『プレバト!!』『林先生の初耳学!』生み出したMBSプロデューサー・水野雅之に聞く「テレビとYouTubeの関係性」

テレビはネットによせるのではなく“昭和時代への原点回帰”が必要

――これからは地上波テレビとYouTubeなど複数のメディアに跨って制作に携わる方々が増えていくのでしょうか。

水野:テレビ制作者はとっくにYouTubeやAmazonプライムに進出していますし、今後も複数のメディアに跨る流れは加速すると思います。僕自身も今年YouTubeのコンテンツを世に出す機会があるし、制作者の多くは単純に作ることが楽しいって思っている人たちだからプラットフォームにこだわりはないんです。

――地上波の番組制作に携わってる水野さんに敢えて聞きますが、今は厳しい時代ですか。

水野:厳しい時代だと思うんですけど、作り方は変わらないというか……。時代が変わっても、人が楽しいって思う本質的な要素って意外と普遍的だし、いっぱい種類があるわけじゃないと思うんです。今っぽいコンテンツを作る時も、その普遍的な要素同士をどう掛け合わせるかがポイントだし、その要素って昭和のテレビから変わらないものもあります。

――昭和のテレビですか?

水野:そうです。この前、『8時だョ!全員集合』(TBS)のDVDを久しぶりに見たんですけど、めちゃくちゃ面白い。テレビのスターが大掛かりな空間を動き回って観客を楽しませるライブ感は、逆にとても斬新に見えました。今は、編集ソフトも進化しているし、ネタのリサーチの精度も上がったんですけど、結局、僕らが勝負するときに忘れちゃいけないのは「喜怒哀楽が伝わるライブ感」なんです。今の子たちって生まれて最初に接する動画コンテンツは、きっとYouTubeだと思います。興味がピンポイントだから、電車に興味を持てば親にYouTubeで「電車」を検索してもらって見る。童謡、ストライダーの乗り方、レゴの作り方……YouTubeがピンポイントな好奇心に応えてくれて、「いつになったら地上波の出番が来るんだ?」っていう時代。振り向いてもらうには、強烈に感情を揺さぶるライブ感が大切だと思います。

――テレビの中身は原点回帰が必要だということがわかりました。その上でこれから進んでいくデジタルの流れとどう向き合っていきますか?

水野:SNSを活用すると視聴者との距離が近づきます。BGMにファンだけが気付く仕掛けをしたり、『林先生の初耳学!』のセットにSexy Zoneのメンバーカラーを忍ばせたら気づいてくれたり……。『プレバト!!』の俳句セットの後ろにKis-My-Ft2の千賀くんの水彩画を並べた時も、告知なしで気付いてくれて嬉しかったです。こういう本編と関係ないところでの工夫はSNS時代っぽいし、仕掛けていきたいです。

――他にはどんな仕掛けを考えてますか?

水野:ネット動画に寄せたり、バズってるネタを持ってきたりっていうことじゃなくて、PRや副音声的に絡ませたりすると相性がいいですよね。放送中にインスタライブで裏話を語ってもらったり。最近、ウチのアナウンサーに提案したのは、情報番組の生放送中に楽屋のクロークでYouTubeライブ配信を回して、地上波に出演する新人アナが上司に放送前の意気込みを語る。そして、放送が終わったらライブで公開反省会をする。視聴者から「頑張ってたよ」とかリアルタイムにコメントが来ると、怖い先輩が「いやいや頑張れてないから」とか返す。地上波は地上波で、YouTubeをサブチャンネル化する形ですね。

――YouTubeは誰でも始められるとはいえ、今は再生数や登録者数で評価される世界で人々が戦っています。もっと性質の違うプラットフォームになる可能性はあるのでしょうか?

水野:先日、株式会社GOの三浦(崇宏)さんと今YouTubeで活躍してる元読売テレビの平山(勝雄)さんとお話した際に、「今後コンテンツに関わる人たちは、自身のYouTubeチャンネルを持っておいた方がいいんじゃないか」という話になりました。今までも「これはツイッターで発信すべき」「これはnoteが最適」と、コンテンツによってプラットフォームを使い分けていますが、その中にYouTubeがカジュアルに入ってくるようになると思います。そうなると今の再生回数や登録者数を競う人だけではないプラットフォームになって、使い方も少し変わってくるのではないでしょうか。

――ちなみに、水野さんはあらゆるメディアを横断してチェックされていて、自身もYouTubeコンテンツの制作に携わっているとのことですが、テレビ業界にこだわる理由は何かあるのでしょうか?

水野:日本中の人たちに見てもらえる全国ネットで番組を作れるのは、とっても特別なことです。新しいメディアの人たちと話していても、やっぱりマスは羨ましがられるし、地上波もYouTubeもまだまだお互いに「隣の芝は青い」的な状況だと思います。新しいメディアにも興味はありますが、全国ネットの価値を再認識しているので地上波の番組をしっかり作って結果を残しながら、新しいプラットフォームにも挑んでみたいと思います。

■鈴木 梢
すずき・こずえ。1989年、千葉県市川市生まれ。出版社や編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に日本のエンタメ/カルチャー分野の企画・執筆・編集を行う。
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『プレバト!!』(#300)番組概要

【放送日】
2021年1月7日(木)19:00~20:00 MBS/TBS系全国ネット
【概要】
浜田雅功のMCで、芸能人の隠れた才能を専門家が査定し、ランキング形式で発表するカルチャースクールバラエティ『プレバト!!』。2021年1月7日19時からは「俳句」と「絵手紙」の才能査定ランキングをお送りする。
【出演者】
浜田雅功、玉巻映美(MBSアナウンサー)、梅沢富美男、皆藤愛子、真琴つばさ、雨宮萌果、小島瑠璃子、伍代夏子、タカアンドトシ、津田寛治、二階堂高嗣(Kis-My-Ft2)、濱家隆一(かまいたち)
専門ゲスト:夏井いつき(俳人)、花城祐子(絵手紙作家)
ナレーター :銀河万丈
【スタッフ】
製作著作:MBS
制作:吉本興業
制作協力:ビーダッシュ
プロデューサー:上野大介、渡辺蔵人(吉本興業)、林敏博(ビーダッシュ)
総合演出:水野雅之
【番組公式サイト】
https://www.mbs.jp/p-battle/

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