アーティスト・中田拓馬氏がアドビ製品に思うこと「コミュニティの力でクリエイティビティは発展していく」

アーティスト・中田拓馬氏がアドビ製品に思うこと

クリエイターが持つ門外不出の技術をオープンにするメリット

ーー中田さんは、クリエイターがコミュニティに貢献することを重要視しているそうですが、そう思ったきっかけや、理由についてお聞かせください。

中田:やはりAdobe Creative Residencyに参加したことが大きいと思っています。プログラムに参加していた他のメンバーを見渡すと、オリジナル作品を作ってはどんどん対外的に発信していたんですね。クリエイターが持つ門外不出の技術も惜しみなく、どんどん発信していくことで、それを見た人がインスピレーションを受けて新たなクリエイティブが生まれていく。人によって見えるものや感じるものは異なるので、さまざまな解釈がなされ、クリエイティブの進化におけるスピードが早まっていくのを実感したんです。

もちろん、クリエイターが自身の技術を秘匿する、いうなれば「秘伝のたれ」を隠すようなカルチャーがあることもわかりますし、それ自体は全く否定していません。ですが、あまりにそれが強すぎるとクリエイティブそのものの進化も止まってしまう感覚を抱いています。実を言うと、私も以前までは自分の技術をオープンにすることに積極的ではなかったのですが、ほかのクリエイターの方たちに広く知ってもらうことで、全然違うクリエイティブが生まれてくるのではという期待の方が高まった。それゆえ、いまは積極的に自分が持つクリエイティブの勘所や技術を広く発信するようになったんです。 

中田氏がAdobe Creative Residency期間中に開設したYoutubeチャンネル。現在はメインツールであるvvvvを中心としたチュートリアルを精力的に発信している。

 

新たな収益源の可能性を持つNFT。一方で課題も浮き彫りに

ーーNFTアートの台頭についてはどのような印象を持っていますか。

中田:アーティストがNFTへ参入することで、技術が抱えている社会課題が見えてきたというか、「技術が社会をもっと良い方向に変えられるのでは」という考えが芽生えてきたと感じています。仮想通貨が大きな環境負荷を与えていることに疑問を呈したのもアーティストたちでしたし、社会課題を解決するための道筋を示すきっかけとなるのが、アートの側面にはあるのかもしれません。ある種、鏡のような形で社会が抱える課題を映し出し、アートが先回りして世の中に提示する。直接的ではないにせよ、アートが社会課題への問いかけを生む起点になりえるのかもしれません。

ーー中田さんもNFTアートを出品していますが、その経緯と現在の状況について教えてください。

中田:Beeple(ビープル)というアーティストのデジタルアート作品が、驚愕の価格で落札されたというニュースで話題になっていた時期に、NFTアートをはじめました。それまでもNFTについては多少知っていたのですが、「これはとりあえずやってみるべきだ」と思い、2021年2月に出品しました。2021年12月に開催した個展で印刷物の作品は販売していたんですが、映像作品については管理の問題もあってなかなか売るという判断はできずにいました。

その頃に丁度NFTの動きが活発になってきたので、これは個展で展示した作品を出品してみるチャンスだなと思い、ためらわず出品したところ全て売れたんです。それ以降作品を作れていないので今は止まっていますが、何かの機会にまた出品してみようと思います。

ーーNFTの面白いと思う点や課題についてはどう思われていますか。

中田:私は映像業界の関係者と一緒にいることが多いのですが、いままではCMやMVを作ることでしか収益を立てる方法がないと感じていました。他方で、映像作家の方は常々面白い作品を作っているのに、それをお金に変える仕組みがない。こうした状況のなか、NFTが台頭してきたことで、映像作家の方がオリジナリティ溢れる作品をNFTアートして出品することで、新たな収益源になる可能性が出てきたわけです。マスには刺さらないけど、クリエイター自身が実験的に作ってみたいものをNFTアートとして発表する流れが、今後は活発になるのではと予想しています。

ただ、NFTはまだまだ不安定な技術で、課題もあります。NFTはブロックチェーンの技術を使っていますが、作品のデータ自体にNFTが紐づいている形にはなっていないという話を、VWBLというNFTサービスを運営している紫竹さんから聞きました。サーバーから絵のデータが仮に消えてしまっても、そのサーバーには作品を保有しているという記録だけが残る仕組みになっているんですね。これは極端な話、NFTアートの所有者はどこの誰のものでもよくなってしまい、売った後に違う作品とすり替えることもできてしまう。こうした課題を改善していくことが今後求められてくるでしょう。

ーーNFTやメタバース、さらには分散型の「Web3.0」など、様々なワードが生まれ、世界的にも注目されていますが、現状NFTなどに対しては投機対象としての見方をするプレイヤーも少なくありません。この辺り、どのような所感を抱いていますか。

中田:クリエイターが、ものづくりに専念できるようなお金の流れが生まれつつあることは素晴らしいことだと思っています。一方で人の作品を出品できてしまったり、チュートリアルを真似ただけのものを自分の作品として出品できてしまったりすることには、まだまだ課題を感じます。

ーーNFT以外に、現在注目しているテクノロジーはどのようなものですか。

中田:個人的に現在期待しているテクノロジーとして、XR技術に興味を持っています。今はBASSDRUMというテクニカルディレクターが中心に集まる技術者集団に所属しているんですが、そのなかにXR SQUADというXR特化のチームがあって、そこに参加したかったこともBASSDRUMに入るひとつのきっかけになっているんです。XRを使って何か制作をしようとすると、専用の機材を揃えたりと結構なお金がかかってしまう。しかしBASSDRUMは、XRに必要なハードウェアからソフトウェアまで包括的に持っているので、トライアンドエラーを繰り返しながら制作できます。

ーー最後に、アドビ製品がさらなる進化をしていく上での要望をお聞かせください。

中田:2019年にアドビが、ニューヨークタイムズ・Twitterと連携し、コンテンツの作者の権利を守るために作った「Content Authenticity Initiative(コンテンツ認証イニシアチブ=CAI)」がとても記憶に残っています。周囲が権利関係で不利益を被る実態を見てきたこともあり、アドビみたいな会社が率先して権利を守るための仕組みを実装しようとする動きは非常にポジティブに捉えたことを覚えています。昨年に「Behance」がNFTアートの販売をサポートする仕組みを発表した際も、クリエイターの未来を見据える上で重要なNFTという技術を、アドビがサポートしてくれるのは心強かったですし、むしろ自然の流れのようにも感じました。(参考リンク:Adobe MAX 2021:アドビが推進するコンテンツ認証機能をAdobe Photoshopなどに搭載

先ほどもお伝えした、作品のデータ自体にNFTが紐づいていない状況を、アドビがテクノロジーを生かして解決を図っていくことができれば、もっとクリエイティブで面白いNFTアートが登場してくるのではないでしょうか。

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