Spotifyはなぜ的確な楽曲を届けてくれるのか パーソナライズ機能の責任者に聞く
音声ストリーミングサービスを複数使用していると、それぞれの特徴がよくわかってくるし、自分に合ったストリーミングサービスはなんなのかということについて考える機会にもなる。
筆者の場合、音楽だけでなくPodcastなども聴くため、Spotifyがファーストチョイスになっている。付け加えると、サービスがパーソナライズしてくれるDiscover Weeklyなどのプレイリストがしっかりと自分の趣味趣向にハマる、ということも大きい。
そんなSpotifyのパーソナライズ機能に関して、11月某日、Spotifyの担当バイスプレジデントを務めるオスカー・ストール氏に取材する機会を得た。
オスカー氏がまず話したのは、Spotifyというサービスの成り立ち。世界的に音楽の海賊版が問題になっていたことから生まれたSpotifyは、それらのイリーガルな手段から音楽を守るために「ユーザーにとって使いやすいサービス」をまず意識して設計した。最初の数年間は、個人に最適化したレコメンデーションの提供を考えているわけではなかったが、ユーザーが、自分の気分や好みや習慣をあらわすプレイリストを数多く作ったことにより、ユーザー自身が膨大な音楽カタログをあらゆる側面から整理するサポートを知らぬ間に行っていたという。
そんなスタンスを変えるきっかけとなったのが「協調フィルタリング」だという。とはいえ当時の「協調フィルタリング」は実際に音楽を聴いたり理解したりするのではなく、他の曲と一緒に表示される頻度を見ているだけだったので、精度に多少の問題がないわけではなかった。これに対しSpotifyは、ユーザーのリスニング行動におけるアーティスト同士の関連性や、そのアーティストを表現するための言葉、さらにテンポやビートなど音楽のパターンに含まれる表現しにくい要素を調査・整理し続け、その結果、「協調フィルタリング」の精度は高まり、今日に至ったという。
そんな技術が機械学習を搭載してさらに進化して生み出されたのが「Discover Weekly」だ。このアルゴリズムによるプレイリストは、検索バーや友人の推薦による個人的な音楽知識を凌駕するほど個人の好みにマッチしたお気に入りの音楽の発見を生み出し、現在ではアーティストとリスナーの新たな出会いを毎月160億以上も創り出し、世界中の多くのアーティストにとって、ストリーミング再生の重要なシェアを占めている。
パーソナライゼーションは音楽プレイリストだけではなく、Podcastにも導入されている。ユーザーは聴きたいPodcastを見つけるために、音楽に比べてかなり長い時間をかけているという。SpotifyはPodcastのパーソナライズにも大きく投資しており、最近では「Natural Language search」と「おすすめエピソード」という機能を実装した。ユーザーが検索バーに入れた単語やフレーズを含む番組やエピソードを探してくれる「Natural Language search」と、エピソード単位で興味のありそうなPodcastを提案する「おすすめエピソード」により、さらなるPodcastリスナーの拡充が狙えそうだ。
Spotifyの機械学習システムはさらなる強化を続ける。「強化学習(Reinforcement Learning)」と呼ばれるテクノロジーを使用し、今後長期的に最適化のクオリティを高めていくという。10年間かけて精度を高め、音楽やオーディオの聴き方と届け方を変革させてきたSpotifyが、次の10年間でどのように進化していくのか、非常に楽しみだ。