「国内でSpotifyからInstagram Storiesに最もシェアされた楽曲」ランキングに感じる、“流行り”とは違う若者の心情

 先日Spotifyが発表した、2020年の音楽シーンを振り返る年間ランキング。カテゴリ別にランキングが発表され、改めて国内外におけるTikTokの影響力の強さを再確認する結果であった。

 「国内で最も再生されたアーティスト」や「国内バイラルチャート年間トップ10」など、いくつかあるカテゴリの中で、「国内でSpotifyからInstagram Storiesに最もシェアされた楽曲」というランキングがある。このカテゴリの1位は、他のカテゴリでもランクインした瑛人の「香水」であるが、2位にランクインしたVaundyと3位の藤井風は、いずれもSpotifyの「Early Noise」という、新進アーティストをバックアップする独自のプログラムに選出されたアーティストであった。藤井風はつい先日、韓国主催のアジア最大の音楽祭「MAMA/Mnet ASIA MUSIC AWARDS」にて「Best New Asian Artist Japan」を獲得したということからも、音楽性の高いアーティストがこのランキングにランクインしているような印象を受ける。

「国内でSpotifyからInstagram Storiesに最もシェアされた楽曲」ランキング

1.香水/瑛人 (単純に香水紹介の動画も込み)10億件
2.東京フラッシュ/Vaundy 540万件
3.何なんw/藤井 風 180万件
4.bad guy/ビリー・アイリッシュ 120万件
5.琥珀色の街、上海蟹の朝/くるり 46万件

 楽曲の右に記載されている「〇〇件」という数字は、TikTokでこの楽曲名のタグがついた動画が投稿された数だ。「香水」に関しては、「オススメの香水紹介動画」もわずかに含まれているため正確な数字とは言えないが、それでも10億件という驚異的な数字を叩き出している。

 トップ5曲のTikTok動画でポピュラーなものは、「グルメ紹介動画のBGM」といったものよりも「歌ってみた動画」などの楽曲自体にフォーカスする類のものが多かったのも印象的だ。なぜならTikTokでは、「推しが可愛い」という趣旨の歌詞を繰り返すような“TikTokマーケットの需要に特化した”楽曲が好まれたり、アーティストの楽曲の早送りバージョン、通称「#Fast ver.」などが多用されることもしばしばあるからだ。

 Instagramのストーリー機能を利用するのは、10代や20代などの若い世代が大半だろう。10代である筆者は、ストーリーには日々の「見せたい」部分を切り取ってシェアするという意識が強く作用していることを実感しており、また自身もよくお気に入りの楽曲をストーリーに投稿しているため、このランキングには「こんな音楽を聴いている」という自己顕示が少なからず影響しているだろうと予想している。4位の「bad guy」は昨年、5位の「琥珀色の街、上海蟹の朝」に至っては2016年にリリースされた楽曲であり、TikTokでの流行がランクインの土台になっているとはいえ、楽曲がそのままInstagramのストーリーまで飛ぶというのは、ひとえにTikTokだけの影響力ではないのかもしれない。

 他のランキングでは「失恋ソング」といった永年愛されるテーマのものが多いのと比較すると、1位の「香水」を除く4曲は、チルアウトや気怠さが楽曲の全体に漂っている様子、世間や身近な物事に対する呆れや諦めなどといったテンションの低さがある。TikTokと比較してストーリーはInstagram内で内輪的なプラットフォームであるため、コロナ禍で派手に遊べず、室内で散り積もった鬱な気持ちを表現したい・共有したいという思い、あるいは、この閉鎖的な環境でも自分はなかなか楽しくやってるよ、という2020年の若者の心の中が、より鮮明に見えるランキングなのではないだろうか。

(画像はPixabayより)

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