圧倒的なトーク力と等身大の音楽性 にじさんじ・夢追翔の足跡とこれから

にじさんじ・夢追翔の足跡とこれから

 バラエティ向けなタレントを持ちながらも、夢追が追求するのはあくまでミュージシャンとしての姿だ。

 デビューしてから2021年現在まで、YouTubeに7つのオリジナル楽曲動画を投稿、積極的に楽曲をリリースしてきた。2021年7月には9曲入りのフルアルバム『絵空事に生きる』を配信リリースし、リスナーに届けた。

 デビュー投稿となった「死にたくないから生きている」から「弱きに寄り添う」「人より上手に」といった楽曲群に見えるのは、平々凡々たる自分の弱さ、その弱さと面と向かいあい、なにかを肯定したり赦したりすることに慣れない姿、それでももがくように生きていこうとする姿だ。

 彼はこれまでにも「自分をさらけだす」ことを試みてきた。以前には「生活音垂れ流し」として自分の生活をそのまま生配信したこともあるし、自身の3Dお披露目配信でも「生活感」を表現している。

【生活音垂れ流し】とあるバーチャルシンガーソングライターの日常【にじさんじ/夢追翔】

 こういったアクションや視座は、先に挙げた即興を含んだこれまでの配信だけではなく、配信者として、生配信をトラブルも含めた「リアリティショー」だと考えていること、シンガーソングライターとして葛藤や快感といった情動を封じ込めることを生業にすることなど、彼の活動姿勢・方針として受け取れるだろう。

 今年筆者がインタビューした方のなかに、精神科医の名越康文さんがいる。大阪府立精神医療センター(現:大阪精神医療センター)精神科救急病棟で責任者などを勤め、テレビ番組のコメンテーターを皮切りに、雑誌連載、映画・漫画・ゲーム作品の評論や分析、また多くの著書を通し、多くの悩める人々にアドバイスと教訓を教え続けてきた。

 氏との対話のなかで話題にあがったのは、「現代に生きる方々にとっての精神的な豊かさ」についてだ。「精神的な豊かさを得るには、自分とうまく対話し、自分の心の声を聞けるということが大事だ」ということ。それは学校の勉強では教えてもらえず、大概の人にとっては得てして難しく、相応の技術や時間が必要になってくるとも名越氏は語った。

 自分との対話がうまくいかないままに閉塞感をもつ人々が多くなり、葛藤する人が年齢と関係なく生まれていく。それは夢追翔の音楽が描く情動とどこか被ってみえる。

 2020年8月に出演した『にじさんじ AR STAGE "LIGHT UP TONES"』では、自身の3Dモデルを2体出現させ、「もう一人の自分を見つけ、問いかけていく」というようなパフォーマンスを披露した。彼は「弱い自分との対話」を繰り返しながらもタフに生きていこうとする情動を描いている。それもマッチョな力強さを伴ったサウンドや言葉遣いではなく、毒と誠実さを使い分けながら丁寧に、だ。

 デビューして以降、彼は常に「バーチャルの垣根を超えた一人のアーティストとして大勢の人に認められること」を目標に掲げてきた。緑仙、加賀美ハヤト、ジョー・力一など、周りには同じような才能を持ち合わせた存在が何人もいるなかで、着実に進めてきた表現のその先ーー 4th Anniversary LIVEから地続きの場所には、彼の求めているものがきっと待っているはずだ。

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