より具体的な表現へと踏み込むようになった、ビデオゲームにおける「事前警告」の現在

「重い題材への配慮」と「ネタバレの危険性」の間で、どのように向き合うべきか?

 こういった自発的な事前警告への取り組みが進む一方で、逆に「事前警告を出さなかった作品」に対して批判が寄せられるというケースも目立つようになっている。

 パズルゲームの名作と名高い『The Witness』にも参加したLuis Antonio氏が開発を手掛け、『Outer Wilds』や『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』といった様々な傑作を世に送り出してきたAnnapurna Interactive社がパブリッシングを務めたインタラクティブ・スリラーの『12 Minutes』(2021年8月19日発売)は、「永遠に繰り返される12分間の中で謎を解き明かす」というタイムループの設定や印象的なアートワークによってリリース前から大きな注目を集めていたタイトルである。

『12 Minutes』トレーラー映像

 本作はSteamでも「やや好評」とある程度の評価を受けており、日本国内でも様々なストリーマーが本作の実況プレイ動画を配信しているが、一方で本作を巡ってはゲーム中の描写や物語展開に対して強い不快感を抱いたプレイヤーや、メディアからの批判も少なくない。というのも、(詳細はネタバレになるため伏せておくが)本作をプレイするにあたって、プレイヤーはゲームを進める過程で明らかに問題のある行為に必ず手を染めなければならないうえ、タイムループという設定上、そのような行為を何十回も執拗に繰り返し続けることになるのである。また、本作には女性に対する暴力を含む様々な過激なシーンが存在し、それらもまた謎を解き明かすまで永遠に繰り返される。

 『12 Minutes』はESRB(米国の審査団体)のレーティングで“Mature(対象年齢17歳以上)”と判定され、暴力表現/残酷描写/過激な言葉遣い/性的描写が含まれると警告されており、「何故、本作に事前警告を入れなかったのか、そもそも検討はしたのか」というPolygon誌の取材に対して、Annapurna Interactive社はこのレーティングの存在を指摘している(※2)。だが、(実際に同作をプレイした上で)果たしてこれらの漠然とした表現のみで十分と言えるのだろうか?という疑問は拭えない。勿論、本作をプレイし、行き詰まった状況の中で「ひょっとしてこの方法か?でもこんなことをしていいのか?」と悩む瞬間や、突如として訪れる衝撃的な展開は本作をプレイする上でのある種のギミックとして機能している。だが、そのギミックが必ずしもプレイヤー全員にとってのゲームの面白さに繋がるわけではなく、むしろ強い不快感や嫌悪感を与えたり、あるいはトラウマを刺激する場合すらある。だからこそ、本作は一定の評価を得る一方で、「事前に警告を出すべきだった」という批判が寄せられる状況になっている。

 とはいえ、事前警告の存在は、前述の文章における“詳細はネタバレになるため伏せておく”という記載に象徴されるように、作品の内容のネタバレをどこまで開示するか、という問題を抱えている。だからこそ、その対応や内容についてはあくまで開発者側の裁量に委ねられるべきである。一方で、プレイヤー側からのフィードバックについても真摯に向き合うという姿勢が求められているのも確かである。特に、重い題材を扱ったテーマの作品が台頭する一方で、「トラウマ・ポルノ」(悲惨な暴力や差別の場面など、当事者にとってトラウマになるような描写を娯楽として消費している作品に対する批判として生まれた言葉)が問題視される現代では、より一層にそういった当事者の一つひとつの声と向き合うことが重要になっていくのだろう。

 2017年にNetflixで配信され、社会現象的な人気を巻き起こした『13の理由』が、シーズン1の公開後に巻き起こった議論を経て、作品の冒頭に同作が性的暴力や薬物乱用、自殺といった題材を含むことを警告する映像を追加したように事前警告を巡る議論は、ビデオゲームに限った話ではない。そして、受動的なメディアである映画やドラマとは異なり、プレイヤーが能動的に関わるという性質を持つビデオゲームにおいて同様の議論が生じることになるのも、ある種の必然的な流れであると言えるのではないだろうか。

(TOP画像=Pexelsより)

〈Source〉
※1:https://store.steampowered.com/news/app/674930/view/5328307984852608109
※2:https://www.polygon.com/22629401/twelve-minutes-content-warning-violence-women

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