意外とわかっていないテクノロジー用語解説

『5G』が掲げる野心的な目標 最新通信規格に向けられる期待

 テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。

 本連載はこうした用語の解説記事だ。第5回は「5G」について。携帯電話の新しい回線規格として普及しはじめた5Gだが、4Gまでと違って、単なる高速化のためだけの規格ではない面もある。謎の多い5Gについて紹介しよう。

 新しい通信規格として、日本では2020年から普及が始まった「5G」。何やら最新の通信規格ということはうっすらわかったが、どんなものなのかはっきり説明できる人は、実は業界関係者でも案外少ないかもしれない。

 5Gとは「第5世代(5th Generation)移動通信システム」のことを指す単語だ。ということは第4世代以前もあるわけで、第4世代がそれまで主流だった「LTE」およびその派生技術である「LTE-Advanced」、第3世代が「CDMA」、第2世代が「PDC」、第1世代がアナログ通信方式(FDD-FDMA-FM)。派生規格を含めるともっと細かく分かれるのだが、大まかにこのような世代だと考えていい。

 ちなみに1Gと2Gはもうサービスが終了しており、3Gもauが今年3月にサービス終了するのを皮切りに、各社サービス終了に向かっている。現在は4Gが主流を占める中で、5Gへと移行しつつある状況だ。

 通信速度で見ると、1Gではそもそもデータ通信自体がほとんどできず、2Gでようやく64Kbps前後。それが3Gで1Mbps〜20Mbps台まで上がり、LTE(当初は3.9Gと呼ばれた)で100Mbpsの大台に乗るようになる。その後はLTE-Advancedによって1Gbps超えを果たしている。

 では、5Gでは何が変わるのか?

 5Gでは単なる高速化だけでなく、大きく3つの目標が立てられている。それが「高速大容量」「高信頼低遅延」「多数同時接続」だ。

 「高速大容量」については、非常にわかりやすい指針でもあり、現在すでにその恩恵に預かれる。5Gでは従来の4Gよりも高い周波数帯や広い周波数帯を使って、目標としては現在の20倍程度、最大で20Gbpsという超高速通信を実現する(現在の4Gは1Gbps前後)。

 ただし、周波数が高くなると利用できる距離が短くなるため、超高速通信を可能にする高周波数帯のサービスでは、1つの基地局がカバーできるエリアが極めて限られた範囲になる。例えばNTTドコモで現在利用できる5Gサービスのうち、単独では最も高速(下り4.1Gbps)な28GHz帯の「ミリ波」が利用できるのはドコモショップ内のみ。今後エリアが広がったとしても、同様に屋内施設の限られた場所のみ、といった運用になると思われる。

 「高信頼低遅延」については、4Gの遅延が最短で10ミリ秒(=0.01秒)であるのに対し、5Gでは1ミリ秒(=0.001秒)をターゲットにしている。これによってほぼリアルタイムでの通信が可能になるため、ロボットや乗り物の遠隔操作が安全に行えるようになる。

 「多数同時接続」については、IoT機器などが直接5Gに接続されることを想定し、基地局1つに接続できる機器の数を現在の約十倍(1平方kmあたり約100万台)に増やすことが目標とされている。

 5Gが掲げる目標は非常に野心的ではあるが、場合によってはすべてを同時に満たす必要はない。例えば通信速度や低遅延の必要がないIoTには、同時接続数だけを高めたネットワークを、リアルタイム性が要求されるドローンの遠隔操作では高信頼性と低遅延を重視したネットワークを……というように、目的に合わせてネットワークを分割する「スライシング」という技術も使用される。これによって柔軟なネットワーク設計が可能になるのも、5Gの目標の一つだ。

 現在はまだ5Gの普及初期段階に過ぎず、5Gの真価が発揮されるようになるには、まだ数年はかかるだろう。まずは4Gから5Gへの移行期間をじっくり味わいつつ、将来を楽しみに待っておきたい。

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