ヴィーガンは洗脳されやすい? Netflixドキュメンタリー『バッド・ヴィーガン』から考える

事実をドラマティックに見せるドキュメンタリー

ヴィーガンだから洗脳されたわけではない

 『バッド・ヴィーガン:サルマ・メルンガイリスの栄光と転落』の中で、サルマの一連の事件を追ったヴァニティ・フェアのアレン・サルキン記者は「そもそもヴィーガンには手相や水晶といったスピリチュアルなものを信じる人が多い」と話している。

 それは、もともと好きな人もいれば、筆者のように動物実験が背後にある薬や化粧品などの代用品として取り入れる人もいるからだろう。サルマは、若いころから風変わりな人に興味があり、不思議なものでも否定しないオープンな考えを持っていたそうだ。

 アンソニーは、サルマのオープンな考えに漬け込んだ詐欺師だった。彼女は否定から入ることが好きではなかった。だから、アンソニーが悪魔や霊的な存在を匂わしても聞く耳を持ってしまった。そして、そんなサルマに対してアンソニーは幾度となく煙に巻く発言をしたり、恐怖心を与えたりして、行動をコントロールしていった。

 洗脳されていくまでの一連の流れに、彼女がヴィーガンかどうかは関係ないと筆者は考える。たしかに、ヴィーガンは彼女を語る上で重要なファクターだが、それがすべてではない。彼女は有名レストランの経営者として日頃から運営に悩み、精神的にも金銭的にも頼りになるパートナーを求めていた。アンソニーと結婚したのは、金銭目的だ。打算的な側面もあるが、それは彼女がレストランの経営をどうにかして維持したかったからで、根っからの詐欺師だったアンソニーは、サルマより数倍も上手だったのだ。

ミスリーディングなエンディング

 『バッド・ヴィーガン ーサルマ・メルンガイリスの栄光と転落ー』は、サルマとアンソニーの電話での会話で幕を閉じる。まるでふたりがいまでも親密であるような終わり方だが、これを観たサルマは、あの電話自体は別の要件でコンタクトをとった際に録音したものであって、「ひどく誤解させる」とショックを隠せない。内容のほとんどが事実に基づいているが、ラストだけは違うと主張している。

 たしかに、あの終わり方ではサルマも率先して詐欺に加担していたように聞こえてしまうし、『バッド・ヴィーガン』というタイトルからして、サルマだけでなくヴィーガン全体のイメージをも悪くしかねない。

 本作のクリス・スミス監督は、『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』(2019年)の監督/製作や、『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』(2020年)の制作総指揮を務めた。過去作の傾向からして、事実をドラマティックに見せるのが得意なのかもしれない。そこを踏まえて、サルマ・メルンガイリスの現在の活動を掘り下げると本作をより理解できるだろう。

■配信情報
『バッド・ヴィーガン:サルマ・メルンガイリスの栄光と転落』
Netflixにて独占配信中

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