変化するYouTuberとテレビの関係ーーライターたちが考える「2021年のYouTubeシーン」
YouTuberとテレビのマッチングはいかに?
――さて、2020年は芸能人YouTuberが急増した一方で、逆にラジオや地上波などにYouTuberが出演することも珍しくなくなりました。
こじへい:先ほどの東海オンエアの例のように、クリエイターが主体になっている番組は別ですが、マッチングの悪さを感じてしまうことも少なくありません。YouTubeの動画は基本的にクリエイターありきでできていますが、テレビ番組はそのシステムのなかにタレントがいる、という構造なので、例えばフワちゃんのような一目でわかる特殊なキャタクターでないと、そこで力を発揮するのはなかなか難しい。カジサックさんも、YouTubeでは縦横無尽のトークで評価を高めていますが、雛壇では力を出せずに終わってしまうことがある、と本人もたびたび語っています。テレビとYouTube/タレントとYouTuberのどちらが優れているという話ではなく、いまはYouTuberが出演する番組を選ばなければならない状況かもしれません。ドラマや映画にトップYouTuberがカメオ出演するケースも増えていて、メディアの側から求められていることは間違いありませんから。
藤谷:いまだにひねりもなく「年収」にフォーカスする番組を見ると、もうその段階は過ぎてほしい、と思います。
――クリエイター本人が主体になる、というところでは、水溜りボンドが『オールナイトニッポン0(ゼロ)』(日本放送)のパーソナリティになり、テレビでも『水溜りボンドの〇〇行くってよ』(TVK)という冠番組を持つなど、チャレンジングな取り組みを続けています。
こじへい:特にラジオは本人が主体になりやすく、YouTuberが活動の場を広げる上では親和性の高いメディアですね。ロケ番組の『水溜りボンドの〇〇行くってよ』も、二人の魅力が出ていますし、バラエティなら“YouTuberだけ”の番組も、そろそろ見てみたいなと思います。
藤谷:中田敦彦さんと宮迫博之さんがMCを務めるトーク番組『WinWinWiiin』のように、テレビバラエティ的なYouTube番組も生まれましたし、こうしたコンテンツが増えていけば、YouTuberとテレビの関係性はまた変わっていきそうです。
こじへい:興味や経験として時折テレビに出演しても、テレビタレントになりたいと考えているトップYouTuberはそれほど多くない気がしますし、YouTubeでよりリッチなコンテンツを届けていく、という方向に進むのは自然ですね。また、単純に「画面」の大きさの問題で、テレビサイズだと埋もれてしまうけれど、スマートフォンで見るコンテンツだと高い実力を発揮する、というクリエイターは多いでしょうし、Netflixをはじめとする動画配信サービスに進出するYouTuberも出てきそうです。
佐藤:水溜りボンドの取り組みでいえば、急激に舵を切ったので、YouTubeで追いかけてきたファンが戸惑っている部分もあります。水溜りボンドがそうだということではなく、テレビに進出したときに、「テレビの合間にYouTubeを撮っている」という印象になってしまうと、難しい状況になってしまう気がしますね。ファンとしても、活躍の場が広がることを応援したいけれど、追いかけきれなくなるし、ベースであるYouTubeに割く時間が減ってしまうのは寂しい……という、複雑な思いを抱えることになるというか。その上で、後続のクリエイターのためにも体を張って道を切り拓いている水溜りボンドは、やはり素晴らしいと思います。
――水溜りボンドといえば、代名詞にもなっていた「毎日投稿」を終了する、という発表も話題になりました。2020年は、はじめしゃちょー、スカイピースなど、同じく毎日投稿をやめるクリエイターが増え、2019年からの流れが加速したように思います。
藤谷:ヒカキンさんが早くから、率先して毎日投稿をやめ、“働き方改革”を訴えかけていたこともあり、じわじわ広がってきましたね。視聴者からしても、芸能人YouTuberも含めて注目のチャンネルがこれだけ増えているなかで追いかけきれませんし、長く活動しているクリエイターについては、例えば「5年前は学生だったから毎日見られたけれど、働き出してそういう時間もなくなってきた」という、ファンのライフステージの変化もあると思うので、無理なく発信し続けてほしい、と思います。
――一方で、YouTubeのアルゴリズム上の有利、視聴の習慣づけや単純接触効果による人気の獲得など、YouTuberの活動にとって「更新頻度」はいまも重要なポイントです。「毎日投稿」で検索すると、まだスケールしていないクリエイターが「毎日投稿したら再生数やチャンネル登録者数がどうなるか」という検証動画をアップしているケースも非常に多いですね。
佐藤:フリーランスとしてその気持ちはわかります。ライターも、毎日仕事があることのありがたさはよく感じていますから(笑)。
こじへい:同感です(笑)。ただ人気YouTuberの場合、YouTube以外の活動が忙しくなって、無理が生じるということはやっぱりあるでしょうね。日々の動画制作に加えて、メディア出演あり、イベントあり、グッズ展開やその他の大型企画もあり……というなかで、大人数のグループではなく二人で、毎日投稿を続けてきた水溜りボンドは超人的だと思います。
佐藤:また、2020年のYouTubeで、意外と大きな変化だったと思うのは、動画に視聴者の有志が翻訳をつけられる機能がなくなったことです。
藤谷:2020年はタイのBLドラマ『2gether』がオタク女子たちの間で注目を集めたのですが、これもYouTubeで公式にアップされた本編の動画に、有志が日本語字幕をつけてくれたことが大きかったんです。
――「翻訳は暴力だ」という議論もあり、不適切な字幕をつけることによる荒らし行為もあるとは思うのですが、確かに、日本のコンテンツに対する海外YouTuberのリアクション動画なども、気の利いた日本語訳で盛り上がっていた印象がありました。
佐藤:魚捌き系YouTuberのきまぐれクック(かねこ)さん、大食いYouTuberの木下ゆうかさんなどの動画は、有志による外国語字幕によって、海外の多くの視聴者を獲得していました。海外の面白いコンテンツを気軽に楽しめるように、そして日本語圏の外にある大きな市場も巻き込んで活躍できるクリエイターが増えるように、気軽に正しい字幕が付けられる機能が整備されてほしいですね。
――最後に、いま注目しているチャンネルやジャンルがあれば、教えてください。
藤谷:2〜3年前のイケイケだったワタナベマホトやへきトラハウスとはまた別の、新しい世代の男性グループYouTuberのことは気になっています。コムドットやEvisJapのような。ただ、あの頃と今では時代が変わっているので、ナンパ動画などでも過去のような過激なことはできない。いや、そもそも昔でもやっちゃダメなものも多々あったんですけどね……。
ほかには「節約術」を伝えるようなライフハック的な動画はこれまでもあったのですが、このコロナ禍もあり、貧困/生活苦を赤裸々に伝えてコンテンツ化している人が増えているように思います。「リストラ(コロナ解雇)されたので嫁に報告します」という動画が200万再生を超えていたり、似た状況の人たちが勇気づけられたり、収益化できて状況を改善する足しになればいいな……と思いながら、つい視聴してしまうんです。水溜りボンドのスタッフだった「Pさん」もいま、貧乏系YouTuberと名乗り、収支報告などをしていますが、投資に関するチャンネルも盛り上がっていますし、やっぱりお金の話はみんな関心があるんだな、と思います。
佐藤:私は「【12人産んだ】 助産師HISAKOの子育て学校」というチャンネルを知って、興味深く拝見しています。ご自身で12人も出産したという身をもって経験したことを伝えてくれる内容は、それだけでも貴重なコンテンツだと思います。今後も、話題にしにくいデリケートな悩み、性教育などはぜひとも専門家の方に意見を発信していってほしいなと思います。チャンネル登録者数こそまだ20万人に満たないのですが、100万再生を超える動画もあって、やはり何かの専門家の話を聞きたい、というニーズはYouTubeでも高まっているんだと思います。自然と芸能人YouTuberが目立つ状況で、YouTubeを楽しみ尽くすには、視聴者の側から自分の関心に深く刺さるチャンネルを探しにいく、ということがさらに求められていきそうです。