VTuberをめぐる法律トラブルの難しさとは VTuber法務の専門チームを立ち上げた弁護士に聞く

弁護士に聞く「VTuberの法律トラブル」

炎上が起きた際、本人やファンが取るべき最善策とは

――最近はいわゆる「暴露系YouTuber」へ、会社に一切相談せずタレコミを行い、大きな騒動となるケースも散見されます。そのタレコミのせいで立場が悪くなり、契約終了が言い渡される事案も見られるのですが、こうした傾向は法律の専門家としてはどのように思われますか? 果たして駆け込み寺として有効かどうかも気になります。

河瀬:タレコミする側の心情としては分かるのですが、タレコミする側が中期的に見てプラスになっているかというと、正直なっていないと思いますね。ただ昔からそうした構造は、オールドスタイルの芸能関係の中で、週刊誌をプレイヤーに行われていたことでしたし、それが今はオンライン上で暴露系YouTuberをプレイヤーにして行われているという構造だと思います。まあ結局、週刊誌に情報を売って中期的に得した人というのはあまりいないと思うんです。暴露系YouTuberもそんなにお礼をしてくれるわけでもないですし。

――どちらかといえば、告発したい相手と自分で心中してやる、というような心情なのでしょうね。

河瀬:結局誰も得してないよという話に尽きるとは思うんですけどね。まぁ私の場合はタレコミされた側の仕事が多いですけど、いろいろなものを回復するには、それなりの期間やお金がどうしてもかかってしまいますね。

――芸能界で起こるトラブルと違って、市場の成長が早すぎたがゆえに、プライベートなところが芸能界よりも隙が多いような印象もあります。

河瀬:やはり事務所機能が弱いというのはありますよね。中間者というのは基本的に邪魔ですし、お金も持って行くので、なるべく排除する方向に社会は動くわけです。でも中間者を排除すればするほど、こういう問題が頻発するという。エンターテイメントにかぎらず、あらゆる領域で起こっている現象ですね。

――一方で、芸能界と比べるとVTuberはファン層も若く、こうしたトラブルが起きた際に精神的に動揺している人も多い印象があります。その結果、ファンの側の行動が悪手となることもめずらしくありません。VTuberがなにかトラブルに巻き込まれた際、ファンになにかできることはあるのでしょうか?

河瀬:私も心情としては分かるのですが、ファン側がなにか喋ると、それも要素になって更に燃えてしまうことはありますね。

――無闇に広めない、というのが最善手なのでしょうか?

河瀬:そうなりますね。Twitterは拡散力が高いですし、短期的に見ると危ないメディアですが、逆に言うと中期的にはそこまで残るものではないです。一か月前のツイートというのは、そんなにGoogle検索には出てきませんし、Twitterで先月バズったネタなんてもう誰もおぼえてないじゃないですか。でもたとえば、Twitterで炎上しているときに、あるVTuberを守るためにブログ記事を書き残すのが、プラスになるかマイナスになるかはなんとも言えないですよね。Twitterで炎上があったということを、わざわざGoogle検索の世界に残してしまうことになるので。

――「note」にがっつりと経緯などを書き残すことが、マイナスになり得るということですか……。

河瀬:VTuberに限らず、インターネットレピュテーション全般の話ですね。拡散性と即時性の高いメディアは、実は1カ月後のGoogle検索にはあまり強くないですし、我々としてはGoogle検索にまで出てくるようなものについては、対処が本当に必要だという感覚でいます。

 Twitterについても、本当に悪質なものはどうにかします。特定の人間が情報をばらまいている場合には、その人をどうにかするしかないです。その人がTwitterにしかいない可能性もありますからね。

――Twitterの誹謗中傷問題に近しいところがありますね。

河瀬:これもVTuber特有ではなく、全般的な話になります。VTuber特有のトピックとしては、「中の人の暴露系」がありますね。実はその手の話も我々は2年くらい前から対応しています。中の人の情報が出そうになったときに、拡散される前にそれを消すという仕事です。

――中の人を秘密にしておくという傾向は業界では強いのでしょうか?

河瀬:多分2パターンあります。普通に公開している方と、秘密にしたい方。秘密にしたいのであれば、そこは守ってあげないといけないという。

――実際に担当されていた案件なども含めて、中の人の情報拡散を止めるとなると、どのようなことをされるのでしょうか?

河瀬:基本的には風評被害対策の文脈です。ネットに出ているものを消すので、どれが一次情報かを識別して、一次情報を流した人間を特定するという話になりますね。こうした情報を投稿する人は、意外にももともと一緒にチャンネル運営をしていた人だったりするケースがあります。

――内部でそういうことをする方がいらっしゃるんですね。

河瀬:元々一緒にやっていたんだけれど、途中で喧嘩別れしたパターンなどですね。

――そうしたトラブルも、大きくなるにつれてうまくいかなくなったというような、多くの人が関わるほど生じるリスクのように感じます。そうなると、既存の運営会社はもちろん、これから立ち上げる運営会社が気をつけた方がいいことは何なのでしょうか?

河瀬:「どうなったらどうなる」という話を明確にしておくことに尽きると思います。うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあるじゃないですか。ケースバイケースでの決め事をあらかじめ定めておくことで、のちのち揉めることを減らすことができます。

 4年前にVTuberを始めた人は、まさかここまで大きくなると思ってなかった人が多いと思いますし、「ファン100万人になったらどうしよう?」なんて話は酒を飲みながらするものだったと思います。でも今であれば「チャンネル登録者数100万人になるかもしれない」という話も、真顔でコーヒーを飲みながら話せると思うので、「どうなったらどうなる」についてちゃんと話し合っておくのは大事だなと。

――逆に個人運営の人が、トラブルを防ぐためにできることはありますか?

河瀬:事務所に入るか入らないかというところですかね。面倒を見てもらおうと思うなら、その分お金が取られる構造は避けられないので。ただ「何かをしたくないのでお金を渡す」というバランスがあれば大丈夫だと思います。従来の芸能でも言えますが、「自分は音楽に専念したいので、ビジネスなど面倒なことは全部事務所の人たちにやってもらう」というのは、それはそれであり得る判断ですし。

――実際、一人でうまくやっている人もいらっしゃいますね。そして確定申告の時に悲鳴を上げていたりして。

河瀬:YouTuberの事務所というものの機能が、本当に段々よくわからなくなっています。我々が書くような事務所の契約書って、古典的には事務所とタレントの関係性はいわゆる包括的マネージメント契約みたいなイメージだったのですが、YouTuber・VTuber事務所は動画編集のような制作機能や広告代理店機能、あるいは確定申告といったものを代行してくれる、そういう存在になりつつあるのかなと思います。

 クリエイティブ作業や確定申告はもちろん、広告代理店機能についても、自分で案件を取れる人は事務所なんて不要ですからね。そもそも、案件を取るにしたって、チャンネルの概要欄にメールアドレスを書いておけば向こうから連絡がくるので、別にそこまで営業する必要もないんです。そうなると、事務所の機能とはなんだろうという話になる。

――たしかに、新人を育成するのではなく、もともと強い個人が所属する事務所というのはYouTuberにも見られますね。

河瀬:ただVTuberの場合、いくつかパターンがありますけど、その事務所がプラットフォームみたいなポジションというケースもありますね。ある会社がローンチしているシステムを使うと簡単にVTuberになれるよと言って、そこにぶら下がるVTuberのパターンもありますから。そうした事情もあるので、YouTuberよりも一段階複雑化しているかと思います。

――そしてYouTuberと違ってVTuberだと、アバターの権利や契約形態などから、事務所の移籍も難しいですね。そこから本人の「縛られている」という感覚も一層大きそうです。一方で、事務所が解散するというタイミングで、権利ごとアバターを譲渡して放出するというケースもありますね。

河瀬:解散するのであれば会社で持っていてもしょうがないので、それは渡すんじゃないでしょうかね。解散後にも保持したアバターを、オーディションか何かのために別の人に売るという手もなくはないですけど、それだと流石に炎上しますから。

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