元犯罪レポーターが描くシリアルキラーの姿 Netflixドキュメンタリー『ナイト・ストーカー』の生々しさの正体
歴史に名を残す殺人鬼がいる。殺した人数だったり、殺し方だったり、独特なスタイルだったりで、人々の心に強烈なインパクトを残す。そして恐れられ、時に神格化される。ナイト・ストーカーの愛称で知られるリチャード・ラミレスもそんなひとりだ。
家に押し入り、男性なら殺し、女性なら凌辱する。老若男女がターゲットにされていたため、彼の活動範囲に住む人は眠れぬ夜を過ごした。悪魔信仰で整った外見をしていたラミレスは、逮捕後にグルーピーと呼ばれるファンがついた。テッド・バンディのように、人を惹きつける殺人者のひとりだ。
Netflixには、そんな犯罪者をテーマにしたドキュメンタリーが数多く存在するが、今回取り上げる『ナイト・ストーカー:シリアルキラー捜査録』は、シリアルキラーの人間性や生い立ち、カリスマ性などに焦点を置かず、被害者や捜査に重きを置いて、遺族がグルーピーにどんな感情を抱いたのかにも触れている。ラミレスの遺族の心の傷や、地域住民の不安にカメラを向け、当時の恐怖を生々しく伝えようとしているのだ。
犯罪を見つめ続けた監督
メガホンを取ったのは、ティラー・ラッセル監督。現在公開中の『シルクロード.comー史上最大の闇サイトー』で、麻薬売買の温床となったダークウェブの創設者であるロス・ウィリアム・ウルブリヒトの激動の18カ月を描いた人物だ。
犯罪をテーマにしたドキュメンタリーやドラマ、映画で定評があるが、それは彼が元犯罪リポーターだった所以だ。また、父親がテキサス州の地区検察局で働いていたため、子どもの頃から裁判所や刑務所、警察署に出入りしていた。いわば、幼い頃から犯罪を見つめてきたエリートなのだ。
だが、映像の世界に足を踏み入れたのは、映像を通して犯罪を減らしたいからではない。目的は「アーティストとして物語を表現すること」と、筆者が過去にインタビューしたときに語っている。だが、主人公をヒーローのように描くことはせず、美化しないと心に決めていたそうだ。たしかに、ラミレスの犯罪を華美に描くことはしていない。
子どものころから麻薬が身近だったり、ベトナム戦争経験者の従兄弟からベトナム人女性を惨殺した話を聞いたり、その従兄弟が自分の妻を殺すのを目撃したりと、ラミレスの幼少期は決して平穏ではなく、同情すべき点がたくさんある。まともに育つことは不可能だとすら思える。しかし、彼が多くの人々を手にかけた事実は変わらず、その責任は負わなければならない。本作では、事実は事実として伝え、その上で被害者の苦しみを伝えている。
メディアと捜査
元犯罪レポーターだからこその視点だろうか。『ナイト・ストーカー:シリアルキラー捜査録』には、報道と捜査の関係も描かれている。報道する側は人々に正しい情報を伝える義務があるが、警察は捜査の邪魔になると情報をできるだけ隠そうとする。犯人につながる情報が両者の駆け引きに利用されることもある。情報を求め、時には捜査の妨害だって辞さない姿勢のメディアは、まるでハイエナのようにも感じられる。しかし、そんなメディアの存在が、警察の捜査のブースターのような役割になっているのだ。
ラミレスはいくつもの管轄にまたがって殺人を犯しており、ロサンゼルスとサンフランシスコで捜査が行われていた。ナイト・ストーカーがリチャード・ラミレスであると判明し、令状を出した時点で、ロサンゼルス側は逮捕してから公表すべきだと主張した。公表すれば、ラミレスは逃亡を図り、捜査が困難になると考えたのだ。一方のサンフランシスコ側は、公表しなければ新たな殺人が起こる可能性があるだけでなく、犯人がわかったにもかかわらず警察が黙っていた事実をメディアが嗅ぎつけるリスクがあると言って公表すべきだと主張した。
最終的にサンフランシスコ側の主張が通り、同時に大規模報道が行われた。翌日には、ラミレスの顔が大々的に新聞の表紙を飾ることとなる。そして、これがラミレスを追い詰め、最終的に市民によって捕らえられた。