宮迫博之×中田敦彦『WinWinWiiin』の仕掛け人・Guild高橋将一が語る、YouTubeでリッチコンテンツを展開する“意味”

 オリエンタルラジオ・中田敦彦と雨上がり決死隊・宮迫博之がMCを務めるYouTube番組『WinWinWiiin』(ウィンウィンウィーン)が話題を呼んでいる。ゲストに手越祐也を迎えて11月21日に公開された第一回は、プライムタイムにテレビで放送されても違和感のないクオリティと、YouTubeならではの踏み込んだトークが展開され、すでに前後編合わせて700万再生を突破。“YouTube上で展開されるテレビクオリティのリッチコンテンツ”という、新たな地平を開拓している最中だ。

 そのプロデューサーに名を連ねているのが、エージェントとしてクリエイターのサポートを手がける株式会社Guildのギルドマスター・高橋将一氏だ。『WinWinWiiin』はどんな発想/経緯で生まれ、この先に何を目指すのか。YouTubeでバズを起こすコンテンツに必要な条件とは何なのか。“YouTubeプロデューサー”として原点も振り返ってもらいつつ、じっくり話を聞いた。(赤石晋一郎)


高橋将一(たかはし・まさかづ)
株式会社Guildの代表取締役。VAZ副社長などを経て2019年にGuildを創業。同社は日本最大のエージェント型クリエイター支援企業として、YouTubeチャンネルのサポート数は約400チャンネル、年商100億円オーバーと急成長中。YouTuberのヒカルのマネジメントを担当し、協業でアパレルブランド「ReZARD」(年商約30億円)を立ち上げ成功へ導き、プロデューサーとしても宮迫博之、手越祐也など、逆境に立たされたタレントをYouTubeで大復活させた。

YouTubeで重要なのは「ストーリー」

――『WinWinWiiin』というYouTube番組がどういった流れで立ち上がったのか聞かせてください。表に見えるところでは、宮迫博之さんのチャンネルで公開された動画「天才 中田敦彦にチャンネルを伸ばすコツを聞いたらセミナーが始まりました」からスタートした企画ですが、プロデューサーとしてどう準備をしてきたのか。

高橋:そもそもの話をすると、僕はVAZの副社長に就任したときに事業再生というタスクを持って参画し、そのなかでYouTubeでリッチコンテンツを展開したい、ということは常に考えていました。しかし、テレビと同じことをやっても、YouTubeでは必ずしもヒットしない。視聴者にとってテレビより距離感が近いYouTubeで重要なのは、そのコンテンツの背景、ストーリーなんです。その意味で、宮迫さんがテレビに戻ろうと奮闘しているなかで、中田さんが「それを超えていこう」と提案する、というストーリーを乗せてくれたのが大きくて。クリエイティブやコンテンツの中身に関しては中田さん主導で、僕らは「それをパッケージにして、企業からスポンサー料をいただいて、より大きな企画にしましょう」とご提案しました。中田さんは当初、自腹で番組をやろうと考えていたそうで、その熱意はすごいなと思いましたね。

――中田さんは資料まで用意して、宮迫さんに「YouTubeで『アメトーーク!』を超えるべきだ」とプレゼンしていましたね。その発想と、高橋さんがもともと考えていたリッチコンテンツという構想が合致したと。テレビクオリティの番組をYouTubeで配信することの意味については、どうでしょうか。

高橋:テレビに対するアドバンテージでいうと、アーカイブされていつでも視聴できること、またスポンサーやプロダクション周りの制限がないため、より自由なコンテンツが届けられることが大きいですね。また、放送枠を買ったり、自前のサーバーを用意するのではなく、YouTubeというプラットフォームで展開すればランニングコストが抑えられますし、視聴者も無料で気軽に見ることができますから、より広がりやすいと考えています。また、YouTubeでどんなコンテンツが受け入れられるのか、ということについて、中田さんも経験的に理解されていることが大きいので、より細かくこだわった番組にできるだろうと。

――今回の番組については、宮迫さんの「テレビ復帰を目指して努力を続けているが、簡単にはできない」というストーリーが重要だったわけですね。

高橋:宮迫さん本人がどう考えているかは別として、視聴者の目線としては、「宮迫博之がテレビのようなスタジオで、全力でトークしている」という姿は、やはり感慨深いものがあると思います。

【宮迫×中田】手越祐也(前編)〜ジャニーズ退所の真実!〜【Win Win Wiiin】

――YouTube上でのリッチコンテンツは、今後も拡充していきそうですか。

高橋:2021年もいろいろと仕掛けていきたいと考えていますが、難しいのはやはりストーリーの部分ですね。「なぜYouTubeでこの番組をやるのか」という文脈なしに、豪華な座組みだけ整えてもうまくいくとは思えません。また、既存のYouTuberだけでテレビクオリティの番組が成立するかといえば難しい部分がありますが、一方でスポンサーを募って制作費を賄う上では、ゼロからではなく、もともとある程度のチャンネルボリュームがないと厳しい。今回で言えば、中田さんのチャンネルと宮迫さんのチャンネルの視聴者が最初からついてくれている状態ですから、交渉もしやすいんです。そういう意味で、YouTube上でリッチコンテンツが大量生産できるかといえば、まだ難しいとは思っています。お金をかけて大掛かりなドッキリや、無人島生活のような単発の企画はできるかもしれませんが、ひとつの「番組」として成立させるのはなかなか難しい。ただ、大人が楽しめるものをどんどん作っていきたい、という構想は進めているところです。

――YouTubeでストーリーを持つ芸能人が増えれば、リッチコンテンツに耐えるMC力があり、スポンサーも連れてこられる、というケースが増えるかもしれない。

高橋:そうですね。そのなかで素晴らしいと思うのは、アーティストが一発録りでパフォーマンスを披露する「THE FIRST TAKE」。MCすら不要で、ミュージシャンのパフォーマンスがあれば成立するコンテンツで、知恵を絞れば現状でも、YouTubeでリッチコンテンツはできる、という例ですね。

海外ではもう、ネットからしかスターは生まれない

――さて、『WinWinWiiin』の初回(前編)はすでに400万再生を突破していますが、これは想定できていたことでしょうか。

高橋:始める前から、コンテンツとしては面白いものになるという期待はみんな持っていましたが、それが社会に受け入れられるか、ということは、ゲストによると考えていました。初回のゲストに、僕もチャンネルにかかわっている手越祐也くんをキャスティングできたのは大きかったと思います。もともとタレント力が高い彼なら、世の中の関心を集められるということ以上に、内容が面白くなって拡散されるだろうと。第2回のキングコング西野亮廣さんも刺激的なキャスティングになりましたし、中田さん、宮迫さんの熱量も非常に高く、いわば「テレビに戻れなくて、YouTubeで何か新しいことを生み出そうとしている」というストーリーを楽しむ方が少なからず出てきたのは良かったと思います。

――高橋さんが『WinWinWiiin』を通じて描いているビジョンは、旧来のメディアの在り方を変えようとするものだと思います。今後の構想についても聞かせてもらえますか。

高橋:これまでテレビ局や広告代理店さんなど、大きな力を持っているところが一本化してメディアを使っていた部分を、インターネットにも開けるような形を作っていきたいと考えています。今後もテレビに変わる広告媒体が出てこなければ、クライアントさんも何をスポンサードすればいいかわからなくなっていくと思いますし、しっかりパッケージを作ってさらにYouTubeを盛り上げていきたいなと。加えて言うなら、海外では、YouTuberが作ったリッチコンテンツをNetflixが買い取り、有料コンテンツに移管するというモデルもありますし、そういう道筋も作れたらいいですね。

――なるほど。そういうステップアップのルートがあれば、再生数だけでペイできなくても、YouTuberがリッチコンテンツを作る動機付けになりますね。

高橋:そうですね。もっというと、日本以外の国では、テレビやプロダクションがわりと崩壊していて、テレビの才能もインターネットに流れてきている状態があります。だから、海外の動画の方がコンテンツ的にそもそもリッチであって、編集する人たちのレベルも高いから、NetflixやAmazonプライムに移管しようという発想になる。海外ではもうネットからしかスターは生まれない、という状況になっていますが、日本では――良い悪いという話ではなく、やはりテレビやプロダクション、広告代理店がまだ非常に強い。それを少し、世界標準の流れに戻すお手伝いができたら、という感覚です。

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