ライバーが“職業”になる時代。経営者ライバーたちが語るライブ配信の現在と未来

 昨今、SNSやライブ配信アプリを使いこなし、ファンと近い距離でコミュニケーションをとりながら、独自の経済圏を構築するクリエイターが注目されている。

 いわゆる“クリエイターエコノミー”が生まれている背景には、クリエイター固有の才覚を発揮しつつ、自律的に収益を上げることのできる仕組みが整ってきたからだと言えるだろう。

 こうしたムーブメントの台頭は、エンターテインメント市場の活性化や新たなクリエイター像を生み出す源泉になりうる。

 Pocochaのライバーとして活躍する傍ら、ライバー事務所の経営を行う須佐光昭氏、オンラインサロンを主宰するさあやん氏に、独自のファンダムを作るために心がけていることや、クリエイターエコノミーの未来について話を聞いた。(古田島大介)

ライブ配信と出会って変わった「人生」。天職だと思う理由とは?

ーーまずはおふたりの簡単な自己紹介と、ライバーになろうと思ったきっかけについて教えてください。

須佐光昭

須佐光昭(以下、須佐):2020年4月から「すーさん」という名前でライバー活動をしている須佐と申します。現在は、Pocochaでライブ配信と並行してHIKARI Liver Officeという事務所を立ち上げ、ライバーのマネジメント事業も手がけています。

ーー精力的に活動されていますよね。須佐さんはもともと俳優をずっとやっていたと伺っていますが、ライバーへ転身したのはどのような背景があったんですか。

須佐:大学卒業後、劇団に所属してからは10年以上、俳優活動を続けてきました。当時から思っていたのは「俳優の演技を通して、来ていただいたお客様に感動や活力を与えたい」ということでした。ただ、やはり俳優という仕事は想像以上に大変で。生活費を稼ぎながら、稽古にも通い、さらに舞台が近づけば自分の力で集客しなければならない。正直いって、僕のファンと呼べる人は1〜2名ほどしかいなかったんですよ(笑)。それでも、舞台が好きでずっと辞めずに続けてきました。転機になったのは2019年9月に、8年間所属していた劇団を辞めてフリーランスの俳優になったとき。これからは個人の時代だ、と一念発起し、個人で活動していく決心をしたんです。

ーーなるほど。ライバーになる前からフリーランスになっていたんですね。

須佐:そうなんですよ。フリーランスになってからは、ラジオ配信アプリのSpoonを始めたりと俳優以外のことにも挑戦し、自分の方向性を模索していました。そんな矢先、コロナ禍になって。予定していた舞台への出演が全てキャンセルになってしまったんです。自分の中でも焦りを感じていたときに、知人からPocochaを紹介してもらいました。「初月からそれなりにお金になるからやってみれば」と言われたので、試しに始めてみたという感じです。

ーーまずはライブ配信をやってみようという、ある種軽い気持ちから始めたと思うんですが、ライバーを継続しようと志したのはいつ頃ですか。

須佐:自分自身、最初に決めたのが「1ヶ月間は全力でやろう」ということでした。それで芽が出なかったら、やめようと。そういう思いを持って、ライブ配信を始めたんです。当初は、コロナ後の俳優活動に活きるよう、「自分の知名度アップや宣伝につながればいいかな」と思って取り組んでいましたね。配信する内容は、俳優の演技と同様にクイズやゲーム、歌を歌うなどリスナーさんを楽しませる企画を考えました。そして、1ヶ月ほど経ったある日、リスナーさんから言われた言葉がすごい胸に刺さって。

 「すーさんの配信に来れば、辛いことがあっても元気がもらえる。私にとって温かい居場所のような存在になっている」と伝えてくださったんですが、これを聞いたときに、ライブ配信でもリスナーさんに元気や笑顔を届けられるのではと悟ったんです。俳優だと舞台を観に来てくれた人にしか届けられませんが、ライブ配信であれば遠隔の人へも届けられるわけです。こうして、ライバー活動に本腰を入れるようになりました。

ーーさあやんさんは、ライバーを始める前は普通の会社員だったんですよね?

さあやん

さあやん:そうなんです。20歳の時に青森から上京し、アパレルの販売員の仕事を3年間やりました。その後は広告代理店に半年勤めたのち、今度はファッション系企業のWeb事業部でオンラインショップの運営に携わり、普通の会社員生活を送っていました。ただ、給料も薄給で不完全燃焼だったというか。このままアラサーに突入したら、将来どうなるんだろうと不安を感じていたんですね。そうしたらある日、いまの事務所であるpino liveからご連絡が来て。

ーー将来性を買われて、お声がけされたんですね。その時はどんな気持ちでしたか。

さあやん:人生で初めての経験だったので、すごく嬉しくて。それで、どんな内容か聞いてみると、Pocochaでのライブ配信という仕事だったんです。当時、ライバーというものを全然知らなかったんですが、性格的におしゃべりだし、人を笑わせることが好きだし、どこかひょうきん者な側面があったので、面白そうだと思いました。そして、2019年12月にライバー活動を始めたんですが、マネージャーに「Sランク帯(Pocochaで最高位のランク)に最速で到達するのを目指そう」と言われて。なんだかよくわからないまま、フィットネスウェアを着ておどけた配信などをやっていたら、たまたまコアファンの方々にめぐり逢えて、運良く3週間でSランク帯まで上昇したんです。

ーーおお、すごい! まさに彗星の如く現れた新星のようなデビューだったんですね。さあやんさんにとっても、願ってもない天職だったんじゃないですか。

さあやん:そうですね。自分自身、自己肯定感が低く、私の中では「ギブアンドテイク(give and take)の精神」をずっと大切にしていて。「何かをしてもらったら、それ以上にお返ししたい」という思いが人一倍強いんですよ。なので、コメントやいいねをくれたり、アイテムを送ってくれたりと、リスナーさんのリアクションに対して丁寧に感謝の念を伝えていました。また、「お金にならないギブ」を心がけており、いいねをくれたリスナーさんにイラストを描いてあげたりなど、リスナーの期待を超えるリターンを送るようにしていました。見返りを求めず、自然体で振る舞っていたところ、ファンと二人三脚の関係性を築くことができ、うまく軌道に乗せることができたんです。

現役ライバーとしてのリアルな経験がマネジメントにも活かせる

ーーおふたりの特徴として、ライバー活動だけでなく事務所の経営やオンラインサロンの運営など、ほかのライバーをサポートする立場の仕事もやられています。マネジメント、クリエイター両方の顔を持っているからこそ、苦労していることや学びになったことはありますか。

須佐:ライバーを始めて4ヶ月が経った2020年8月に、専業ライバーとしてある程度やっていけるようになりました。そして、11月には最高のS6ランクに昇格し、自分のバースデーがあったことで過去最高の盛り上がりを迎えたんですが、このまま緩やかにピークダウンしていくだろうと思っていたんです。それが、バースデーを過ぎてもランクが落ちずに継続することができたので、法人化を検討するようになりました。税理士さんに相談したところ、「ビジネスとしてやるなら法人化、保守的にやるなら個人事業主のままの方がいい」とアドバイスされて。

 ライバーは決して安定する仕事ではなく、リスクも背負う必要はあるなと感じていましたが、法人化すれば企業相手に仕事をしやすくなるだろうと思っていました。そして何より、自分がライブ配信と出会って人生が180度変わったように、同じような経験をする人は絶対にいるだろうなと。そんな人をライバーとしてサポートし、人生に寄り添って上げられるようにしたいという思いが強かったんです。そこで、2021年7月に会社を立ち上げ、10月からはライバー事務所として本格的にスタートするようになりました。

ーー事務所を運営する上で苦労した点はありますか。

須佐:実は劇団時代に広報や物販関係の仕事もやっていたんです。ただ知識も何もなく、ネットで調べながら四苦八苦してこなしていました。こうした自分をどう売っていくのか、劇団全体をどうしていくかというのは経験していたわけですが、会社経営や人のマネジメントはやったことがなく、最初は結構大変でしたね。特に、ライバーさんによって目標も異なれば、悩みも違う。何か課題にぶつかっても、人によって解決のルートが変わるので、あらかじめ心に刺さるポイントや人となり、ライブ配信をする目的をしっかり把握しておく必要があるんです。そういう意味では、やたらとマネジメントするライバーさんを増やすのではなく、自分が面倒を見られるくらいの人数に限定し、一人ひとりに向き合うよう心がけています。

ーーライバーのマネジメントで意識している点は何ですか。

須佐:週一で自分とMTGできるようにしています。ただ、マストではなく「悩んだら聞いてね」というスタンスを取っています。あとは、ライバーさんの配信を見に行き、モチベーションが落ちていないかチェックすることも習慣にしています。もし、ちょっと辛そうだと思ったら、自分からメッセージを送って状況を確認します。また、ライブ配信のTipsをまとめたコラムを書いたりと、一人ひとりバックアップできるように心がけています。

ーーさあやんさんは、現役ライバー初のオンラインサロンを開設しましたが、どのような経緯からサロンを始めようと思ったんですか。

さあやん:先ほどもお伝えしたように、私のライブ配信ではギブアンドテイクをずっと心がけていました。性別問わず媚びない姿勢でリスナーさんと接し、おもてなし精神で部屋に入ってきた人を出迎える。それは普通のリスナーさんでも、偵察に来たライバルのライバーさんでも関係なく、どんな人でも楽しく過ごしてもらおうと意識していたんです。そうしたら、私のライブ配信を気に入ってくださる方が増え、どんどん配信へ来てもらえるようになりました。さらに、同業のライバーさんからも応援してもらえるようになったんです。こうしてライブ配信を続けていくうちに、同業のライバーさんに対して何かできることはないかと考えたときに、「オンラインサロンをやってみたい」と漠然と思うようになりました。

ーー同業のライバーを支えていくために、オンラインサロンをやりたいと考えたんですね

さあやん:そうなんです。ライバー活動の2年目を迎えると、徐々に周りでもライバーを引退して、ライバーコンサルをやり始める人も出てきて。こうした状況を傍目で見ていましたが、もちろんいろんな道があって良いと思いますが、私としては内心なんか違うなと感じてしまっていました。というのも、トレンドがものすごく早いライブ配信市場において、1年や2年現役でなくなるだけで、ノウハウや知見が古くなり、あっという間に通用しなくなるのではと思っていたからです。

 なので、私は頑なにプレイヤー兼マネジメントにこだわりました。そう考えていたときに、マネージャーからオンラインサロンの打診があって。初め、事務所として独立しようか、オンラインサロンの運営から始めようかと悩みましたが、いきなり事務所を立ち上げてしまうと、これまで事務所関係なく築いてきた人間関係が崩れてしまうのではと思い、まずはオンラインサロンで「自分を信じてくれる人がどのくらい集まるか」というのを試したかった。こうして、2021年10月にサロンを開設するに至りました。

ーーサロンを開いてみて、大変だったことは?

さあやん:時間を捻出するのが大変でしたね。当初は動画コンテンツでの更新をメインに考えていて、そのコンテンツ作りに追われてしまい、自分の配信にも影響してしまって。そのため、今ではブログや企画のネタシートを主なコンテンツにしています。また、サロンをやったことで学びになったこともたくさんあって。10名限定で募集した「かぼちゃの馬車コース(現在は満員)」に入会したライバーさんと、1対1のオンライン面談を実施しているんですが、そこでは何かの解決やランクアップに導くのではなく、「壁を乗り越えられるきっかけ」を与えることを大事にしています。

 また、リスナーさんに対する愚痴や、周囲に言い出せないような悩み事などの相談に乗るように心がけています。一方で、誰にでも色々と話しすぎてしまうと、サロンとの隔たりがなくなってしまうので、その辺りの塩梅を考えるのが難しいですね。相談事を受けたとしても、「ここまでしか言えないからごめんね」と導入部分だけ教え、オンラインサロンの紹介をすることもあります。どうしても話したくなることもぐっとこらえながら、サロンでしか言えないこと、体験できない価値を意識していますね。

クリエイターエコノミーはコミュニティづくりが大切になる

ーー最近ではライバーも職業として市民権を得てきています。そんななか、ライバー自身がセルフプロデュースを行い、クリエイターエコノミーを作っていく意義や、ファンを巻き込むのに必要なマインドセットはどのようなものでしょうか。

須佐:ライブ配信で重要なのはコミュニティづくりだと思います。リスナーさんへの思いやりを持ち、迷惑な人が入ってきたときも、感情的にならずに真摯に対応する。コメント一つひとつに目を通し、丁寧に返信していく。多様性は認めつつ、自分の価値観をリスナーさんに伝えていくのが大切だと思うんです。このようなマインドセットは、劇団に所属していた頃に「愚直に、誠実に、真摯にやれ」と言われていたことで身についたと思っています。

 勝手にリスナーさんの印象や人柄を決めつけず、寄り添うようなコミュニケーションを図ることで、コミュニティの雰囲気も良くなってくる。「皆で食卓を囲む」のような感じかもしれません。また、世の中もテクニック重視から包み込むような優しさや、心の繋がりを求めている人が増えてきているので、クリエイターエコノミーはコミュニティに関わる人と良好な関係性を築くのが肝になってくるのではないでしょうか。

さあやん:自分の居場所が見つかる場所なので、配信に来たくなるような雰囲気づくりを心がけていますね。常に衝動性があるというか、配信の部屋に入ることで、活力をもらえる。何か拠りどころを探している人が入って来るような印象を持っています。私自身、ライバーとリスナーさんが「おかえり」と言えるような関係性を作れるかが大事だと思っていて。ある種スナックみたいな感覚で、気兼ねなくざっくばらんに語れるようなライブ配信を心がけています。

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