繊維で充電やディスプレイ表示が可能に 繊維関連技術の進化が面白い
いまや日常生活の必需品となったスマートフォンは、定期的な充電が必要だ。家にいるときはコンセントにつないで充電し、外出中には突然の電池切れを防ぐために、ポータブルのバッテリーを持ち歩くという人が多いことだろう。最近では無線通信による充電技術も進歩しているが、近い将来にはただ携帯しているだけで充電できるようになるかもしれない。
中国の復旦大学高分子学部の彭慧勝教授率いる研究グループによる「高性能リチウムイオン電池の規模化構築」と題した研究論文が9月1日、学術誌「ネイチャー」に掲載された。この研究成果について、論文の査読者は「エネルギー貯蔵分野とウェアラブル技術分野のマイルストーン的研究」「フレキシブル電子分野のマイルストーン」と評している。
同教授の研究グループは2008年よりフレキシブル電池システムの研究を開始し、13年に新型の繊維リチウムイオン電池を開発。電子織物の電源供給の新たな道を切り開いたものの、繊維リチウムイオン電池の連続化が実用化を妨げる大きな課題になっており、これまでの電池は長くても数センチ程度だったという。
今回の研究では、正極の繊維と、高分子隔膜を覆った負極繊維を組み合わせて織り込み、そこに電解液を注入することで高性能繊維ポリマーリチウム電池の連続化を実現、開発された繊維電池は長さに比例する電池容量の獲得に成功したとのことだ。繊維電池が織り込まれたおよそ30センチ四方の布にコードを繋ぎ、それをスマートフォンに接続してみると、スマホ画面には充電中のアイコンが表示された。スマホだけでなく、タブレット端末でも充電は成功し、なおかつ繊維を折りたたんだり雑巾を絞るようにねじっても充電は途切れることなく続いた。これだけでもすごいが、さらに無線での充電が実現できればまさに画期的な発明になることは想像に難くない。
繊維リチウムイオン電池の想定用途は実に広範だ。1メートルの長さがあればスマートフォンや、心拍モニター、血中酸素モニターなどを備えるウェアブル端末に対し断続的に電源を供給することができる。折り曲げにも強く、曲げ半径1センチの折り曲げを10万回実施した後でも電池容量が80%以上を保つほか、水や圧力の環境下においても安定した性能を発揮するようである。
論文の共同第一著者である同大学の何紀卿さんは「繊維電池を使った織物と、無線充電装置を集成できれば、安全で安定したスマートフォンの無線充電ができるようになる」と語っている。
同教授のグループは3月にも発光繊維技術を使った「大面積の柔軟性ディスプレイ織物」を開発して注目を浴びた。こちらは発光活性素材を持つ高分子複合繊維と、導電性を持つ透明な高分子ゲル繊維という2種類の糸を織り込み、交差部分をドットとして発光させて、電気回路にて発光制御を行うことで織物に文字や絵を表示させることができる。