『TVer』は大成功のさらにその先へーー新体制で目指す「パーソナルタイムシフト」戦略とは?

 今年はコロナ禍により、オンライン開催となった『Inter BEE 2020』。本稿ではTVerの龍宝正峰氏(代表取締役社長)による基調講演「5周年を迎えた民放公式テレビポータル『TVer』の未来~7月新体制の狙いと今後の展望~」から一部を記す。

キャッチアップから「パーソナルタイムシフト」へ

株式会社TVerの新体制について。

 龍宝はTVerがスタートした5年前を「ユーザーが視聴デバイスを色々と拡張している、NHKがネット配信を始めようとしている、同時に違法アップロードが世の中に溢れてきている、という時期だった」と述懐。そして「黒船とか言っていたが、ちょうどNetflixやAmazonの動画配信が始まった。さらに民放的に言うと、全録機というのが拡張してきて、CMをスキップして見ないという人たちが増えてきた。それより何よりベースとなっているのが便利になってきたインターネット。そちらの方にスポンサーの広告が流れるようになってきた」と補足し、TVerが新体制に至るまでの過程を説明していった。

TVerサービス開始時の民放テレビ局の課題。

 5年前は、このような課題をどのように解決するべきかということを議論していた状況だった。そのため、誰でもいつでもどこでも視聴可能なものを作ろう、それによって違法動画を撲滅しよう、そうすることでもう1回、テレビに戻ってきてもらいたいというのが放送局の思いだった。そして安全安心なコンテンツをインターネットに出すことで、新たな広告市場を作っていきたい。それと同時に新しい技術を作って標準化して、より使いやすいシステムを作り上げようというのが当初の目標だった。インターネット広告はスポンサーニーズの多様化だと言っていたのが、あっという間にテレビ広告を凌駕するようになって、昨年には抜かれるという状態になったと思う。

民放キャッチアップサービスのこれまで。

 2014年から2015年にかけては、各局のオウンドメディアがサービスを開始して、そしてTVerが15年の10月に開始したという状況。そのあと在阪各局、NHKも参画して、ここまで来ている。そのお陰からTVerは3000万ダウンロードを達成したので、ある意味、順調にサービスとしては成長していると思う。ただ一方で、広告市場の育成という意味でいうと、サイバーエージェントが出している動画広告市場の傾向のグラフを見たら、スゴい勢いで増加していると思うが、そこまでキャッチアップのメディアには届いていない。全体の売上の中のわずか2%しかないという状況の中で、どうやって克服していけばいいのかを考えていかなければならなくなった。

新体制の背景:動画広告市場の動向。

 まず現在、我々が置かれている状況を考えてみると、TVerは放送局が提供するので安全安心だったり、ブランドセーフティーだったりといった長所はある。そして市場が拡張していることもビジネスとしてはプラスである。課題のところでいうと、まだまだ権利処理が足りなくて、出せるコンテンツが少ない。色々なことを決めるのに5局がああだこうだと言っている状況だとスピード感がない。そして何よりもデジタル広告で言うと、あまり適応した人材がいないので、各局でリソースの補い合いをしなければならない。そんなことをしている間に、競合メディアとの差が広がっていってしまった。

株式会社TVerとして再出発。

 そこでTVerというサービスのビジョンやミッションを明確化して、会社として自立的、主体的に運用できる体制を構築する必要があると考え、7月から運用をお願いしているプレゼントキャストにキー局が資本増強して人材も投入、株式会社TVerとして再出発した。これまではリアルタイム視聴への回帰とか、違法コンテンツの撲滅とかということも大きな柱だった。それに加えて自主自立的な運営体制を確立すること、そしてスピード感を加速させること、配信広告収入を放送コンテンツで獲得できるように形を整えることなどを目標にした。そのためにはまず強いプラットフォームにする。そしてユーザーを一気に拡大させる。それをやった上でTVerのセールスポイントを構築していこうと考えている。

目指すべき姿「パーソナルタイムシフト」。

 今までやっていたキャッチアップだけではなく、強いプラットフォームを作るために何をやっていくかということで、今回パーソナルタイムシフトという言葉を作ってみた。これは同時配信だとか、その追っかけ再生だとか、スポーツや記者会見を放送終了後も最後まで流すとか、テレビではやらないものをテレビのリソースを使って流すといったことを含めたもの。ユーザーニーズに合った色んな動画コンテンツを流せるようにして、自由に動画コンテンツを楽しめるような時間を作っていきたいというのがパーソナルタイムシフトの発想。それを実現させるためにコンテンツの足りない部分を増やしていく。そして放送局のリソースを使った効率的なプロモーションも、もっともっと推進していきたいし、メディア、データを有効活用してこのサービスを拡張させていきたいと思っている。