「誹謗中傷ツイートを印刷するのは辛くて……」 SNS誹謗中傷の裁判例がズラリ並ぶサイト「TOMARIGI」開発の背景を聞いた

SNS誹謗中傷の裁判例が並ぶサイト、開発の背景

共感ボタンを押す人も、押された人も癒される

――「気持ちわかるよ」「わたしは味方だよ」といったボタンが設置されていた点は秀逸でした。各ボタンはどのように決めたのですか?

西植弘氏(以下、西植氏)氏:昨今、ネット空間はどんどん本音を言えなくなっているように感じます。SNSをはじめ、質問サイトやニュースサイトのコメント欄でも、誰かの書き込みに批判的なコメントがつくなど、相手を責めるようなコミュニケーションも珍しくありません。

 もちろん、議論の場においては、そういったやりとりが重要なケースもあります。ただ、TOMARIGIでは、「傷ついた人が気持ちを書き出して心を休め、共感しあう場所」を提供することに集中し、共感ボタンだけを置くことにしました。共感ボタンを押す人も、押された人も、「このことで悩んでいるのは私だけじゃないんだ」「わかってくれる人がいるんだ」ということを実感し、心を癒せる場所を目指しました。

体験談への共感リアクション

――各ボタンもそうですが、判例が見れるのも勇気を与えますよね。

西植氏:「自分にも落ち度があったのではないか」と思いつめる被害者は多いです。また、「誹謗中傷を書いている人はごく一部」とわかっていても、やはり応援の声よりも中傷のほうが目立ってしまい、あたかも大勢に中傷されている錯覚に陥るケースもあります。そういった場合には、「似た経験をした他の人の事例」が有効です。例えば「自分が今書かれていることと似た書き込みに対し、過去に裁判所が名誉毀損と認めている」という事例があった場合、「自分は今、同じような被害にあっており、また法的対処ができる事案なのだ」という認識を持てます。自分を責めず、「自分は悪くないんだ」と前向きになれると思います。

正義感の暴走は止められるか

――ここ10年間に SNS が日常生活に浸透しました。SNSの定着についてどのようにお考えですか?

関口氏: 住んでいる場所に関係なく友達を見つけたり、発信活動ができたりなど、SNSのメリットは計り知れません。その一方で、指一本で相手が死にたくなるほどのダメージを与えうる恐ろしいツール、という見方もできます。そのツールを大した練習も勉強もしないまま、多くの人が持っている現状には強い危機感を覚えています。

――そのためにも加害者への寄り添い、学習機会の提供も重要になりそうです。

関口氏:その通りです。加害者になってしまう人を減らすことが一番重要です。実際、木村花さんの事件が起きた後、「自分のせいかもしれない」「逮捕されるのが怖い」といった加害者からの相談が急増した、という報道がありました。やってしまった人が悪いのはもちろんですが、彼らの多くは後悔しており、「匿名で書き込みをしても、特定されて裁判、逮捕などに至ることがある」と知っていたら、書き込みを思い留まった人も多いと思います。

――具体的にはどのようなアクションを提案しますか?

関口氏:加害者になる前に、SNSを始めとしたインターネットの使い方をリテラシー教育として、義務教育に取り入れるべきです。まずは小規模ではありますが、学校関係などと連携してワークショップから始める、色々な意見や気づきを与えられる機会を増やしていかなければいけません。

――とは言え、100%の悪意で誹謗中傷している加害者ばかりではなく、難しい印象があります。

関口氏:昨今、「正義感が暴走して誹謗中傷を繰り返す加害者も多い」と聞きます。「相手が間違っているのだから批判して当然」という気持ちで書き込んだその言葉が、相手への侮辱に発展するケースが増えています。そうしたことを減らすためには、やはり「こういう書き込みは誹謗中傷にあたる」という事例を、多くの人に知ってもらうことが重要です。

――最後にSNSの利用がどのように改善されることを望みますか?

関口氏:みんながSNSの利用方法について学習して、注意点に留意したうえで利用できるようになってほしいです。なにより、SNSは人とつながりコミュニケーションがとれるツールです。SNSの良い面をこれからも楽しんでいける世の中であってほしいと思います。また、SNS運営会社にも、誹謗中傷や違反行為への対策を今後も強化していただけることを望みます。

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