圧倒的なトーク力と等身大の音楽性 にじさんじ・夢追翔の足跡とこれから
2022年1月22日と23日の2日間に渡って開催されるライブイベント『にじさんじ 4th Anniversary LIVE 「FANTASIA」』。にじさんじに所属するバーチャルタレント男女16名が織りなすライブイベントだ。ぴあアリーナMMで開催予定で、2022年が始まっていきなりの大型イベントとなる。
イベント出演者にスポットをあてて執筆してきた本連載では、これまで加賀美ハヤト、夜見れなをピックアップしてきた。今回は夢を追い続けるバーチャルシンガーソングライター・夢追翔について書いていこうと思う。
夢追はにじさんじSEEDs2期生の第3弾として、2018年9月25日にオリジナル楽曲「死にたくないから生きている」を投稿してデビューを飾った。以後、音楽をメインに据えた企画を多く配信している。
夢追翔 MV「死にたくないから生きている」(Kakeru Yumeoi - Dying To Live)
同期デビューの町田ちまや黒井しば、個人VTuberとして活動しているぴろぱるやあくまのゴートらと共に、アコギの弾き語りを中心にカバーソングを歌ったり、リスナーがTwitterやコメントに投稿した言葉から歌詞を組み合わせてその場で曲を作るなど、即興性に溢れたセッション(生放送)を行うように。当初から配信内容やスタイルに「音楽的側面」を持ち込んでいたことは、ひとつの個性として際立っていた。
その後は彼のトーク力、もう少しいえば「司会力」へと注目が集まることになる。2019年2月3日に公式チャンネルで配信された「2月3日を「にじさんじの日」ってことにしました。」に司会役として起用されると、5月12日に放送された「にじさんじ格付けチェック」でも司会として登場した。
月ノ美兎、樋口楓、叶、舞元啓介、鷹宮リオン、花畑チャイカら14人のゲスト出演者、もとい“悪ふざけの天才たち”をうまく台本に沿って回し、タイムキープしつつ強烈なツッコミで場をいなしていく流れは素晴らしく、特に月ノ美兎とのイジリとツッコミの応酬で浮かび上がった「月ノ美兎を後輩がイジっていく」というバラエティ的構図は、当時のにじさんじファンに鮮烈な印象を与えた。
現在ではにじさんじ公式によって多くのバラエティ番組が制作されているわけだが、まさに「YouTubeで見られるテレビのようなバラエティ番組」としてのプロトタイプをこの配信で見ることができる。TV番組にも劣らない面白空間を名所に数えるファンも多く、現在までに再生数100万回を超える動画となった。
にじさんじ格付けチェック
夢追の力量を雑談力・トーク力が高いと一言で表現するのは簡単だが、情報を整理して分かりやすく伝えるために話題を起承転結の流れに落とし込み、多彩なボキャブラリから最適な言葉を選んで、面白くリスナーに届けていく、という行為にはセンスが求められる。状況を正確に捉えた言葉を選ぶのか、メタファーを駆使するのか、冷静かつ落ち着いたトーンで話すのか、あるいは音が割れるくらいの声量とハイテンションで話し出すのかなど、雑談・トークといっても実に多くの選択が問われ、そこに個性がにじみ出てくる。
夢追のトークスタイルは冷静かつ自然なトーンで進められ、話題となった出来事・状況を正確に捉えたうえでツッコミを入れていくタイプだ。出演者の些細な動きや機微をも見逃さず、止めどなく言葉を運んでいくトークには、夢追のユニークな目線と技術が伺える。
そんなトーク力を活かし、公式企画やコラボ企画では中心となって会話を進めていくのだ。にじさんじファンのなかだけではなく、にじさんじライバーに親しい個人VTuberらのなかでも話題にあがり、嫉妬のような視線を送られることもしばしばあるほど。
また彼の的確なツッコミの背景には、さまざまな出自を持つ出演者に寄り添える豊富な知識と、一般常識に根ざした堅実な立ち回りが見えてくる。
医療関係の職に従事しているという健屋花那との雑談では、彼女に合わせ「ちゃんと酸化還元滴定して、クロマトグラフィーを使って中にある化合物を同定していかないといけないよ」と理系な内容で返事したり、年末に飲酒雑談をしている最中には「血中アルコール濃度の変化によって人体にどんな影響が訪れるか」を語りだし、遺伝子と分解酵素の関係からアルコールの加水分解までの流れをしっかりとレクチャー。
ゲーム配信中に表示される英語の説明文やオブジェクトもすぐに読解し、海外からのコメントにも咄嗟に返事をするなど、文理にまたがった知識を披露する場面が見受けられる。こうした知性と常識への理解が、彼を「常識人」「市井の人間」というポジションに座することに役立ったといえるだろう。