元犯罪レポーターが描くシリアルキラーの姿 Netflixドキュメンタリー『ナイト・ストーカー』の生々しさの正体

ハイブリストフィリア(犯罪性愛)の存在

 ラミレスを語る上で外せないのが、「ハイブリストフィリア(犯罪性愛)」という、グルーピーたちの存在だ。獄中の犯罪者に熱烈なラブレターを送ったり、獄中結婚したりする人がそれだ。彼・彼女らが犯罪者に魅了される理由は様々だが、犯罪行為を犯した人に性的魅力を感じるフェチと分類されている。

 グルーピーがいたことで最も有名な犯罪者は、テッド・バンディだろう。彼は凶悪な犯罪を犯したにもかかわらず、その甘いルックスと裁判で自己弁護するほどの知性と話術により、数多くの女性を魅了した。

 日本では、通称「附属池田小事件」の犯人である、宅間守が獄中で結婚している。彼との結婚を望んだのは、知られている限り2人。宅間の妻となった女性・A子さんは、子どものころにいじめられ、大人になってからも疎外されていると感じていたことから、同様に社会に馴染めず阻害されている犯罪者に共感して魅かれてしまうと明かしていたそうだ。また、博愛主義者で死刑執行に反対する立場でもあったため、彼を支える目的で死刑確定前に入籍している。映画『葛城事件』は「附属池田小事件」をモデルにしており、このA子さんに当たる女性も登場する。

 ハイブリストフィリアは、そのフェチゆえに社会から批判的な目を向けられる傾向がある。しかし、遺族が彼/彼女たちをどう考えているのかは、なかなか表立っては伝わってこない。『ナイト・ストーカー:シリアルキラー捜査録』では、ラミレスの裁判中に遺族がグルーピーのひとりとソファで隣り合ってしまったときの心境が語られている。グルーピーの存在によって、遺族はラミレスが投獄されても、なお苦しめられる。事件は決して終わらない。

 『ナイト・ストーカー:シリアルキラー捜査録』は、誰もが犯罪に巻き込まれる可能性があることを知らしめた。犯人のターゲットにならずとも、ある日突然遺族になることもあるし、自分が住んでいる街に犯罪者が逃げ込んでくることもある。抗えない性癖ゆえに、自らグルーピーとなって近づいてしまうこともあるかもしれない。そういった犯罪とのつながりや可能性を示唆している。そうして、視聴者に防犯意義や自分ごとと考える重要性を問いかけているのだ。こういった部分に監督の犯罪に対する捉え方が見え隠れする気がしてならない。

■作品情報
『ナイト・ストーカー:シリアルキラー捜査録』
Netflixで独占配信中

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