中国メーカーが、たった11分でフル充電のスマホを作る 自国で無名もアフリカで“国民的ブランド”になった伝音科技とは?
2007年にAppleがiPhoneを発表してから来年で15年を迎える。この15年の間でスマートフォンは画面の高精細化、カメラ性能の向上、各種センサーの搭載、3Gから4Gそして5Gへと通信速度の向上など、急速かつ多様な進化を遂げてきた。とどまるところを知らないスマホの進化を陰で支えているのが、バッテリー技術の向上だ。
機能性が高まるほど、より多くのバッテリーを消費するため、大容量のバッテリーを搭載する必要があるが、容量が増えればバッテリーは物理的に大きくなってしまう。そこで、省スペースでより大きな容量を積めるバッテリーの開発が進む。しかしそれだけでは不十分である。なぜなら、バッテリーの容量が増えれば既存の充電技術では充電時間がどんどん長くなってしまうからだ。寝ている間に充電が完了しないとなれば、使い勝手で大きな支障が生じる。そこで、短時間でたくさんの充電を行うことができる急速充電技術を高める取り組みも絶えず進んでいる。
充電にかかる時間は、バッテリーの容量とともに本体や充電器、ケーブルがどれだけの出力に対応しているかによって決まる。5V1Aの5Wがスタンダードな充電規格であり、今では5V2Aの10Wの急速充電に対応する機種も多い。iPhone 12は9V2.2Aの20Wにまで対応するようになっており、バッテリーが空の状態でも2時間足らずでフルチャージが完了する。
急速充電の開発に特に積極的なのが、中国メーカーだ。昨年OPPOが20V6.25Aの125Wという超高速充電技術を発表すれば、Xiaomiも80Wのワイヤレス充電技術を発表、さらに今年に入って200Wの有線、120Wのワイヤレス充電技術を公開し、4000mAhのバッテリーを持つフラッグシップ機「Mi 11 Pro」をわずか8分でフル充電することに成功したという。両者による激しい充電速度競争はまだまだこれからも続きそうだ。
そんな中、「伝音科技(トランシオン)」という中国メーカーが、160Wの有線超高速充電技術を開発しているという情報が飛び込んできた。この伝音科技というメーカーは、中国企業でありながら中国の消費者にほとんど知られていない。なぜなら、中国向けのスマホ生産販売を行っておらず、専らアフリカ市場をターゲットにしてきたからだ。他メーカーがアフリカ市場に目を向けていなかったフィーチャーフォンの時代から市場開拓に乗り出し、今やアフリカ地域では知らない人はいないほどの人気を誇るメーカーなのである。
160Wの有線充電技術は、同社の高級スマホブランド・Infinixの「Concept Phone 2021」というコンセプトスマホに搭載されているとのこと。4000mAhのバッテリーをわずか11分でフル充電するという、Xiaomiの最新技術に迫るクイックチャージ性能である。充電速度の向上にはその分一度にたくさんの電流を流す必要があり、どうしても充電中の温度が上昇するのだが、この機種はXiaomiなどの超高速充電対応機種よりも低い温度での充電を実現したという。
伝音科技はローエンド、ミドルレンジではアフリカで無類の強さを発揮している一方で、ハイエンド分野ではサムスンや同じ中国メーカーのOPPOといったライバルと激しい戦いを繰り広げている。アフリカ地域は電気が使える場所が限られているために、一度で短時間にたくさん充電できる技術に対するニーズが高いとのことで、世界トップクラスの急速充電技術を搭載したコンセプト機を世に出して「ハイエンドも強い伝音」のイメージを定着させようという狙いのようだ。
今の世の中、スマホの充電はわれわれの日常生活を思った以上に束縛している。安全性の高い超高速充電技術が今後普及することにより、生活の中で「充電」を気にする時間は格段に減ることだろう。