『東方ダンマクカグラ』特集 Vol.1 「東方音楽とクラブミュージック」
kz(livetune)×REDALiCE×まろん(IOSYS)が語り合う“東方音楽とクラブミュージック”
クラブミュージック・クラブイベントへの扉を開いてくれた「東方音楽」
ーー今回のテーマ「東方楽曲とクラブミュージック」における、皆さんの見解をお聞かせください。
REDALiCE:東方は同人のクラブイベントの原点だと言えると思います。東方アレンジが流行ったことで、クラブミュージックのリミックスアレンジをする人が増えて、イベントをやる流れが定着したのは嬉しかったですね。イベントをきっかけにリスナーがDJを始めて、その人たちがまたイベントを開催することでさらにファンが増える、といったことが日本各地で起こってたんですよ。自分も地方のイベントによく呼ばれていました。
ーー現在の傾向はどうですか?
REDALiCE:そこからイベントは多角的になって、私は最近は音ゲーメインで活動してますけど、音ゲーのクラブイベントもめちゃくちゃ多いですし、ボカロのイベントもいまだに健在ですね。
kz:“クラブは怖い”という先入観がなくなってきたのがここ10年ぐらいですよね。クラブミュージックってメロディーがあまりないこともあり、どうしても入りづらい印象があったと思うんですよ。そんなときにボーカロイドとか東方アレンジのような、メロディーが立ってるクラブミュージックみたいなものが大量に生まれて、「これだったらいけるぞ」とみんなが気づいた。好きなゲームの曲がかかっていたら、参加するハードルも下がりますよね。
まろん:東方のクラブミュージックは、いまとなっては「クラブミュージック」というジャンルに対しての入り口の1つでもありますよね。
kz:そうですね。当時のサブカルチャーのクラブ界隈にとっては、すごく大きい出来事だったと思います。あの時に大きいイベントをやったことは、間違いなく後々に響いてますね。
まろん:僕がクラブミュージック文化と出会ったのも、REDALiCEさんの楽曲なんですよ。
REDALiCE:ほんとに?
まろん:「taboo tears you up」を初めて聞いたときに、“なんだこの曲、かっこいい”と思って。そこからREDALiCEさんに行き着いて、HARDCORE TANO*Cを知って。「Songs for X Girlz」「Bright Colors」がリリースされたときのパーティーが、僕の初めてのクラブ体験でした。
REDALiCE:そうなんだ、ありがとうございます!
kz:たしかに若い世代だと、TANO*Cから入る人は多いかもしれないね。
REDALiCE:ライブイベントの運営って、いろんな問題がつきまとってしまうけど、できるだけ足を運んでもらいやすいように工夫してました。それをまろん君みたいに、見て知って、聞いてくれる人がいて、めちゃくちゃ嬉しいですね。
kz:東方はオリジナルが同人だからこそ、個人で大きいイベントを打ちやすい、というのもあるかもしれません。
REDALiCE:その辺東方は寛容で、問題が起こらなければ、二次創作をしてもいいとおっしゃってますからね。
ーー二次創作文化の拡大もあり、多くの人が原曲だけでなくアレンジを聞くような状況が生まれ、東方は10年前には想像のつかない規模感まで成長していますが、今後はどうなっていくと考えていますか?
REDALiCE:一世を風靡したとはいえ、あくまでもオタクの間で流行っている文化なわけで、まだまだ知らない人はたくさんいますからね。東方発のクリエイターが世界的に有名になるとか、そういうステップがあるといいなと思います。最近はボカロ出身で、 J-POPのトップへ躍り出た人もいますし。こういうことが東方で起こっても不思議じゃない。そうなると、俺とかまろんくんが頑張ろうぜって話になっちゃうんすけど(笑)
kz:俺はもう、「頑張って」としか言えない(笑)
まろん:10年前と比べて、オタク文化に寛容になりましたよね。昨年『ダンカグ』の PR で、新宿駅の大きなデジタル看板に「Bad Apple!!」が流れてたんですよ。あれを見た瞬間、本当に別の世界来ちゃったんじゃないかなと思いました。10年前のオタクが理想としていた未来なはずですが、何故かソワソワしちゃいます。大丈夫……?って(笑)。
REDALiCE:昔は大きいコンテンツからは一歩引いて、あくまで同人というスタンスでしたよね。最近はより東方を知ってもらう流れにシフトしつつあると感じます。
ーーゲームセンターの音ゲーでプレイできるのも驚きですもんね。音ゲーの楽曲には、どんなことが求められているんですか?
REDALiCE:音ゲーに求められているのは、曲に対する情報量だと思っています。音ゲーの曲って、短くて1分半、長くて2分半ぐらいで、その中にどれだけ情報を詰め込めるかが大事ですね。基本的には鳴ってる音を叩くゲームですから、音が鳴ってない部分にはノーツが置けないので、そうするとやはり曲としての情報を増やすしかないんです。
kz:だから16分音符で鳴らしてるんですよね。
REDALiCE:いまそれが32分とかになってるんだよ。BPM(1分間の拍数)が400とか500とか、わけのわからない領域に達していて、“すごいことをやったやつ選手権”になってますね。ここ10年くらいは特にその傾向が加速していて、1曲を作るのに、5曲分ぐらいの労力をつぎ込んでいます。
ーープレイヤーさんもそれを求めているわけですよね。
REDALiCE:うまくなっていく達成感が得られますからね。定期的に新曲が入りますが、簡単な曲だとすぐフルコンできてしまうから、僕らもそう簡単にはフルコンさせないぞと。ただどうしても歌物だと難しくするには限度がありますから、1曲にギュッと凝縮する形になります。そのあたりは東方アレンジとも親和性があると思っています。
ーーREDALiCEさんは『ダンカグ』に描き下ろし楽曲やアレンジ楽曲を提供されていますが、音楽ゲーム的な情報量を意識して作り方をしているのでしょうか?
REDALiCE:自分が音楽ゲームに楽曲を提供するときには、必ず難易度を聞くようにしています。たとえば10段階の難易度があるゲームだったら、今回作る曲の難易度を聞いて、10だったら気合いを入れて10で作るって決めています。
kz:その結果、5曲ぐらいの労力を凝縮した曲になるんですね。
ーーちなみに昨年のクリスマスソング「Christmas Bomb!!」はどうでした?
REDALiCE:あれはテクニックよりは、ボーカルの良さを引き出そうというコンセプトで制作しました。まろんくんが歌詞を手がけています。
まろん:クリスマスがテーマのキャラクターソングというオーダーで。鬼人正邪というキャラクターとクリスマスをいかにうまくかけ合わせて音楽に落とし込むかが鍵でしたね。綿密に打ち合わせをして、試行錯誤して作ったので、おもしろい曲ができました。
REDALiCE:はちゃめちゃな曲になりましたね。
まろん:『ダンカグ』の推し曲ランキングでもTOP10入りしましたよね。
kz:既存の人気曲が上に来るイメージがあるのに、すごいね。
REDALiCE:『ダンカグ』は特に人気曲が強いですからね。オリジナルの描き下ろし曲にはどういう反応があるんだろうと、戦々恐々としていました。
kz:10年ものの伝説曲と肩を並べると考えると、ちょっとプレッシャーですよね。
REDALiCE:そうですね。でも新規ユーザーさんも増えているし、既存の曲だけがずっと上位なのはもったいない気がするからね。せっかくだったら、クリエイターさんの今の音を聞きたいという声もきっとあると思います。
kz:ユーザー層が入れ替わってるからこそ、新しいものを受け入れてくれる土壌ができてますもんね。今までの流れを知らない人たちも入ってきてるから、新規曲が人気になることも十分にあって、それはすごく健全ですよね。新陳代謝があるのはカルチャーにとってすごく大事。10年前の曲がずっと人気なジャンルって、それはもう死んでるようなものだから。
REDALiCE:『ダンカグ』は、若い子が多いイメージがありますね。