マイクロソフトのブリザード買収。その裏にある思惑と今後の展開は?

 1月18日、米・マイクロソフトがアクティビジョン・ブリザードとの買収合意を明らかにした。

 『Xbox』プラットフォームの開発・発売元であり、世界のゲーム市場でも有数の企業である同社。多くの人気シリーズ・タイトルを抱えるアクティビジョン・ブリザードの買収は、どのような意味合いを持つのだろうか。背景にあるマイクロソフトの思惑と、今後の展開を考える。

買収されたアクティビジョン・ブリザードとは

公開トレーラー | Call of Duty®: Vanguard

 アクティビジョン・ブリザードは、米・サンタモニカに本社を構えるソフトウェア開発会社だ。2008年、同じくアメリカでソフトウェアを開発していたアクティビジョンと、フランスのパブリッシャー・ヴィヴェンディ・ゲームズが合併し、設立された。代表作には、『上海』、『クラッシュ・バンディクー』シリーズ、『コール オブ デューティ』シリーズ、『Destiny』シリーズ、『ウォークラフト』シリーズ、『ディアブロ』シリーズ、『スタークラフト』シリーズ、『ハースストーン』、『オーバーウォッチ』シリーズなど、ざっと挙げただけでも名だたる人気タイトル・シリーズが並ぶ(※)。2021年のゲーム市場における収益ランキングでは世界第5位の約81億ドル(参考:https://www.alltopeverything.com/top-10-biggest-video-game-companies/)。同ランキングの上位には、ソニー(1位)や任天堂(3位)、マイクロソフト(4位)といったプラットフォーマーもランクインしているため、ソフトウェアのみの収益ではさらに大きなシェアを占めていることになる。2015年には、東京・恵比寿に日本法人も設立された。
※発売元となった作品・アクティビジョン時代の作品も含む。

買収額は約8兆円。莫大なコストの裏にあるマイクロソフトの思惑

Minecraft: Nintendo Switch Edition ローンチ トレーラー

 マイクロソフトの発表によると、今回の買収額は約687億ドル(約8兆円)だという。これは、アクティビジョン・ブリザードの年間収益の8倍以上にあたる数字だ。この買収により同社は、ゲーム分野だけで年間200億ドル規模の収益(単純合算)をあげる企業となる。上述のランキングで2位に位置するテンセントグループの収益は約140億円。つまり、マイクロソフトがテンセントを抜き、ソニー(250億ドル)に次いで2位の年間収益を上げる企業になるというわけだ。

 同社がソニーやテンセント、さらには任天堂といったライバルに対抗していくためには、『Xbox』『Minecraft』などと並ぶ、軸となるようなコンテンツが不可欠だった。たとえば、ソニー・任天堂なら『PlayStation』『Nintendo Switch』のプラットフォームと、それを取り巻く経済圏、テンセントなら『League of Legends』『王者栄耀』『PUBG MOBILE』といったタイトルなどだ。今後はマイクロソフトのコンテンツラインアップに、上述のアクティビジョン・ブリザードの代表作が加わることになる。名実ともに上位陣と比肩しうる、“ゲーム業界の四天王”のうちのひとつのような存在となっていくだろう。

 その先に見据えるのは、新たな市場での覇権に違いない。提供開始以来、好評を博す『Xbox』プラットフォームのサブスクリプションサービス『Xbox Game Pass』に、アクティビジョン・ブリザードの抱える人気タイトルが加われば、さらに加入者は増え続け、一人勝ちも時間の問題となるだろう。マイクロソフトでゲーム部門の責任者を務めるフィル・スペンサー氏は同日、自社の公式ブログ「Xbox Wire」にて、アクティビジョン・ブリザードのタイトルを今後可能なかぎり『Xbox Game Pass』に追加していく方針を明らかにしている(参考:https://news.xbox.com/en-us/2022/01/18/welcoming-activision-blizzard-to-microsoft-gaming/)。同氏によると、『Xbox Game Pass』の加入者数は2022年1月18日時点で、全世界に2,500万人いるという。先に述べたゲーム市場におけるマイクロソフトブランドの確立とあわせ、この数字の大幅増、継続的収入の増加につながるのであれば、同社にとっては約8兆円も高くない金額だったのではないだろうか。

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