にじさんじ・卯月コウ、ゼロ年代オタク趣味全開の配信スタイルに覗く“誇りと信念”
こうして見てみると分かるように、卯月コウはまごうことなくアキバカルチャーに染まり切ったマニアであり、ひと昔前のオタク像を良い意味で引きずった人間である。アニメ・美少女ゲーム・マンガ作品に一家言ある方ならば、彼の配信を楽しめるだろう。
雑談配信はコメント欄から面白そうなものを選びとって対話するように進めるスタイルで、ラジオ的というよりかは友人との対話のよう。「トークテーマ」を特に決めていないこともあり、無言になって会話の糸口を探すような瞬間も頻発する。
これに加えて、自分の価値観に強いプライドをもっていることもうかがい知れる。彼の配信では時折「陰キャ」「陽キャ」「オタク」「メジャー」といった言葉によって、「あいつら」と「オレら」という線引きについて語られる。大人になっていくことへの怖れや反抗心、自分の感性にあわない状況や経験をあげて、「オレはああいうのダメなんだよね」と言葉にすることも少なくない。
インターネットミームや世の中で話題となっている事柄に紐づけた話題で雑談を沸かすこともあれば、動画のネタにしたりサムネイルで表現してみせるなど、アイロニーとシニカルを滲ませながら、彼は自身のセンスを押し出してきた。
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暗に集団やグループとの距離感を示し、「やつらと自分は違う」と知らせようとアウトサイダーに振る舞うのは、「自分はいまどのような存在か?」「なにを好きでいたのか?」というアイデンティティに自覚的な彼らしい姿だともいえそうだ。
こういった振る舞いを見てきたにじさんじの同僚らやファンも彼の気質には一目置き、そのクセの強さは随一。100人以上いるにじさんじのなかでも「孤高」で「独特」な存在であり、端的に言ってしまえば「めんどくさいオタク」そのものにも見えるだろう。
だがそんな姿は、リスナーと膝と膝を突き合わせて本音でぶつかっていこうという真っすぐさの表れでもあり、いつかどこかで知り合ったオタク友達のような親近感をも感じさせてくれる。
自身のアイデンティティとして強固に信じていたフィロソフィーや、サブカルチャーに毒されたがゆえの逆張り精神、ヒネくれた感性を隠すことなくストレートにぶつける卯月コウ。そういった姿勢は心無いコメントで否定されかねず、配信する側が心を痛める危険性も伴う、実はリスキーな活動姿勢である。
それでも、「自分が好きなものをしっかりと語る」「言いたいことをキッチリと言う」というストリーマー像を立て、自分をごまかすことなく数年以上活動を続けてきた。2018年8月10日に配信された「卯月軍団、エモグランプリ」では、匿名メッセージサービスのマシュマロを活用。「自分は報われてこなかった」「抱えきれない不安を持っている」と感じるリスナーからの経験談や一種の妬みも集まる中で、彼はひとつひとつに向き合っていた。
卯月軍団、エモグランプリ
そんな彼のリアリティが、ファンを集める強い求心力になっているのもたしか。「オタク」として忘れてはいけないメンタリティをいまだに持ち続けるその姿は、さながらカルトヒーローのようだ。
たしかにこの1年でポップかつメジャーなシーンへと少しずつ近づきつつあるにじさんじではあるが、彼のようなトガったメンタリティを押し出した配信でリスナーのシンパシーを多く呼び起こすスタイル、それは月ノ美兎を筆頭にしたにじさんじが大事にしているコアな部分ではないだろうか。
そんな彼だからこそ、多くの人の目をみるような場所に出てくること自体がすでに大きな話題を呼ぶ。2021年には『Apex Legends』のカジュアル大会『VTuber最協決定戦 SEASON3』に参加、自身の配信ではプレイする機会も少なかったなかでの参加ということでにじさんじライバーやファンにも驚かれるなか、本大会では白雪レイド・英リサとともに2位となったのは最たる例だろう。
2020年12月16日には3Dボディのお披露目を配信し、一番のコンビ相手でもある魔界ノりりむと共に配信を盛り上げた。それから約1年以上を経て、彼は初めて観客を前にしたライブに出演することになった。
ロックバンド好きでもある彼にとって、念願の初ライブが1万人以上を収容するアリーナライブというのは心躍るものになるだろうか。いったいどんな選曲をしてくるのか? そういった視点でも楽しみつつ、彼のパフォーマンスに注目しよう。