YOASOBI『大正浪漫』の世界観を“音のAR”で体験 ソニー「Sound AR」はどんなエンタメを生むのか
コロナ禍でライフスタイルが一変し、消費者志向の多様化が進むなか、エンターテインメント業界も新たな局面を迎えている。
パンデミックの影響から大規模なライブやフェス、イベントを行うことができなくなったことで、オンラインライブが台頭した。
さらにテクノロジーの進化に伴い、VRやMRといったXR技術を駆使したバーチャルコンテンツにも注目が集まっており、最近ではメタバース(3D仮想空間)での経済圏を創造するため、海外の大手テック企業を中心としたムーブメントも起きている。
そんななか、最新のテクノロジー技術を活用し、“現実世界に仮想世界の音が混ざり合う”という新感覚のエンターテインメントを提供するのが、ソニーが開発したアプリ「Locatone(ロケトーン)」だ。
「Sound AR」という新たな体験価値を見出しているのが特徴で、音楽や街の雑踏、ナレーションなどの“音”を拡張させることで、リアルとバーチャルが複合的にミックスされる世界観を生み出している。
テーマパークなどの商業施設はもちろん、街中や公園などあらゆる場所がエンタメ化できる可能性を秘めており、まさに近未来のエンターテイメント体験と言えるものになっているのだ。
そして2021年10月20日からは、YOASOBIの新曲「大正浪漫」と原作小説の物語をめぐるサウンドエンターテインメント「YOASOBI SOUND WALK」を東京・銀座にて先行リリースされた。
今回は実際に、YOASOBI SOUND WALKのコンテンツを体験し、その見どころや新感覚の音体験が見出す可能性について考察する。
時空を超えた恋物語を描く「大正浪漫」の世界
YOASOBI SOUND WALKは、2021年9月15日に配信リリースされたYOASOBIの新曲「大正浪漫」と、翌16日に発売された「大正浪漫 YOASOBI『大正浪漫』原作小説」のストーリーを、街を散策しながら楽しめるサウンドエンタテインメントとなっている。
物語の登場人物は令和の時を過ごす時翔と、100年前の大正時代を生きる千代子。
ある日突然、思いがけない“出会い”は始まった。
時翔のもとに届いた不思議な手紙は、百年の時間(とき)を越えた大正時代の少女・千代子が差出人。
令和と大正という時間軸が異なる世界で生きる2人の想いを紡いだのは一通の手紙だった。
時代背景も違えば、顔も分からず、なぜ2人が接点を持ったのかもさえわからない。
まさに、不可思議な出会いから時空を超えた恋物語は始まった。
やりとりする手段は文通しかない。現代のようにメールもLINEもないゆえ、いつ返事が届くかも見当つかない。
それでも、時翔と千代子はいつしかお互いの思いを寄せ合い、恋へと落ちていく……。
「大正浪漫」の描く刹那的かつ叙情的な世界観は、自然と物語へと引き込まれていくことだろう。
物語への没入を生むSound ARの新しい体験
そんな小説の世界観が、Locatoneを使うことで実際の街でも味わえるのだ。
2021年10月20日からの東京・銀座を皮切りに、10月29日から2022年3月31日までは、札幌、名古屋、大阪、福岡の全国主要都市でも同時開催される。
筆者は銀座の地で、YOASOBI SOUND WALKの一端を体験させてもらった。
昨今、ポッドキャストやオーディオドラマへの関心も高まっているが、街歩きと音声を掛け合わせた新しい体験はどのようなものなのか。
あらかじめツアー開始に必要なデータをダウンロードしておき、まずは東京ミッドタウン日比谷へ移動(※一般リリース時は数寄屋橋交差点からスタート)。
ユーザーの位置情報と連動させた音声コンテンツを配信するLocatoneの機能により、指定のMAP上の場所に到達すると、自動で音声が流れる仕組みになっているという。
物語に登場する人物の気分に浸りながら街歩きできる
さらに「360立体音響技術」により、まるで音声が特定の場所から鳴っているような臨場感を味わえ、銀座の街の喧騒や景色と一体化した新感覚の音体験を堪能することができた。
音声コンテンツから流れる物語への没入感を深め、登場人物に思いを馳せながら街巡りを楽しめるという、複合的な要素が織り合わさって生まれるエンターテイメントは、今まで経験したことがないものだった。
また、所どころMAPの指定場所へ移動する際、筆者が歩くのに合わせて雨の中を歩く足音や「カランコロン」と下駄を履いて歩く音などが、イヤホンから聞こえる演出も印象深かった。
ユーザーの歩きやジャンプなどの身体連動に連動し、インタラクティブな体験を創出することで、物語に登場する時翔や千代子の気分に浸れるわけだ。