『遊戯王ラッシュデュエル』、なぜSwitchでリリース? 誕生の理由に感じた“KONAMIの覚悟”
『遊戯王ラッシュデュエル』はなぜ、Nintendo Switchでリリースされるのか
『遊戯王』のTCGシリーズからは2016年秋、『デュエルモンスターズ』をベースとしたAndroid/iOS向けアプリ『遊戯王デュエルリンクス』もリリースされている。サービス開始から約5年が経過してもなお、多くのプレイヤーに遊ばれ続けている、ジャンル屈指の人気タイトルだ。こうした成功例にならい、スマホゲームとして開発する選択肢もあるなかで、なぜ『遊戯王ラッシュデュエル』はNintendo Switch向けとなったのだろうか。そこには、同タイトルの誕生をめぐる経緯があると考えられる。
『遊戯王』TCGシリーズの新作として『ラッシュデュエル』が発表されたのは、2019年冬のこと。『デュエルモンスターズ』が1990年代にリリースされていることを考えると、同作は、まだ歴史の浅いTCGということになる。誕生の背景には、“本家”をめぐる「ルールの複雑化」「プレイヤーの高年齢化」があったと言われている。「新たな世代を巻き込むために『ラッシュデュエル』は開発された」とするのが、ファンの間の定説だ。
ここでいう「新たな世代」とは概ね、現在の小中学生、もしくはそれ以下の世代を指す。同作の特長でもある「シンプルでわかりやすい仕様」は、そうした世代に向けてアプローチするための、シリーズの方針転換だと言える。
そもそもCS機向け、スマホ向けのゲームでは多くの場合、ビジネスモデルに違いがある。買い切り型・遊び放題の前者、基本プレイ無料・ゲーム内課金の後者、という構図があるのは誰もが知るところだろう。課金型は、人気作品となれば継続的な収入を得られる一方で、採算の見通しが立ちにくいデメリットがある。買い切り型は、ある程度自由な価格設定が可能なため、損益分岐点を考えやすい点が特徴だ。
『遊戯王ラッシュデュエル』のメインターゲットとされる小中学生は、まだ自由にお金を使えない世代であり、モバイル端末の所有率も低い。内閣府が実施した「令和2年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、自分専用のスマートフォンを持っている割合は、小学生で41.0%、中学生で84.3%となっている。小学生に限っては、Nintendo Switchを所有する割合の方がおそらく高くなるだろう。
以上を踏まえると、課金型にしたとしても、高校生以上をターゲットとしたタイトルのようには利益を得られないリスクがある。コナミが将来性を見込む『ラッシュデュエル』の成功と定着を考えたとき、“最善”とされる選択肢がCS機でのリリースだったのではないだろうか。
現時点で明らかとなってはいないが、今後『遊戯王ラッシュデュエル』にも、ゲーム内課金の仕組みが盛り込まれる可能性はある。それでも、CS機向けのパッケージとして販売しておくことには、小さくない意味があるはずだ。
『遊戯王ラッシュデュエル』は2021年8月12日発売予定で、価格が6,600円(税込)となっている。『遊戯王』シリーズ発の最新TCGとして、『ラッシュデュエル』は浸透するだろうか。Nintendo Switchでのリリースには、成功に力を尽くそうとするコナミの覚悟が浮かび上がっている。
■結木千尋
ユウキチヒロ。多趣味なフリーライター。
執筆領域は音楽、ゲーム、グルメ、テクノロジーなど。カルチャー系を中心に幅広いジャンルで執筆をおこなう。
人当たりのいい人見知りだが、絶対に信じてもらえないタイプ。Twitter:@yuuki_chihiro