「ホロライブ・オルタナティブ」に感じた“本気の二次創作”の楽しさと可能性 「HOLOEARTH」などとの関連性から考える

「ホロライブ・オルタナティブ」の楽しさと可能性

 そしてもうひとつ印象的なのは、2019年の冬に開催された「コミックマーケット97」(C97)でホロライブが頒布した小冊子「HOLOEARTH CHRONICLES volume0」との繋がりだ。

 この小冊子はリアス、ヤチモト、えんがわ、まるん、さばみぞれが描き下ろしたアートブックに、野村イクミ、枢木ユウのテキストを添えたもの。ここに登場する土地・ヤマトやキョウノミヤコは、今回のティザーPVの和の世界観そのものだ。また、冊子内に白上フブキや大神ミオに加えて「謎の鬼の少女A・N」などが登場していたことを考えると、今回のティザーPV内で2人が百鬼あやめと戦う様子も、「HOLOEARTH」の延長線上にありそうだ。Twitterなどを見ると、「HOLOEARTH」にかかわったライター陣は「ホロライブ・オルタナティブ」にもかかわっているようなので、公式発信の二次創作企画が、時を経てより壮大なものに発展していったという側面があるのだろう。2019年の冬以降、国内だけでも新メンバーが多数増えているだけに、今ならよりバラエティ豊かな世界線が描けるはずだ。


 実際、今回のティザーPVには、「HOLOEARTH」にも登場した場所だけでなく、大陸西方の都市・ウェスタなどを筆頭に、いくつもの世界/時代/地域を想像させる場所が登場し、その中で様々なホロライブメンバーの「ありえたかもしれない別の姿」が描かれている。

 中でも印象的なのは、「確かに、こういう未来もあるかもしれない/あったかもしれない」と感じられるもの。たとえば、現実の世界ではコスプレ船長である宝鐘マリンが海沿いで本物の海賊のように佇むシーンや、マリンメイドでありつつも家事というよりゲームや歌が上手い湊あくあが本当にメイドの仕事をしているシーンは、ファンなら思わずニヤリとしてしまう。また、普段は仲良く配信を行なっているメンバーが戦うシーンも印象深い。PVにはFAMSの一員でもある白上フブキ、大神ミオ、百鬼あやめが戦う前述のシーンや、紫咲シオン、白銀ノエル、不知火フレアの3人が桐生ココの初配信でも登場していた彼女のドラゴンの姿と戦うシーンがあり、まさに「現実とはちょっと違う別世界」が広がっている。

 同時に、お馴染みの風景が異世界で展開される瞬間もあり、フブミオ(白上フブキ&大神ミオ)、おかころ(猫又おかゆ&戌神ころね)、ノエフレやかなココ(白銀ノエル&不知火フレア、天音かなた&桐生ココ)、ぺこみこ(兎田ぺこら&さくらみこ)などホロライブリスナーにはお馴染みのカップリングが出てくる場面はその代表例と言えそうだ。まだ登場していないメンバーも多数いるため、今後プロジェクトがどんな風に進むのかとても気になる。

 また、音楽面では、ティザーPVの主題歌「Dawn Blue」をホロライブEnglishの森カリオペ(森美声)が歌唱。作曲はLiSAの「Brave Freak Out」などの作編曲で知られる高橋浩一郎(onetrap)が、作詞はカリオペとボンジュール鈴木が手掛けている。編曲はJ-POPシーンで数々の名曲にかかわってきた鈴木Daichi秀行。楽曲全編は公開されていないため、フル尺でどうなのかは分からないが、普段は英語詞を中心に日本語詞を混ぜてラップをする森カリオペが、日本語詞中心で歌を歌っていることにもオルタナティブ的な魅力を感じる。

 とはいえ、ティザーPVの映像や音楽を含めたすべての要素の中で肝になっているのは、映像内のスマートフォン風端末に届く「Have you ever wanted to visit a place that’s a world apart? (=こことは違う場所に行きたいと思ったことはありませんか?)」という通知メッセージだろう。宛名の「Mithra」は、「契約」「約束」「盟友」などを象徴するインド/イラン神話の神を連想するもので、「まだみたことのない異世界に、みんなで行きませんか?」というメッセージが伝わってくる。ちなみに、日付として表示されている「4月1日(水)」は、山田氏と谷郷氏がTwitterでやりとりした2020年のエイプリルフールと同じものだ。

 こうしてまとめてみても、「ホロライブ・オルタナティブ」は、ありえたかもしれない世界線を無限に広げられる二次創作の楽しさを、各ジャンルのプロフェッショナルが本気で追求するプロジェクトになっている。錚々たる面々が嬉々として別世界を想像する様子は、クリエイターにとってもリスナーにとっても非常に刺激的だ。だからこそ、公式による二次創作を起点にした三次創作なども広がっていて、規約を満たした二次創作を積極的に受け入れていくVTuber文化らしい広がりも期待できそうだ。フルVer.公開時の白上フブキによる同時視聴枠では、動画を見ながらリスナーと感想を言い合ったり、深読みをしたりと、別の世界線をみんなで同時視聴するような不思議な魅力が生まれていたのも記憶に新しい。

 CEOの谷郷氏のnoteの投稿によると、「ホロライブ・オルタナティブ」は「バーチャルライブやオンラインゲームをはじめとした、所属タレントとファンの皆さんが同じ空間で楽しめる体験」のための世界観構築を進めるプロジェクトだという。そう考えると、いずれはメタバース的に仮想空間と現実とを繋げるようなコンテンツとして発展する可能性もある。

 VTuberの場合、通常のゲーム配信者やライブ配信者と大きく異なるのは、こういった領域に先んじて踏み出していけること。まだ具体的に何が生まれるのかは見当もつかないが、無限に広がる可能性の一端がこのプロジェクトでも可視化されていくとしたら、これほどワクワクすることはない。少なくとも、この「ホロライブ・オルタナティブ」は、ホロライブが様々な人々と「共創」するプロジェクトとして、グループの表現の幅を広げるようなものになりそうだ。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

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