「アニメーションMV」急増の理由は? 映画楽曲とコラボしたVRMVなど手掛けるパンケーキ・迫田祐樹&ウツツ・石川剛史に聞く
「デジタルビーイング」の概念とは? リモート化で生じた影響も
--パンケーキで掲げている「デジタルビーイング」の概念についてもお教えください。
迫田:デジタルかアナログかという二項対立で考えるというよりも、もうすでに日常生活にデジタルが浸透しているので、共存させて考えようというのがデジタルビーイングの概念です。ソフト面だとAdobeを入れようとか、ハード面だと液晶ペンタブレットを入れようとかという話だけだと、アナログでやっていたことのUIUXをデジタルツールに置き換えてるだけに過ぎませんよね。
デジタルなのが当たり前であるというところから考えていくんです。制作の際のパイプラインとか、どのようにマネジメントをしていくか、デジタル化されたデータをどう管理するのか、みたいなことをデジタル中心で考えていくのが大事だなとずっと思っています。コロナ禍になって、DXという言葉でも語りやすくなりましたし。
ーーコロナ禍で、やろうとしていたことが前倒しして進んだ形ですか。
迫田:もともとパンケーキでのコミュニケーションはSlackやDiscord、プロジェクト管理はTrelloやNotion、会議はGoogle MeetやDiscordで完結していて、別に出社はしなくていいけど出社していたみたいなことは1年前までありました。それもコロナ禍で出社しなくていいとなって、それが今も続いている感じです。
打ち合わせでは、膝を突き合わせて話さなければならない類のテーマ、例えば感情性が決断に大きく関係する内容であれば、オフラインで集まる必要が出てくるので集まったほうがよいはあるんですけど、そういった打ち合わせって全体の1割2割くらいなんですよね。
コロナ禍になり、「とりあえず集まりましょう」みたいな状態がなくなり「この打ち合わせでは何を話すのか、何を決めるのか」かということを考えると、結果として「オンラインでもいい」となる打ち合わせは増えますよね。
ーー制作作業自体への影響はいかがでしょう。
迫田:パンケーキの制作サイドでは、コロナ禍の影響はありませんでした。スタジオや会社に来られなくなったので制作が止まる、といったことは一切なかったということですね。
かといって影響はゼロではなくて、ツインエンジングループ全体では影響はありましたし、アフレコスタジオなどは対応に追われていていましたので、そういった余波はありました。
--逆にリモートになったことで生じた影響はありますか?
石川:僕はもともと在宅で仕事をすることが多かったので、ほとんど変わらない感じです。パンケーキはコロナ禍で完全にリモートになったので、逆にリモートで顔を合わせないことから生じるストレスを解消するために、オンラインでゲームをしようとか、いつもよりも人と話す機会が増えたりしたのが嬉しかったです。
迫田:3月、4月くらいはMinecraftでオフィスを作ろうとか、Spatial Chatで上映会や飲み会みたいなことをしたりしました(※編注:Spatial Chatではリアルと同様に、同じ空間にいながら個別のテーブルがあるような感覚で話すことができる)。ZoomやMeetだと1人と多人数みたいで話しにくいですからね。
リモートワークは、事前のコンセンサスが取れていてGO!となっているプロジェクトにおいては、最短距離で進めてスゴく合理的なんですよね。その反面、温かみや情緒性といった余白のコミュニケーションがないことに気づきました。合理化した後は、一定のところはシステム側で動かしてくれますけど、人間的なプロセスがなくてドライになってしまうのをどうするか、今も試行錯誤しています。
尺の長い作品、尺の短い作品における制作面、金銭面が異なる問題
--制作面の問題について、尺の長い作品と尺の短い作品とでは事情が異なることがなかなか伝わりませんが、思うところはありますか?
石川:もともと別のスタジオで長編などの大きな作品に参加することが多くて、アニメーションを制作したいという希望が叶ってはいました。でも一方で、自分が何をやりたいのかを考えることも多かったんです。個人作家とか、MVで作家性を発揮している人が出てきていて、そちらの方が自分を満たせるのではというイメージがありました。
もちろん大きな作品に関わることもスゴくやりがいがあって素晴らしいことですけど、もっと自分で色々やってみたいという願望をクリエイターは誰しも持っていると思います。実際に周囲に多いですし、そうした活躍の機会が増えていると感じますので、世の中の流れとしてもそうなのかなと思います。
個人や少人数だとその分、色々と大変ですし、時には地獄のような思いもします。スタジオで制作した方が取れる手段は多いし、クオリティーも上げられる。しかし、それでも手応えや可能性を感じているから続けていきたいという人もいます。スタジオで感じていたフラストレーションを解消する何かが、個人制作にはあるのかなと感じます。
今のアニメスタジオの多くは同じ仕組みで作っていないと発注できません。僕の場合はCGなんですが、CGのスタジオでも同じようにセクション化が進んでいるので、やることが決まっているんですよね。今よく見られるアニメを制作しようと思えば、今の作り方が正解ですし、それはCGでも同じです。
個人作家や若手で出てきている人たちは、その前提に倣わずに、「こうしたら自分なりに作れるんじゃないか」と工夫をしている人だったりします。スタジオから出て個人でやっている人たちも自分の得意な作り方をして、得意でない部分はそんなに注力しなかったりするんですね。
結果的にそれぞれ従来のアニメーション制作とは違う、自分たちのやり方に最適化したMVを制作して、その人にとってのクオリティーの高い映像が生まれています。クオリティーが上がっていくと個性が消えるということもあるかもしれませんが、逆にそうした中で生まれてくる個性もあると思いますし、僕としてもそのようになっていきたいと思うんです。
--尺の短い作品の場合は、尺の長い作品でよく言われがちな金銭面とは別の問題もあるようです。
迫田:石川さんのような気持ちを持っているクリエイターはスゴく増えてきているように感じます。今後、プロダクション機能を持っている一つのスタジオの規模がだんだん小さくなって、逆に母数が増えると言ったトライブ化が進むと思うんです。その1つ1つのトライブがそれぞれの特徴を持って際立っていくというか、アーティスト化、ブランド化していく未来が想像できます。
今後MV、CM、ショートムービーといった尺の短いクリエイティブに対する需要はますます増えていき、それを請けることで自己実現しようとするクリエイターも増えていき、クリエイターのアーティスト化が進むと思います。そういった先のクリエイターはクリエイティブのことだけに専念したいと考えると思いますが、そうなると経理や労務や営業はどうするのか。
そこで問題になるのがエージェント機能とマネジメント機能なんです。今の時代にタレント事務所は要らないと言われることもあるけれど、むしろアーティストがクリエイティブに専念するためには事務所は必要です。営業にしても仕事を取ってくるだけではなくて、収益を最大化させるために、しっかりとスケジュールを管理して、良い条件の仕事を取ってくる、といったことが求められてきます。
パンケーキの場合はエージェント的な側面が強くて、できる限り良い条件と、良いスケジュール感で仕事を取ってきてプロデュースしていきたいです。今まで大規模な工場で部分的に動かざるを得なかった人たちに対して、1人のアーティストとしてパスを回せたらいいなという思いが強いですね。
フリーのクリエイターに直で発注が来た場合、自身でコントロールしやすい規模感の作品になって満足度も高いんですけど、制作費だけの話をするとクリエイター個人の稼働費だけで制作費を考えてしまって、金額安く見積もってしまいがちという問題もあります。そうなると利益を取れない構造になり継続性が生まれません。そういうときにはエージェントがいれば、窓口になって見積もりを適正に行なえますし、期待に沿えるものにするために制作をコントロールすることで、クライアントにも安心してもらえると考えます。
きちんとしたクオリティーの作品を仕上げたいとなると、予算を多めに要求することになりますし、そういう体制を作ることの方が重要だと思うんです。CMやショートムービーはともかく、MVは楽曲にテンポにあったカッコいい映像が重視されるので、アニメ業界とは異なる独自の受発注や価値基準が作られていく可能性も感じます。
MVにもアニメが増えている背景 変化するクリエイターの受け皿
--最後にアニメーションのMVが増えている要因についてどう思われてるのか、今後どうなっていきそうなのか展望がありましたらお願いします。
迫田:単純にプラットフォームやデバイスが多様化したので求められるコンテンツの総量が増えたということだと思います。その中で映像のコンテンツとなると、ざっくりと実写とアニメの2択しかないので、相対的にアニメも増えますよね。コロナ禍では実写の撮影をしにくいのも一過性の要因かと思います。
またクライアント側の企画立案者の年代が30代(1980年代生まれ)が中心になってきたのも大きいと思います。僕の肌感ですが、この年代の方はアニメの企画をやってみたいという人が多いように思います。普通に声優が好きだったりアニメスタジオを知っていたりして、違和感を覚えずに企画案の1つとして挙がっています。これからも需要は増えていくだろうなと思います。
作り手側の数も増えていますが、これはソフトとハードの要因があると思います。技術革新によりハード(液晶ペンタブレットやiPadなど)が入手しやすくなったこと、ソフトでもAdobeなどのクリエイティブツールがサブスクになって初期導入コストが下がったこととかですね。クリエイターとしての土壌を安価で作れるようになったことが、ますますクリエイターの数とコンテンツの多様性を増やしていくと思います。
■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画:石田祐康も登壇)、「激変!アニメーション環境 平成30年史+1」(著書:りょーちもインタビューも含む)など。
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パンケーキ株式会社
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