AIアーティスト・岸裕真が語る、NFTとの距離感 「曖昧なもの」に価値をつける魅力と欠点

NFTは“価値とは何か”を問う技術 変化し続けるものへの価値づけも可能に

ーー岸さんは海外でもご活躍されていますが、国内と海外でNFTへの反応の違いを感じることはありますか?

岸:AIを使ってアートを制作している海外の友人たちは、やはり環境問題への意識が高いですね。従来の仮想通貨は、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)という演算方式なんですが、彼らはテゾス(Tezos)という仮想通貨を利用していて、 より消費電力が少ないPoS(プルーフ・オブ・ステーク)方式でNFTを作っています。それらは「クリーンNFT」と名付けられているようですね。

ーーそこは国内とは大きく違う点ですね。日本ではどうしても金額の話が注目されてしまいます。アーティストの新たなマネタイズ手段が登場したという喜びが、そうさせているのかもしれません。

岸:もちろんそれは良いことだと思いつつ、せっかくNFTという面白い仕組みができたのに、日銭を稼ぐことに注力しすぎるのはもったいないと感じてしまうんですよ。後世に残るような優れた作品を制作することにも力を入れたらいいのになって。

 イギリスの現代アーティスト、ダミアン・ハーストのNFTの使い方はおもしろいと思いました。実体のあるアート作品と、そのNFTを両方用意して、購入者にどちらを買うか選ばせるんです。実物の作品を選んだらNFTは消去するし、NFTを選んだら作品は処分する。最高にNFTを皮肉っていて、「価値とはなにか?」を考えさせるクールな使い方ですね。

ーー岸さんはいま、NFTと距離をとっている状態ですが、今後どういう風に成熟したら、また戻って来たいなと考えていますか?

岸:元々僕はAIを使って作品を制作しているので、NFTとはとても相性がいいと思っています。今回の展示では実空間でやってますが、今後メタバース上で作品を展開する構想は1つあります。そのときに選択肢として考えられるかもしれません。

ーー加熱している市場が落ち着いたときに、どのようになると想像していますか?

岸:まずは、優れた作家が何人か出てくると思います。NFTだからこその表現を成し遂げるスターが出てくるはずなんです。現時点でもNFTを批評的に見ている人は少なからずいて、その人たちがスターの優れた作品を見ることで、正当な評価が下されて文化が根付いていく。いまはそのスターの登場を待っている段階ではないでしょうか。

ーーまだスターと言える方はいないのでしょうか?

岸:僕は作家で批評家的な視点は持ち合わせていないので、そこに言及する立場にはないと思いますが、たとえばカメラが最先端テクノロジーとして登場した当時、イギリスの画家のフランシス・ベーコンは、自分のパートナーがベッドに倒れ込む瞬間を写真に撮って、人の目では捉えきれない独特なポートレートを描くことに成功しました。これはカメラの技術があったからこそできた彼ならではの表現ですよね。このように、新しい技術を表現に落とし込める人が出てくるのを待っているところです。

 テクノロジーは人類とともに歩んできた、人間らしさの象徴の1つだと思うんです。その技術ならではの表現を生み出すこともまた、人間らしさですね。

ーー岸さんがそこを先導していく可能性はあるのでしょうか?

岸:NFTは後天的についてくるものですから、それを使って何かをするというよりは、僕がやりたいことを追求していく中で、NFTとの親和性が高くなってきたと思ったら採用するという順序になります。

ーーNFTが先行することはないわけですね。

岸:もし今後社会から“人間にとって1番大事な価値とは何なのか”と強く問われるのであれば、NFTを起点とした制作もするかもしれません。NFTは、「価値とは何なのか」を問う技術だと考えていますから。でも今のところプレイヤーはたくさんいそうですし、しばらくは遠くから見守るつもりです。

ーーなるほど、ありがとうございます。それでは最後に、今後岸さんが挑戦してみたいことを教えてください。

岸:変化し続ける作品を制作してみたいですね。1つの形を取らなくても、常に物としてアップデートし続けるような作品を。iPhoneがその典型例で、本体を購入すれば、ある程度の間はOSが自動で更新され続けるのと同じ感覚ですね。そしてそういう流動性の高いものも、NFTを使うと評価できるはずなんです。たとえばデジタル上に部屋を一つ作って、その中では常に僕と僕のAIが作品を制作し続けている。作品の購入者はその部屋へのアクセス権を得ることができて、ある日の夕暮れに訪れたらこんな作品になってるし、また別の日には違う風に変化しているというように、流動性が高い作品に対して、新しい鑑賞のあり方を提示することができると思います。

 いまの時代、ずっと変化し続けることは重要な価値なんです。誰かが作ったルールや決まりを変え続ける、疑い続けることはアートが取るべきスタンスであり、常に変化し続けることの尊さをNFTを通じて主張していくのは、大切なことなんじゃないかな。基本的に変化しているものって、価値づけしにくいんですよ。これまでは、たとえば油絵画家がキャンバスに絵の具を塗っているその瞬間を売ります、というようなことはなくて、作家が完成させたものを作品として販売するのが普通でしたから。本来固定しないと価値がつきにくいところを、NFTを使うことで価値がつけられる。その点は可能性に満ちていますね。

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