コロナ禍で生み出された”リアル”と”デジタル”の新たな体験価値とは  ネイキッド・村松亮太郎の「SNSに縛られないクリエイティビティ」

ネイキッド・村松亮太郎インタビュー

カテゴライズせずに物事を決めつけないことが、クリエイティブの源泉

 20年以上にわたって、様々なクリエイティブを生み出し、人々を魅了してきた村松氏。

 そのアイデアの源泉は一体どこにあるのだろうか。

 「私自身、SNSをほとんどやっていないんです」

 そう語る同氏にとって、アイデアの源泉は「星を線で繋いだ“星座”のように、情報や文脈を掛け合わせて今までにないものを見つけること」にあるという。

 「SNSは便利で、瞬時に色々な情報やトレンドが手に入る。便利な時代になった一方で、表現が画一的、均一化してしまっていると感じています。もっと視野を広げて大局的に物事を捉えてみると、普遍的な伝統や歴史、学問など突き詰めれば全て本質的には一緒なんです。また、科学や宗教が違っても“ゼロ”の概念や無に対する境地は似たような解釈がされている。無から有を作り出す。あるいは名もなきものに命を吹き込むなど、何かをクリエイションするときは、固定概念にとらわれず、あえてフォルダ分けしないことを意識しています。

 ニュートラルな考えを持っていないと、決めつけて物事を考えてしまいがちになる。例えば『パンツ』と『ストッキング』や『いちご』と『大福』など、分けて考えていたらパンストやいちご大福は生まれなかった。何かと何かが掛け合わさり、接点を作ることで全く違うものが生まれる。これがアイディアの拠り所になっていると感じています」

 カテゴライズしないことを意識するようになったのも、俳優時代の原体験があったからだそうだ。

 「俳優をやっていたころ、自分のやりたい役回りが回ってこなかった。『お前はこの役がぴったりだから』とレッテルを貼られ、勝手に決めつけられるのが嫌だったんですよ。こうした背景もあって自分で映像を作るようになったんですけど、作品を通じて証明するというか、自分がやりたいことをどう伝えていくかずっと考えてきました。社名のネイキッドには『飾らない素の感覚でいる』ことを込めていて、だからこそフィルムやWeb、マッピングなど表現手段によらず、常に変化し続けられてきたんだと思います」

今後はクリエイティブの軸が二分化される

 2020年に突如として世界中を襲ったコロナ禍。多くの産業がダメージを受け、窮地に立たされた。クリエイティブ業界やエンタメ業界もまた、コロナ禍の影響でリアルでのイベントや展示の中止を余儀なくされてしまった。

 そんな状況下、ネイキッドはVRやAR技術を使った「お花見体験」や、温泉地の持つストーリーのVR映像と温泉の素をセットで楽しめる『湯にバース ばい ねいきっど』といったStayHomeならではの新しい提案を行なっている。

 「これからはライフスタイルに寄せて、どういう風にクリエイティブを持たせるかが、クリエイターとして問われる」と語る村松氏は、コロナ禍を生き抜くために工夫したことについてこう話す。

 「今後はクリエイティブの軸が二分化されると思っています。コロナになる前は『AQUARIUM BY NAKED』や『NAKED FLOWERS』、『OCEAN BY NAKED』など大規模なフォーマットで、とことん世界観を作り込み、リッチな表現を凝らしてきました。多くの人を巻き込み、たくさんの感動やドラマが生まれる一方、ひとりひとりの生活に寄り添ったクリエイティブってコロナ禍で急速に求められるようになったんですね。人間社会はいずれ仮装現実の世界に近づいていくと予想していて、ネイキッドとしてもARやVR自体のコンテンツはできていなかったのもあり、デジタルを使ってどこまで体験を研ぎ澄ませるか挑戦したかったんです」

 なかでも『湯にバース ばい ねいきっど』は、“おうち時間”の増加による巣篭もり需要にマッチし、発売2日間で完売するほど好評だったという。

温泉の素とVRゴーグル+映像がセットになった『湯にバース ばい ねいきっど』

 「日本一の星空の村と称される『長野県阿智村』のイベントや空間演出を手がけていたんですが、コロナ禍で観光客が激減して苦境に立たされていました。なんとかできないかと考えたときに、自宅で安全に楽しめるエンタメとして“VR × 入浴”なら収まりよく表現でき、面白いのでは、と思いついたんです。過去に開催した大規模な展示やイベントでは、現地に足を運んで非日常体験を味わいに行くわけですが、『日常の延長線上に、どう非日常を作り出せるか』が、今後肝になってくるでしょう。ネイキッドとしてもまだまだ未知のクリエイティブ領域なので、できるところからやっていこうと出したのが『湯にバース ばい ねいきっど』でした」

ビジネス都合に振り回されず、人の機微に触れるクリエイティブを創りたい

 この先も、未だ見通しのつかないコロナ禍。

 文化や芸術、娯楽などは不要不急と揶揄される風潮もある中、エンタメを生み出し、人々を楽しませるクリエイティブカンパニーとして今後どのような展望を描いているのだろうか。

 最後に村松氏へ伺った。

 「ビジネスの都合や合理性、便利性など、安易な発想に縛られないようにクリエイティブを生み出していきたいと思っています。人が本来感情を抱く、琴線に触れるような“美しさ”や愛でたくなるような“可愛らしさ”などは、デジタルだけでは表現できるものではありません。人の五感で感じられるものや心揺さぶるもの、感動することはロマンがあふれ、何事にも代えがたい。テクノロジーは表現のひとつとして取り入れていますが、理想はモニター内で完結しないクリエイティブを創造すること。様々な制約があろうとも、固定概念を取っ払い、多くの人を楽しませられるような取り組みをしていきたいですね」

■古田島大介
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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