劇団EXILE・秋山真太郎が起業して芸能マッチングサービスを立ち上げた理由 テクノロジーでエンタメ業界に変革をもたらす『STAND FOR ARTISTS』とは

より適切なマッチングをするため、現場の声に耳を傾ける

ーービジネスモデルの背景はいかがでしょうか? タレント側は月額780円、制作会社は0円かつ中間マージンを取らないというのはかなり挑戦的ですよね。

小宮:制作会社さんからすると中間マージンを取られなければ、コストがかからないので『STAND』からオーディションを出す理由になりますよね。無料かつ中間マージンを取らなければ多くの案件が集まるから、多くのタレントさんが登録します。そして多くのタレントさんが集まれば、さらに制作会社さんが案件を出すようになるわけです。

 また、このビジネスモデルが実現できるのは自社開発をしているからというのも大きな理由の一つです。システム開発を外注してしまうとサービスの売上が立たなくても開発費を支払わないといけませんが、本サービスは私と樋口が七十八に取締役としてジョインした上で自社開発することにより外注にかかるコストを抑えています。売上が出るまで役員報酬を下げるまたは我慢し、『STAND』に先行投資しようと。僕らとしてもそれほど価値のあるサービスだと感じています。

ーーでは、タレントと制作会社のどちらかに供給が偏ってしまった際には、どのようにバランスを取ろうと考えているのでしょうか?

樋口:Googleのロングテールの概念をしっかり入れていこうと考えています。タレントさんも制作会社さんもお互いに細かいニーズがあると思うので、そこをしっかりマッチングできるような仕組みを構築すればあぶれることはないかなと。登録者が増えること自体はビジネス的にも技術的にもすごくありがたいことです。その中で上手くマッチングできる仕組みさえ入れられれば、エンタメ業界に貢献できる良いサービスになると思います。

 素晴らしい特技や個性を持っているのに、業界内の人付き合いをあまりしてこなかったため知られていない逸材もいるはずです。そういう人の活躍の場が提供できるといいなと考えています。

ーー今だとSNSのフォロワー数が分かりやすい指標になっていますけど、それ以外の指標が少ない印象を受けます。『STAND』を使用すれば、フォロワーという数字以外の部分もしっかり見られて適切なマッチングができるということですよね。

樋口:そうです。フォロワーの多い方を起用したいという案件もあれば、フォロワーじゃなくて作品のコンテキストに合う方を起用したいという案件もあると思います。制作会社さんの要望に合わせてより適切なマッチングをさせてあげたいんですよ。

 『STAND』では数多くの条件から検索できる機能を付けているので、インフルエンサー的な方だけではなく求める人物の雰囲気からも探すことができます。そうすることでタレントさん、制作会社さん、双方がハッピーになれるのではないかなと。

小宮:4月にデモサイトをローンチしてから、現場の要望を逐一聞いて実装しているのですが、7月のサービスリリース以降もさらに実際に使ってもらった声やニーズを拾っていく予定です。みなさんの思う「こういうことができたらいいのにな」を実装していくことにより、1年後には理想に近いシステムが出来上がっていくのではないかと考えています。

樋口:マッチングの精度を高めるためにも、ゆくゆくはいろんなテクノロジーを入れていきたいとも思っています。秋山さんの思いでもある、「なかなかバットを振れていないタレントさんにもチャンスが行くようなマッチング」の仕組みも入れたいなと。また、技術的な話だと人工知能を組み込む余地があれば、実践していきたいですね。

手に入れたい情報が簡単に手に入れられる状態を目指す

ーー『STAND』の仕組みはタレント以外の職種にも流用できそうですよね。

秋山:実はそこも想定しています。最初はタレントさんと制作会社さんのマッチングですが、将来的には音響・照明・カメラマン・ヘアメイク・スタイリスト・舞台監督など、「業界を支えているけど業務委託により保証を受けていない人たち」のデータベースにしたいんです。

 エンタメ業界内では人材不足によるスタッフさんの奪い合いが起きている現状もあります。『STAND』はそれも解決できるシステムなので、なるべく早くスタッフさんが利用できるようにしたいと思っています。

樋口:今のエンタメ業界を飲食業界に例えるとすれば「ぐるなび」や「食べログ」がない状態なんですよ。データベースがないから知り合いに聞いて、いいお店を探す。でもそれには限界があります。手に入れたい情報が簡単に手に入らない状態にエンタメ業界の人たちは陥っているわけです。『STAND』はそれを解消できる仕組みだと思います。

ーーマッチング以外にも何か施策として考えていることなど、今後の展望があれば教えてください。

秋山:とにかく芸事に携わる人を守ってあげられるような仕組みにしたいと思っています。基本的に保障のない職業なので、妊娠した時の保障や何かあった時の保険プランを選べるようにする。僕も最近腰を痛めているのですが(苦笑)、同じように役者は年老いていくとどんどん武器がなくなっていくので、年を重ねても使える武器を手に入れるために若いうちから負担にならない金額で習い事ができる環境を整える。事務所に所属していない俳優さんにはコンプライアンス研修を実施して、Cマークを付与する。業界のことを学べる学校をつくる……などいろいろ考えてはいます。

 また、七十八の企業理念が「日本の芸能、文化をクリエイトする」なので、海外で活躍したい俳優さんにまずは盆栽・稲刈り・田植え・お茶摘みといった日本文化の体験を通して日本を学び、日本人としてキャスティングしてもらう意味を厚くしていく。地方で体験して、そこでできたお米やお茶などを販売することで地方創生にも繋がります。さらにその商品のCMを打つオーディションを『STAND』で実施する。将来的にはそういった循環をつくっていきたいと思っています。

小宮:ほかにも海外の制作クルーが日本に来た時にも『STAND』は活用できると考えています。現状、海外クルーが日本のスタッフ・キャスト・エキストラを揃えるのはすごく大変なんですよ。『STAND』なら日本のキャストやクルーが簡単に探せるので、海外チームと一緒に作品がつくりやすくなっていくのではないかと。そういった先々のことも考えています。

ーーちなみに現在、秋山さんは事業に専念されているそうですが、将来的には俳優業と両立される可能性は……?

秋山:落ち着いたら考えようと思っています。今は長崎の田舎から誰も知らない東京に20歳で上京してきた「何でもやってやる!」と思っていた時の気持ちとすごく似ているんですよ(笑)。

 まずは『STAND』を含め、エンタメ業界の環境を整えることを優先して、もう大丈夫だって思えるところまでいったら、もう一度改めて自分の夢を追いかけたいなと思います。

STAND FOR ARTISTS:https://www.standforartists.com/

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