『クロノ・トリガー』が叶えられない“夢”を僕たちは追い続けるーー記憶を消してもう一度プレイしたい名作に寄せて

 テレビの裏側に3色の端子を差し込み、スーパーファミコンの電源を入れる。時計の振り子とともにタイトルロゴが表示され、16bitのピアノサウンドが流れ始める。スタートボタンを押すと、「ニューゲーム」の隣に「つよくてニューゲーム」と表示された。あまり見慣れない選択肢だ。

 「つよくてニューゲーム」とは、今年で発売から25周年を迎えたスーパーファミコン用ソフト『クロノ・トリガー』で登場したゲームモードである。RPGである同作では、エンディングを迎えると、この「つよくてニューゲーム」モードが現れ、クリア時のステータスや所持アイテムを引き継いだまま、ストーリーを最初から遊び直すことができる。

 つまり2週目以降のプレイでは物語の序盤に「レベル上げ」を行う必要がなくなるため、プレイヤーにとってストレスの少ない状態で遊ぶことができるのだ。加えてこの「つよくてニューゲーム」はシナリオにも影響し、このモードでしかたどり着けないエンディングも存在する。「つよくてニューゲーム」モードでは、ラスボスとの戦闘をプレイヤーの好きなタイミングで行うことができ、ラスボスのラヴォスを倒したタイミングによってエンディングの内容が変化するのだ。

 「ラスボスと好きなタイミングで戦える」というのは奇妙なことに思えるかもしれないが、これは同作がいわゆる「タイムトラベルもの」であるという設定と大きくかかわっている。簡単にあらすじを紹介しよう。

『クロノ・トリガー』のあらすじ:時代を超える物悲しさ

 ガルディア王国に住むクロノは、建国1000年を祝う祭に訪れた。そこに突如として次元の裂け目「ゲート」が発生する。「ゲート」に飲み込まれた人は、あらゆる時代に飛ばされてしまうのだ。「ゲート」によって原始時代から未来まであらゆる時代をまたにかける冒険に巻き込まれたクロノは、未来の時代で「ある映像」を見ることになる。

 それは、ラヴォスと呼ばれる巨大生命体が世界中に光の雨を放ち、地上を崩壊させる光景だった。あらゆる生態系と文明は崩壊し、未来の人々はただ絶滅を待つだけに等しい生活を余儀なくされていた。

 この絶望的な未来を救うため、クロノは旅の途中で出会った仲間たちとともにラヴォスに立ち向かう、というのが『クロノトリガー』のおおまかなあらすじだ。

 簡単に言ってしまえば「ラヴォスが地上を滅ぼす前に倒してしまおう」ということなのだが、その力は余りにも強大で直接倒すことは(物語の終盤までは)到底不可能である。したがってラヴォスを目覚めさせたとされる魔王を倒しに中世にタイムスリップするが、そのために必要な武器を作るために原始時代に行くことになったり、魔王の行動の秘密は古代にあるため古代に行ったり……といった形で、複雑にストーリーは進行していく。

 このように同作は「歴史の改変」が一つのテーマとなっており、それを象徴するエピソードが随所に差し込まれていることが、多くのプレイヤーを魅了している。

 たとえば400年もの間土地を耕し続けたクロノたちの仲間、ロボット(ロボ)のエピソードは語り草である。ロボは中世の荒れ果てた砂漠に住むフィオナという女性に出会い、その土地を緑豊かな大地に変えるという彼女の願いを叶えるため、400年にもわたり一人で植物を育て続けるのだ。健気に、そして孤独に400年間一つの作業に取り組むという心境は、想像を絶する。そして400年後の現代にタイムスリップすると、そこには緑あふれる広大な森と、電源の切れたロボを祀る神殿があった。

 クロノたちはロボの電源を入れ、400年ぶりの再会を祝うとともにこんな会話を繰り広げる。仲間たちが「やり直したい過去はある?」と自問自答するのだ。この問いに対してクロノの幼馴染であるルッカは「考えると疲れるから、考えないようにしている」と言う。実はルッカの母親は過去に事故に遭い下半身が動かないのだが、その事故は母親のそばにいたルッカ自身が防げたはずのものであった。このことをルッカは後悔し続けていたのだ。


 その後、過去にタイムスリップしたルッカをプレイヤー自身が操作し、事故を防ぐためのイベントが発生する。ただし、実際に母を救えるかどうかはプレイヤー次第だ。仮に救えたとしても「今までの過去をなかったことにしていいのだろうか?」「現在のルッカの人格が変わってしまうんじゃないか?」というようなことを考えさせられるイベントである。

 このように時間を巡る壮大なエピソードや過去の後悔といったものが、光田康典らの作るノスタルジックなBGMとともに展開し、独特の物悲しさを生んでいたことが同作の魅力だ。

 さて、話をラヴォスに戻そう。ここまで当たり前のように「タイムスリップする」と説明してきたが、クロノたちがタイムスリップできるのは「時の最果て」と呼ばれる場所から、あらゆる時代につながる「ゲート」を通っていたためである(要するに「時の最果て」とは、「タイムマシンの機能を備えた集会所」のようなものである)。

 この「時の最果て」には物語の序盤でたどり着くが、そこからは「ラヴォスが地上を滅ぼす直前(「ラヴォスの日」)」にも繋がっていた。つまり「時の最果て」にたどり着いた時点でラヴォスとはいつでも戦えるようになるのだが、1週目のプレイではその他のイベントをこなさなければラヴォスを倒せるだけのレベルに達しないため、シナリオの途中でラヴォスを倒すのは事実上不可能である。

 しかし「つよくてニューゲーム」では初めからラヴォスを倒した時点のステータスで物語が始まるため、パーティの編成次第では好きなタイミングでラヴォスを倒すことができる。そして倒したタイミングによって異なるエンディングを迎えられるというわけだ。

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