの理解が深まるきっかけにもなり、同種の企画がリスナーの大きな期待を帯びたものになる一助となった……というと少し過言が過ぎるだろうか。

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