ニーア音楽のあゆみ。11年に及ぶ『NieR』と音楽の歴史を振り返る

ゲーム『NieR』の11年に及ぶ音楽の歴史

『NieR Replicant ver.1.22474487139... Original Soundtrack』(2021.4.21発売)
『NieR Re[in]carnation Original Soundtrack』(2021.4.21発売)

 まず前者。『レプリカント』用だった楽曲を、高田龍一、瀬尾祥太郎、高橋邦幸らMONACAチームがリアレンジ+新曲4曲という構成の、つまりゲームサントラではあるが、アレンジアルバムとしても機能する作品。基本的には同じ楽曲で、方向性がガラっと変わったということも無いのだが、ボーカルは全て録り直され、打ち込みだったパートも生楽器へ変更。ミックスはSIGN SOUNDの近藤圭司に依頼され、エンジニアリングで聞こえ方が全く異なる仕上がりとなった。当時のパラデータを元にミキシングだけし直すか、楽器やフレーズの追加、音色差し替えだけでも、充分バージョンアップした楽曲になったと思うのだが、岡部は全ての録り直しを指示。ボーカルまで歌い直してあると言うのだから恐れ入る。振り返るに初代発売の折、「予算がなく自社でミックス」と岡部の口から何度も聞かれた言葉を思いだす。相当のクオリティを持った完成品に見えた音楽群も、氏の中では想像以上の心残りがあったのだろう。前作から11年が経過し、各コンポーザーが積み重ねてきた経験値と外部ミキサーを得て、さらに研磨された完成品に出会えたような印象を受ける。

 一方、後者『NieR Re[in]carnation』は岡部が瀬尾祥太郎を連れて挑む完全新作である。これまで示してきた、ケルト+ポストクラシカルやはエッセンスに留め、アンビエント方向に大きくシフト。ボーカル曲も思い切ってカットされ、透明感のあるシンセサイザーや詩情ピアノによるインテリア音楽が物語を牽引していく。過去見られた大迫力のオーケストラ要素もほぼ除かれており、 薄いコーラスの切り貼りを駆使したエレクトロニカにストリングスやピアノ類を用いたダークエレガントがお目見えした。

 ディレクター横尾の「これまでのシリーズと異なる感じ」との意向はもとより、制作陣が集めたという参考楽曲、そして岡部自身もスマホ版における路線変更は視野にあったようで、ミニマリスティックなトラックが基盤に据えられた。度重なるオーケストラアレンジ作などで、一度はアコースティックな世界に立ち寄った〈ニーア〉が、ノイズ混じりのポストロックや都市型アンビエントへ鞍替えしつつもシリーズ感を崩していないのは、岡部の持つバランス感覚の見事さというより他にない。

 『ニーア レプリカント ver.1.22474487139...』に関しては、例に漏れずゲームソフト同梱特典音源が存在し、「White Snow Edition」を購入した場合にのみCDが付いてくる。これが、本編楽曲のアナザーヴァージョンとアレンジヴァージョンを2枚に渡って収録したなかなかの大作で、ポストロックバンド「明日の叙景」による男声シャウトの暗黒激情アプローチ、シンセグループ「パソコン音楽クラブ」のドラムンベース滅多打ち、2人のベーシスト川村竜、Moto Fukushimaがそれぞれ提供した洗練されたネオジャズトラックと、外部から新たな息吹をもたらしている。これが一昔前なら逸脱したように聞こえるアレンジも、熟成を経た今、それを受け止めるだけの器がゲームにも我々にも備わったように思う。

 また発売に先駆けて3月から、アミューズメント施設「タイトーステーション」にてくじ引きキャンペーンが開催されており、景品として8ビットアレンジ盤『NieR Replicant & NieR  Automata -Chiptune Arrangement Tracks-』がラインナップ。編曲陣はなんと吉岡たくと元コナミの佐々木博史だと云う。共にジャニーズ仕事で腕を振るう2人の、いわゆるファミコンサウンドの規格に収めないチップチューントラックが聞ける珍しい機会で、特にM04のスイングジャズ・ミーツ・チップトラックなどは聞きどころだ。

 以上、11年に及ぶ音楽カタログを足早にではあるが追いかけてみた。こうしてサウンドディレクター岡部が描いたニーアサウンドは、MONACAチームや外部音楽家を交え、時に挑戦的なアレンジ盤や、予算をかけたオーケストラ編成を通じて、その地平を拡大してきた。歴史あるシリーズはしばしば門外漢を遠ざける。しかし〈ニーア〉は遥かかなたに2作が発売され、今年2作が発表されたばかり。〈ニーア〉の音楽は、これからの人を歓迎する余白をまだ残している。

■井上尚昭(rps7575)
ゲーム音楽レビューサイト「電子遊戯音盤堂」管理人。共著商業誌に『ゲーム音楽ディスクガイド Diggin' In The
Discs』『同2』(ele-king books)。
他にCD『銀河伝承〈復刻盤〉』のライナーノーツ執筆、イベント登壇、WEB番組出演など。本業はサウンドデザイナー。

 

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