「VTuber×音楽」文化を先導するバーチャルトラックメーカー・ミディに聞く“ルーツと現在地”

ミディに聞く“ルーツと現在地”

 VTuberが生まれてから間もない時から活動を始め、「VTuber×音楽」の文化を個人勢として常に先導してきたバーチャルトラックメーカーのミディ。バンドサウンドからFuture Bassなど、時代の変化とともに常に新しい音楽を追求するのが彼女の特徴だろう。

 類稀な吸収力を活かし、VTuberの可能性を常に発信する傍ら、音楽を作る楽しさをこれまでライブや配信を通して伝えてきた彼女が、楽曲制作からMVまで全て1人でこなすクリエイターとしてここまで活動してきたストーリーと、これからの展望について話を聞くことができた。(森山ド・ロ)

音楽作家としての葛藤から、VTuberとしての音楽活動へ

ーーミディさんが音楽を始めたきっかけはなんだったんですか?

ミディ:昔からゲームがすごく大好きで、その流れでゲームの音楽を作ってみたいという気持ちになったのがきっかけですね。それから実際に、音楽はどうやって作るのかと思って、人に聞いたり自分で調べてたりしていくうちに「打ち込み」というものがあるとわかったので、そこから曲を作り始めました。

ーーそこからVTuberとして音楽を始めたのはなぜですか?

ミディ:しばらくはプロの作曲家として活動してきたんですけど、それとは別に自分が作りたい音楽だけを作って発表できる場が欲しかったんです。作曲家としての活動は、案件によってはいつのまにか曲がリリースされていたり、裏方としての側面が強かったので、自分で曲を作ってる感じがしなかったところもあって。自分が表立って曲を世の中に発表してみようと思ったところから始まりました。

ーー音楽作家として作曲をしていくうえで、そんな葛藤があったんですね。

ミディ:本当に自分で曲を作ってる感じがしませんでしたから。自分がVTuberになった当時は、まだ100人くらいしかVTuberが存在していなくて。そんな中で自分にできることはなんだろうと考えたときに「音楽があるじゃないか!」と思い、曲を作って動画投稿を始めました。

ーーVTuberを始めた時に良かったことや、苦労したことはありましたか?

ミディ:自分で一から曲を作るだけでなく、MV制作も自分でやらなければならないところが大変でした。映像の知識も必要だし、モデリングもできないといけないし……と、勉強しなければならないことがかなり多く、苦労しました。

 ただ、もちろん良かった点もあって。普通の同人で音楽を発表するのと違って、VTuberだからということで聴いてくれる人がいたのはありがたかったです。作曲をやってた時は、曲の感想が直に届くことがほとんどなかったのですが、ミディという存在をみなさんにちゃんと認識してもらってからは、生放送やTwitterで感想をもらえることがすごく嬉しくなりました。

ーーVTuberは活動内容に限らず、雑談配信でファンを増やしたり、キャラクターとしての理解を深める立ち回りをすることが多いですが、そのあたりも様々なことに挑戦していますね。

ミディ:デビュー当時は喋り慣れていなかったので、色々と試行錯誤したんですけど、今ではだいぶキャラクター自身も愛してもらえてるんじゃないかと思います。音楽と同じくらいミディというキャラクターを愛して欲しいなと思っているので、毎月見た目のアップデートもしてますし。

ーー一人で様々なことをやってきたと思いますが、特に楽曲制作において意識していることがあれば教えてください

ミディ:最近は「踊れるかどうか」に重点を置いています。初期はバンドサウンドが多かったんですが、次第にクラブミュージックへ移行しました。作曲しながら自分がノリノリになれないと楽しくないかなと思ったのと、考えてみれば「良い曲」って必然的に体が動いてしまうなと感じたので、最近はそういう「踊れる」楽曲を意識しています。どれだけ自分の好きなものを詰め込めるか、というも考えたりしています。あとは、VTuberがバズり出したタイミングでFuture Bassも流行り出して、こういう音楽もあるんだと知ってから、Future Bass曲を作るようになりました。

ーー自分の曲を作る時と、誰かに曲を提供する時で意識の差があったりしますか?

ミディ:他の人に楽曲提供する時は、極力その人に合うような曲を心がけているんですが、最近は「ミディさんっぽい感じでお願いします」と言われることが多いですね。その中で自分っぽい曲ってなんだろうと考えた時に、Future Bass風の楽曲が多くなっていることに気づいたので、そういった楽曲が求められているのかなと思っています。

ーーMVを作る上で意識していることはありますか?

ミディ:MVに関しては、いまでもずっと試行錯誤していて。これまで作ってきたものは、楽曲の雰囲気を重視して1日〜2日で作ってました。最近は初めてMVを別の方に作っていただいたのですが、カット割りの大事さや、ストーリーをもたせた方が伝わりやすいなと感じました。今後はもっとMVの中にストーリー性を持たせて作っていきたいと思います。

ーー個人的には「Absolute imagination」のMVがすごく好きです。

ミディ:「Absolute imagination」は半日で作りましたよ(笑)。とりあえずいい曲ができたから早くアップロードしたいなと思い、何も考えずに作ったMVです。

【Liquid Funk】Absolute imagination【Music Video】

ーー今でもそうなんですが、VTuberが楽器を演奏している映像というものが珍しくて感動しました

ミディ:そうですね。VTuberが楽器を演奏しているところを表現した作品は少ないかもしれません。でも当時はそんなことを考えていなくて、早く聴いてもらいたいという気持ちだけで作りました。

ーーミディさんがこれまで活動を続けてきて、影響を受けたアルバムを3つ教えてください。

ミディ:一番最初に影響を受けたのはシンガーソングライターのYUIさんです。特に2ndアルバムの『CAN'T BUY MY LOVE』がとにかく好きで、今でも聴いてますね。コード感というか、独特の爽やかさにかなり影響を受けました。「Absolute imagination」などは特にそうなのですが、add9のコードを多用していて、その響きがすごく好きなんですよ。add9をYUIさんの曲で覚えたといっても過言ではないです。

 2枚目は、KOTONOHOUSEさんの『PRESS START!』です。自分がFuture Bassを作り始めた当時、このアルバムに影響を受けてデモを作ったのを覚えています。このアルバムを聴いて、独特のシンセの感じやテンポを知って、「Future Bassってこうやって作るんだ」と学びました。最初は、当時KIZUNA AIちゃんやYuNiちゃんがFuture Bassの曲を出していて、こういう曲があるんだと初めて知って、そこから色々聴いてみようと最終的にたどり着いたのがこの曲ですね。

 3枚目は、ハニーカムベアさんの『Holic』というアルバムです。ハニーカムベアさんは、落ち着いた系のFuture Bassの曲をたくさん作ってらっしゃるんですが、その中でも『Holic』に収録されている「Calling」という曲がすごく好きです。「空飛ぶタクシー」のような未来を感じる歌詞が書いてあって、それがVTuberの持つ性質とリンクしていたり、KOTONOHOUSEさんの「PRESS START!」のようなアゲアゲ系なFuture Bassばかりを聴いていたんですけど、ハニーカムベアさんの曲を初めて聴いた時に、こんなしんみりとしたFuture Bassがあるんだと感動しました。そこから色んなFuture Bassの曲を聴くようになり、Future Bassを取り入れたK-POPなんかも漁るようになりました。

ーー他に影響を受けたアーティストや楽曲はありますか?

ミディ:ゲーム音楽は自分の根底にあるなと思っています。昔からレースゲームが大好きで、特にナムコさんのレースゲームをかなりやりこんでいました。特に『リッジレーサー』の音楽がとても好きで、レースゲーム特有の疾走感ある音楽に影響を受け、ゲーム音楽オンリーのクラブイベントに行ったりもしました。しかもそれが初のクラブ体験だったりします(笑)。ちなみに「Absolute imagination」の疾走感は、そういったレースゲームの音楽が影響されているんです。

 あとは『風のクロノア』というファンタジー要素の強いアクションゲームがあるんですが、ゲーム内に多用されている民族音楽に影響を受けて、ぼっちぼろまるさんのコンピアルバム『ADVENTUNE』に収録されてる「Close to my heart」の民族調の音楽は完全にそれらの影響を受けてますね。ゲーム音楽って非常に面白くて、様々なジャンルの音楽が組み合わさったものなので、ゲーム音楽が好きなだけでいろんなジャンルのことを知ることができて楽しいですし、作っていてすごく力が付いている感じがします。今はFuture Bassを主体に作ってますけど、オーケストラやロックや和物など本当に色んなものを求められて、それに対して返すことができているのは、ゲーム音楽に触れてきた成果なのかもしれないと思っています。

ーーVTuberで影響を受けた人はいますか?

ミディ:VTuberだと、バーチャルねこさんのチルな感じというか、落ち着いた感じの音楽は、自分がLo-Fi HipHopを作ろうと思ったきっかけになりました。あとは、ワニのヤカくんのサウンドがすごく好きで、あの重低音のかっこいい楽曲なんかは自分の楽曲に取り入れたりしたので、そのお二人からの影響は大きいと思います。もちろんKIZUNA AIさんのFuture Bass楽曲も昔から大好きで、とても参考になりました。最近好きなのはメトロミューさんです。

ーー今まで出演して印象に残っているライブがあれば教えてください。

ミディ:初めてDJライブに出演した、第一回目のスーパーチャットですね。今までライブに呼ばれることもなかったし、ネット上で音楽を届けるということはあったんですが現場で曲を流すということが未経験だったので、初めてみんなの前で音楽を流して、自分の曲を流して盛り上がってくれることの非現実感・気持ち良さを感じました。

ーー今後はどういうライブをしていきたいですか?

ミディ:VRライブはずっとやってみたいなと思っています。いまの社会情勢がこんな感じだからというのもあるんですが、VRChatをベースにした音楽がすごく発展していて。聴く音楽だけじゃなく、見る音楽というものがあるんですよ。音が流れると目の前に波形が出てきたりと、新しい音楽の楽しみ方がある。。さらに色んな人と家にいながら一緒に音楽が聴けるのが、すごくいいなと思っています。以前、輝夜月ちゃんやYuNiちゃんのVRライブも見たんですけど、VRじゃないとできない演出や表現が本当に楽しくて。そのワクワクはVTuberを始めた時のワクワクとすごく似てるなって思っていて、そういった体験を通して、新しい音楽ができるような気がしています。

ーーVRライブは、ミディさんの音楽性や世界観にも合っていると思います。

ミディ:リアルのライブも大事にしたいんですけど、バーチャルじゃないとできないことをもうちょっと追求したいです。新しい技術や未来を感じるものに対してすごくワクワクするので。音楽面だと、VTuberという表現形態にこだわるのは違うんじゃないかと最近思っているので、どこかでその枠を超えたいです。「VTuberが音楽を出す」ということで全てが完結してしまうのではなく、リアルなアーティストと対等なところまで持っていきたいというか。例えば樋口楓さんはライブで実際のミュージシャンの方をバックバンドに入れたりしていますし、そういった試みが当たり前になってくれるといいですね。もちろんハードルはまだまだ高くて、VTuberが楽器を演奏している演出などは難しいと思いますが、いずれそのハードルが下がることを期待しています。

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