「変わらない」ことでゲームの常識を「変える」。フロムが『エルデンリング』で貫いた、死にゲーに対する理念

『エルデンリング』と死にゲー論

 だが、本作はオープンフィールドの導入によって、プレイヤー自らがゲームから与えられる課題を解く順番や挑むタイミングをコントロールできる。疲れた際の気分転換や長期的な鍛錬が自然な形で成立し、なにより自由度が高まったぶん「ゲームオーバーになると経験値を落とすシステム」との相性が抜群に良い。まるでメトロイドヴァニアを立体化したようなそのデザインは、これまでの表現がまるで不十分であったかのように、シリーズが抱えていた欠点を打ち消すことに成功している。課題に挑戦するタイミングをコントロールできるようにしたという点から、「死にゲー」の新たな食べ方を提供したと言ってもいいだろう。

 また、本作は「オープンワールド」の系譜にある作品としても注目を集めている。オープンワールドやそれに似たシステムを採用したゲームにおいてよく問題になるのは、プレイアブルキャラクターの動かし方だ。その多くはクエストの受注と解決という手段を採用しており、その軌跡は点と点を結ぶ線を描く。「お使い」とも表現されるこの形態は、せっかく用意した広大なフィールドを活かしきれていないとしばしば評される。この問題を解決した著名作の1つといえば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』だろう。この作品はすべてのフィールドを移動可能にし、アクションの方向性が異なる選択肢を逐次豊富に提示し続ける「オープンエアー」という開発コンセプトを導入している。たとえば目的地へのルート構築ひとつとっても、山を登るか、戦闘をこなすか、泳ぐか、ステルスするかという選択肢を常にプレイヤーの視界に入れ、ゲームの進行と同時に絶えず選択を問うていく。つまりキャラクターをプレイヤーの意思で常に動かし続けさせるためのデザイン方式である。

 『エルデンリング』はこの選択肢の中身を「大量のワンオフアイテム」「大量のダンジョン」「大量のボス戦」に置き換えることでキャラクターを縦横無尽に動かす。少しフィールドを走れば限定品や大小さまざまなダンジョン、経験値をたくさん貰えるボス戦が待っている。ボス戦で詰まったらダンジョンを探して鍛錬を重ね、ダンジョンで息切れしたらフィールドを歩き回ってアイテムを収集し自己強化。他のクリアできそうなダンジョンを探してもいい。準備が整ったら再びダンジョンへ向かいボスを倒す。「探索とボス戦」という元来持っている強みを活かし、このサイクルを果てしなく続けていくのだ。

 およそ12年間「変わらない」ことで、死にゲーとしてもオープンワールド系ゲームとしても常識を「変えた」フロム・ソフトウェアと、その矛である『エルデンリング』。涓滴岩を穿つとはよく言ったものだが、初志貫徹によって磨かれたその切っ先は、まさしく無双の力を誇る。その性質ゆえ誰にでも扱える代物ではないが、コンピューターゲームの歴史に消えぬ痕跡を刻みつけることになるだろう。

©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./©2022 FromSoftware,Inc.

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