Spotifyがカラオケ産業に本格進出? 高まる検索技術、対抗馬となる世界・日本のサービスとは

 Spotifyが、カラオケ機能の本格的な導入のために動き出している。同社は6月23日、欧州特許庁(EPO)に対し「カラオケクエリ処理システム」に関連する特許を出願した。

Spotifyが特許出願した「カラオケクエリ処理システム」とは?

 EPOのサイト上に掲載されている出願書によると、特許は「カラオケクエリ処理システム」に関するもので、「電子デバイスはオーディオクリップを受信し、マッチングプロセスを実行する。マッチングプロセスは、オーディオクリップの少なくとも一部を複数の参照オーディオトラックと比較し、その比較に基づいてオーディオサンプルに対応する特定の参照トラックの第1部分を特定することを含む」「一致する部分を識別すると、電子デバイスは、特定の参照トラックに対応する再生用のバッキングトラック、およびバッキングトラックの初期再生位置を提供する」(オリジナル:英語)と記載されている。

 つまり、曲のタイトルやアーティストの名前を思い出せなくても、メロディーの一部だけを汲み取って希望の楽曲を認識するカラオケシステムを構築するのがSpotifyの目的のようだ。では、このような特許が、なぜ必要になるのだろうか?

 人は、記憶している楽曲を口ずさむ時、必ずしも原曲と同じキーで歌えるとは限らない。絶対音感があるのでない限り、自分が歌いやすいキーに楽曲を変調して口ずさむことがほとんどである。そのため今回の申請では、各楽曲の転調バージョンを複数用意し、Spotifyのカラオケシステムに事前に記憶させるシステム(行為?)についての許可を要求しているようだ。そうすることで、ユーザーの口ずさんだ音声を転調して再解釈するといった手間が省けるのだという。

 また出願書では、「各楽曲について、少なくとも歌詞またはコーラスが注釈されている楽曲ライブラリを事前に構成することで、カラオケシステムが各楽曲の一部分のみを使用してマッチングを実行することができ、それによってマッチング処理を簡素化する」とも説明している。こうして「名前が思い出せない楽曲」を探し出す機能に長けたサービスを提供できるようにし、他のカラオケサービスとの差別化を図るものだと考えられる。

 大手音楽ストリーミングサービスであるSpotifyは、ユーザーには到底把握しきれない量の音源をストックし、さらに、毎日世界中でリリースされる数万曲という新曲をSpotifyのライブラリに取り込んでいる。したがって、豊富なライブラリからユーザーが求める特定の楽曲を探し出して提供する機能の開発は、Spotifyにとって最優先かつ最難関な問題の一つなのだろう。

カラオケアプリ業界、国内外で有力な対抗馬は?

 Spotifyのような欧米発の大手音楽ストリーミングサービスがカラオケ機能に本格的に乗り出すというのは新しい流れのように感じるが、すでにアジア圏では、国内の大手音楽ストリーミングサービスも運営している中国の大手IT企業・Tencent(テンセント)が開発したカラオケアプリ、「WeSing(全民K歌)」が普及している。Tencentが「WeSing」をローンチしたのは、さかのぼること2014年。2020年にはユーザーの1日あたりのカラオケ録音件数が1,000万件を超え、現在、中国のオンラインカラオケユーザーの77%が「WeSing」を利用するまでになっている。

 実は、「WeSing」を運営しているTencentの子会社「Tencent Music Entertainment Group(テンセント・ミュージック)」はTencentとSpotifyの合同会社だ。そのためSpotifyは、「WeSing」の運営を通してカラオケサービスに関する知識をある程度蓄えており、この分野に関してその他の欧米音楽ストリーミングサービスより一歩先を進んでいる。将来的には、アジア圏では「WeSing」/その他地域ではSpotifyのカラオケ機能(あるいは新しいアプリのリリース?)が普及するといったことや、世界共通で使用できるカラオケアプリの開発などもありうるだろう。

 また、音楽ストリーミングサービスではないものの、欧米にもすでに人気のカラオケアプリが存在する。Yokee Music LTDが運営するカラオケアプリ「Yokee Karaoke」は、2020年の時点で月間ユーザー数が100万人を超え、1年間で50万時間以上のユーザー生成コンテンツ(UGC)を記録したという。さらに、「WeSing」などと同様に、カラオケの録音に合わせて動画を撮影し投稿する「ミュージッククリップ」機能などの提供も開始し、欧米のカラオケアプリ市場を活気づけている。

 一方日本国内では、「WeSing」がまだ利用できない。代わりに、LINE MUSICがさまざまなアップデートを通して、カラオケ機能の発展に注力しているようだ。例えば、マイク機能。SpotifyもLINE MUSICも、楽曲の歌詞を表示させると、画面の端にマイクのアイコンが現れる。このアイコンをタップすると、楽曲のリードコーラスがグッと小音に抑えられ、カラオケを楽しめる仕組みになっている点は共通している。しかし、LINE MUSICはさらに有線イヤホンを接続させることで、自分の声を聴きながらカラオケをすることができるようになっているのだ。他にも、SpotifyにはないがLINE MUSICにはある機能として、「歌詞のサイズを変更する機能」なども挙げられる。こうした動向から、LINE MUSICもカラオケ機能に目をつけて、独自に発展を図っていることがわかるだろう。また、著作権管理をきちんと行いつつ日本国内に多くのユーザーを抱えているカラオケアプリとしては、株式会社音娯時間エンターテインメント「Pokekara(ポケカラ)」も有名だ。もしかすると日本は、日本の音楽市場自体がそうであるように、カラオケサービスにおいてもその他のアジア地域や欧米市場とは別の動きをするのかもしれない。

今後の動向は

 Spotifyの今回の特許申請が実際にどう活用されるのか、そもそも申請が通るのかなどもまだわからないが、Spotifyがカラオケ機能に注力していることは明らかだ。もしSpotifyがカラオケ機能をより充実させる方向に舵を切る場合、他のサービスとの差別化をどう行うのかが注目される。「WeSing」や「Pokekara」、「Yokee Karaoke」といったカラオケ専門のアプリは、採点機能や他のユーザーとの得点競争なども楽しみの一つであり、音楽ストリーミングサービスであるSpotifyやLINE MUSICがそうした機能とどう付き合っていくのかというのも気になる点だろう。こうした動きを受け、Spotifyのほかにも、カラオケ機能の充実化に乗り出す音楽ストリーミングサービスが現れるかもしれない。

(画像はPixabayより)

参考
https://data.epo.org/publication-server/document?iDocId=6571156&iFormat=2https://www.digitalmusicnews.com/2021/06/25/spotify-karaoke-mode-coming-soon/https://musically.com/2021/05/26/yokee-karaoke-app-now-has-more-than-1m-monthly-active-users/https://ja.wikipedia.org/wiki/WeSinghttps://www.pokekara.com/#/contact

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