音楽とNFTは本当に相性が悪いのか? MUSIC3の可能性に挑む『FRIENDSHIP.DAO』から考える

「音楽は誰のものなのか」と問い直す時代が来る

ーー赤澤さんが運営しているFracton Venturesは、具体的にどのようなことを手がけているのですか。

赤澤:Fracton Venturesは設立してまだ1年ちょっとの会社ですが、Web3領域での活動を行っていることが特徴です。

 まだWeb3は社会にもあまり浸透していないわけですが、ブロックチェーン技術が登場して以降、インターネットでできることが格段に増えている。そのなかで、事業のやり方やビジネスの変化を見据え、さまざまな企業とタッグを組んだ共同事業のプロデュースや発信活動を行うほか、海外のプレイヤーともネットワークを作って事業を推進しています。

 FRIENDSHIP.の取り組みは Web3の考え方とマッチする部分が多く、各々が自立的に貢献して、全体がうまく回っていく循環を作っていくという意味で我々とも非常に相性がいいと感じています。

ーー赤澤さんは現在、多岐にわたる業界や企業とプロジェクトを進めているような状況かと思いますが、エンタメ領域の中の音楽シーンやマーケット全体を見たときにどのような所感を持っているんでしょうか。Fracton Venturesが参入する上での勝算もあれば、ぜひ教えていただければと思います。

赤澤:音楽とWeb3を掛け合わせた「MUSIC3」という表現を使うんですが、音楽には「形がなく触ることもできない価値あるもの」という認識を持っています。実際のところ、世の中には無形ながら価値を有するものは多く、これまでも音楽を含めたそういうものの取り扱いに権利が絡むことの難しさがありました。そのため、一部の人が権利を持って、いわばその人が代表して音楽の権利のマネジメントやお金の回収を行うのが、いままでのビジネスの構造だったわけですが、無形ゆえに誰かが権利をグリップしないとビジネスが回らないという背景もあったのではと考えています。しかし、ブロックチェーンが出てきたことで、無形のもの・データでさえも誰が所有しているのか証明できる環境が徐々にでき始めており、翻って「音楽ってそもそも誰のものなのか」というように問い直す時代が来るかもしれないと思っていて。

 音楽を作ったアーティストのものなのか、あるいはそれを受け取ったファンのものなのか。はたまた、全く誰のものでもないのかもしれませんが、要するにいままで音楽の楽しみがひとつだけだったのが、今後はいろんな形で音楽に触れるようになる可能性もあると考えています。アーティストが独立して音楽を作り、限られたファンに向けて届けることで小さな経済圏が生まれるだろうし、いままで通りのモデルとは異なった形になるだろうと予想しているので、音楽における常識も変化していきそうだという所感を持っています。

ーー「音楽は誰のものなのか」というのが、哲学的で非常に面白いと思いました。

赤澤:今回のプロジェクトは音楽シーンを捉えたものになりますが、データというもう少し広いところで考えてもいいですし、「データは誰のものなのか」と飛躍した解釈をしてもいいでしょう。医療データで例えてみても、医療機関がカルテという形で保存している手前、私たちは医療データを誰も自分の手元に持っていないわけです。でも、なぜ健康に関わることなのに医療機関しかデータを持っていないんだろうと思うかもしれない。ちょっと考えてみれば、データの保有にまつわる疑問点って結構周りにたくさんあるんですよ。これは音楽にも当てはまることですが、新しい音楽の流通のさせ方や楽しみ方も絶対出てくるでしょう。そこは知恵の出しどころであり、アイデアを持ち寄りながら見出していくことになると思っています。

アーティストの数だけ理想の活動がある

ーーあとは、MUSIC3という言葉がとても興味深いと感じています。Web3はここ1〜2年くらいで日本でも浸透しつつあるものの、ことMUSIC3の概念については、業界内でしか広まっていないようなイメージです。ただ、今後ストリーミングやディストリビューション、販売などあらゆるものがMUSIC3へと置き換わってくるなかで、自分ごととして理解するためにはどのような軸を持って考えておくのが良いでしょうか。

山崎:大前提としてWeb2とWeb3が共存していくという前提を持って話すと、SpotifyやYouTubeのようなWeb2のサービスはファンベースというか、アーティストの認知を広げる領域を増やしていくのが特徴になっています。このような現状を踏まえ、Web3ではアーティストとファンが直接エンゲージメントを高めていくという役割を持つだろうと考えています。なので、Web2とWeb3を分けて考えるのではなくアーティストの活動を継続させていくために、Web2だけではマネタイズできていない部分をWeb3で補完していくのが理想形だと言えます。先ほど赤澤さんが話していたように、LPやCDを収集していたものが音楽NFTやDAOといったものに切り替わっていくことで、アーティストとファンが関わる分野が広がっていき、それがまた新しいメディアになっていく。

 音楽だけで生活していくためには、大きなヒットを生み出したり、キャパシティの広いライブ会場を埋めたりしないとお金が入ってこないという問題をクリアにしなければなりませんでした。それが、Web3によってアーティストとファンが直接つながることで、一定の熱心なリスナーがいるだけで収入源を確保することができ、それによってアーティストがやりたい音楽でちゃんと活動を続けていける。こうしたWeb3で実現できる目標を目指しながら、各プレーヤーもWeb3に取り組んでいると考えています。

ーー他方で、Web3をアーティストに噛み砕いて説明していくのは大変だと感じています。概念的なものはありつつも、具体的なツールの選択や使いどころなどは、咀嚼してアーティストへ伝えていくのは難しいかもしれせん。特に現場レベルで浸透させていく上で、苦労が予想されるわけですが、タイラさんはこのあたりどのように思われていますか。

タイラ:たしかに仰る通りだと思います。逆に自分たちも、赤澤さんからいろいろと教わりながら取り組んでいることもあり、まだまだ十分な知識があるともいえません。それはそうと、ご質問いただいたことに答える前に、まずは手前の話からできればと思います。自分はFRIENDSHIP.でキュレーターをやりながらアーティストの窓口のような役割も担っているんですが、アーティスト1組ずつ打ち合わせをしながらプランニングしているんですね。なぜかというと、アーティストの数だけ理想の活動があるからなんです。成功の方程式がひとつ決まっていたら、全てをそれに当てはめればいいんですが、アーティストが大事にすることや理想の活動、何を持って幸せに感じるかなどはアーティストごとに違います。さらに掘り下げると「アーティストにとって、幸せな活動とは何なのか」、「なぜ音楽をやっているのか」というのはアーティストによって千差万別なわけです。

 既存のSpotifyやYouTubeのようなWeb2のサービスは、アーティストにおける理想の活動を達成するために、大きな力添えになっていると思う反面、ある種ひとつの価値観でしかなく、その価値観=思い描く幸せに結びつかないアーティストもいるんじゃないかと思う節があるんですね。もし、Web2的なアプローチがアーティストの思う幸せのベクトルと一致しないのならば、やはり違う選択肢があった方が、より幅広くアーティストの望む着地点に近づけるのではないかと思うんです。こうしたものを、MUSIC3を通じて実現できるよう目指していくのがいいと、現場レベルで携わる身としては考えていますね。とはいえ、「こういうことをすれば、アーティストに対してベネフィットを与えられる」という具体的な話まで落とし込むには、もうちょっと先になる。それとは別に、いますごく大事なのは、既存のWeb2のサービスがどういうものなのか、ポジティブ・ネガティブ両面からフラットに見れるようになることだと思っています。

 加えて、アーティスト向けのWeb3講習会を今後開催していく予定で、Web3時代に起きる変化や可能になること、FRIENDSHIP.DAOの理念、目標とするロードマップなどが伝えられたらと考えています。アーティストによって異なる目的や目標を、どうやったら実現させていけるか、丁寧に話していきながら取り組んでいくことが肝になってくるでしょう。

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