『Arcane』の成功はNetflixにとって福音となるかーーIP活用の今後を占う

 映像配信業界の動きが何かと慌しい1年だった。

 コロナ禍で世界的に映画館の運営がままならず、配信の需要が増大したことから、世界の映像業界全体の勢力図が大きく塗り替わろうとしており、配信市場の競争も過酷さを増している。

 そんな中、最大手のNetflixが次なる一手を打ち込んできている。今年の7月、Netflixがゲーム関連事業へ進出すると報道され、実際に11月にはゲームをリリースした(欧州の一部の国では9月に先行で配信が開始された)。さらにライアットゲームスの大ヒットオンラインゲーム『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』のアニメーション作品『Arcane』を配信し、大きな成功を収めている。

 Netflixにとって、ゲーム事業への進出を果たした今年は、今後を考える上でも重要な年だったといえるだろう。Netflixはなぜゲームに進出するのか、考えてみたい。

Netflixがゲームに進出 加速するメディアミックス戦略

 Netflixは今年11月、日本でiOS・Android用ゲームアプリを5タイトルリリースした。いずれも独立したアプリとして提供されており、ダウンロードしてNetflixのアカウントでログインすれば無料で楽しめる。いずれのゲームにも追加の課金要素などはない。

 リリースされたのは、『ストレンジャー・シングス: 1984』『ストレンジャー・シングス3: ザ・ゲーム』カードブラスト』、『シューティング フープス』『ティーター』の5作品。注目タイトルは、やはりNetflixオリジナルのドラマシリーズとして人気を博した『ストレンジャー・シングス』から派生した2本のアドベンチャーゲームだろう。『ストレンジャー・シングス3: ザ・ゲーム』は、PCやPlayStation 4、Nintendo Switch向けに発売されたタイトルをスマホ用に移植したものだ。同ドラマ第3シーズンの公式ゲームという位置づけで、ストーリーもドラマと連動した内容になっている。

 これらのタイトルはいずれも無料で遊べるもので課金要素もないため、ゲームそのもので利益を出すことを目論んでいない。あくまで現Netflixユーザーに、アドオンとして楽しめるものを提供しているという形にとどまっている。

 しかしNetflixがゲームを、単なる付加サービスとだけ考えているわけではないだろう。

 今年の9月、Netflixはゲーム開発会社Night School Studioの買収を発表した。自社にゲーム制作機能を持つことは、本格的にゲーム市場へ参入する意思を示しているといっていいだろう。今後、『ストレンジャー・シングス』のように、映像とゲームにまたがるIPを創出し、メディアミックス戦略を積極的に仕掛けていく可能性は大いにある。というより、IPを映像やゲームその他のジャンルで多重活用する戦略は、エンタメ産業における定石なので、当然やるだろう。

 現在は提供タイトルも少なく、しばらくは既存のユーザへの付加サービスの意味合いが強そうだが、ゲーム分野はエンタメ産業の中でも成長著しく、今年、世界のゲーム市場規模は20兆円に達したというニュースもあった。月額会員費以外からの収入源を持たないNetflixとしては、新規会員の増加率が鈍化しても会社の成長を維持できる方法を身に着ける必要がある。

 映像コンテンツとゲームの相乗効果は高い。『Arcane』の大ヒットはそれを改めて証明しているだろう。既存のファンにとっては応援しているゲームから質の高い映像作品が生まれることはとても嬉しいし、「LoL」を知らない新規のファンを取り込む機会にもなる。これまでも映画・アニメ業界がゲーム作品を度々映像化してきたが、動画配信サービスにもその波がきている。

 Netflixの競合であるAmazon Prime Videoも、エレクトロニック・アーツが提供しているゲーム『Mass Effect』をドラマシリーズ化する可能性が報じられており、今後も動画配信サービスによるゲームの映像化は増えていくだろう。

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