Spotify芦澤紀子×クリエイティブマン清水直樹に聞く、“プレイリストライブ”が日本で実現するまでの過程
大手音楽ストリーミングサービスの『Spotify』が11月26日午後8時より、海外でも聴かれる日本のヒット曲を紹介するプレイリスト「Tokyo Super Hits」をコンセプトとしたオンラインライブイベント『Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020』を開催する。
今回の『Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020』には、嵐、Perfume、End of the World、[Alexandros]、ビッケブランカ、Vaundy、マカロニえんぴつというポップスターから次世代アーティストまで計7組が出演。ライブの模様は、イープラスが運営するチケット制ライブ配信サービス『Streaming+』を通じ、日本のみならず海外でも生配信される。
『Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020』は、Spotifyが海外で展開してきた“プレイリストライブ”を日本で初めて行う公演でもあり、制作にはクリエイティブマンが携わっている。そこで今回はSpotify Japan コンテンツ統括責任者の芦澤紀子氏と、クリエイティブマンプロダクション代表の清水直樹氏による対談を行い、プレイリストライブの可能性や、『SUPERSONIC』中止決定後のクリエイティブマンの動き、各アーティストとの関係性やブッキングの意図などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)
「日本のアーティストを世界のリスナーと繋ぐためのイベントに」(芦澤)
――まずプレイリストライブの歴史についてお聞きしたいと思います。プレイリストをベースにした公演は、どのようにして始まったんですか。
芦澤:海外ではストリーミングが主流になっていく中で、ひとつのメディアのような力を持つようなプレイリストがいくつか出てきました。特に有名なのは「¡Viva Latino!」や「RapCaviar」といったプレイリストです。これらはプレイリスト自体も大きなフォロワーを持っているんですが、プレイリストの中で曲を聴くだけではなくて、その世界観をより多面的に楽しんでもらうために実際に生で体感してもらおうと、プレイリスト名を冠したライブが海外で行われるようになってきたんです。最近では2019年夏に行われた「¡Viva Latino!」のイベントが話題になったことも記憶に新しいですね。
――今回のプレイリストライブ『Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020』ですが、構想から実現にはどれくらいかかったんですか。
芦澤:新型コロナウイルスの感染拡大という状況もあったので、リアルではなくオンラインでという形で動き出したのは今年の初夏です。「Tokyo Super Hits!」自体は、日本でSpotifyがローンチした2016年に作られたプレイリストなんですが、それを日本の今の音楽シーンを代表するプレイリストとして改めて打ち出して、日本のアーティストを世界のリスナーに聴いてほしいという思いがあったんです、日本の今を象徴するようなプレイリストを、日本のみならず海外にも発信していくという動きの中で、先ほどのような海外のプレイリストライブに近い動きができればいいなと。
――清水さんはこのライブの構想を聞いたとき、どういった反応を?
清水:Spotifyとはこれまでにも、リアルライブとして『Early Noise Night』という、新人をどんどん紹介していくイベントをいち早く一緒にやったり、サマーソニックの中でSpotifyのステージを作りながら、ブッキングも含めてひとつのフェスイベントを作るみたいなことを一緒にやる中で、Spotifyとライブを一緒に作っていくということの可能性がどんどん広がっていくのを感じてきたんです。そういったときにコロナの影響でリアルなライブができなくなって、今度はオンラインライブを一緒につくれるのかと、嬉しい気持ちになりました。僕らは止まっているのが一番嫌な職業なので。
芦澤:さらに手前の話をすると、『SUMMER SONIC』ではセットリストをプレイリストで作成して展開したり、テーマを分けてステージごとのプレイリストを作ったりしていたのですが、昨年はついにステージの方にも関わらせていただいて、今回のオンラインライブでまた新たな扉を開くことができたと嬉しい気持ちです。
清水:今年の夏は『SUPERSONIC』がなくなってかなり落ち込んでいたんですけど、そんなときにSpotifyさんが作ってくれた『SUPERSONIC』のプレイリストをとにかく車の中でずっと流しながら「このアーティストはこのステージだったんだよな」と一人で思いふけっていたのを鮮明に覚えていますよ。
芦澤:フェスのプレイリストは何年も前から日本のSpotifyにおけるひとつの定番シリーズとして力を入れているものなんですが、今年は軒並みフェスが中止になってしまって。でも、出演が発表されていたものや、やる方向で準備されていたものに関しては、今年も全部開催されていたらという前提でプレイリストを作って、キービジュアルも今年のものを使って、次のフェスは絶対に開催されることを願って、私たちなりにできる最大の応援のつもりで展開していました。
清水:そういう姿勢に、僕らはみんな助けられましたよ。
――いい話ですね。Spotifyとしては、今回のイベントを通じて、音楽シーンにどのようなインパクトを与えたいと思っていますか。
芦澤:このイベントをやろうと考えたときの大きな目的意識は「日本のアーティストを世界のリスナーと繋ぐ」というものでした。プレイリストを通じ、今まで届かなかった人に聴いてもらえる機会を提供し、それによってアーティストのことを好きになってくれる新たなリスナーを広げる手伝いをできるのがSpotifyの特徴です。だからこそ、日本の音楽シーンをもっと世界に紹介して、日本のアーティストが世界のリスナーに発見されて、ファンになってもらうというところを目指していきたかったんです。Spotifyは世界のリスナーのリスニングデータを持っているので、どんなアーティストに対して世界のどの地域でどんなリスナーがどういう風に聴いているかということがわかるという強みがありますし、こうしたデータを活かしてアーティストの作品を然るべきリスナーに届けることで、少しでも日本の音楽シーンに貢献できればと考えています。
ーー僕が数年前、清水さんにインタビューをさせていただいた際、「海外からマネージャーが日本に来た時に、Spotifyのデータを見せられて、日本だとこの曲が聴かれているから、この曲をセットリストに入れたい」と話すことがある、と聞いたのを強く覚えています。
清水:そうそう、ライブのセットリストにSpotifyのデータを活用するというアーティストは体感値として増えてきたし、確実に大きな影響を与えていると思います。今までだったら海外では、ベストアルバムの内容でツアーをするとか、そのアルバムのコンセプトでライブやるっていうのがあったじゃないですか。でも、今後はプレイリストを題材にしたツアーみたいなものもあるような気がしたんです。
――清水さんの肌感として、ライブでブッキングしたアーティストから、ストリーミングの影響を感じることは増えてきましたか?
清水:レコード会社主導じゃないものを作った、という意味でSpotifyの功績は大きいですよ。押さなきゃいけないアーティスト、みたいなことを無視してユーザーファーストでアーティストをフックアップしてきたからこそ、Spotify発と呼べるわけですし、ブッキングをするうえでもアーティストにそういう冠が付くようになってきたなと感じています。海外へ送り出す視点でみても、これまでは『〇〇Show』みたいなテレビに出して、そこで注目を浴びてインタビューされて、それがバズを起こして初めてヒットする、というルートがあったんですが、Spotifyを含むストリーミングサービスは、そういった壁をすべてなくしてくれた。もっとシンプルに言えば、日本のアーティストが成功しやすくなる道筋を作ってくれたと思っています。
――プレイリストのグローバル化という点でも伺いたいのですが、「Tokyo Super Hits!」や「Tokyo Rising」という日本の音楽を海外の方に聴いてもらうためのプレイリストって、実際に海外からのリスナーからはどのくらい聴かれているのでしょうか。
芦澤:Spotifyの場合、かなり多くの割合で海外のリスナーが聴いてくれています。全体的に一番多いのはアメリカなんですが、プレイリストによっても多く聴かれている国のランキングは異なっていて。「Tokyo Super Hits!」は東南アジア系の国が上位に来ていますね。最近特に伸びているのがインドネシアです。人口も大きいですし、Spotifyのサービスがスタートしたのは日本より半年くらい早かったのですが、成長のスピードが早くて、日本の音楽も現地の若いリスナーに非常に多く聴かれています。ほかには、台湾や香港、フィリピンといった国でもよく聴かれています。
――J-POPや日本の音楽に対して興味関心を持っているユーザーが増加している、という認識でいいのでしょうか。
芦澤:そうですね。ストリーミングの特徴として、プレイリストで音楽を聴く中で、ジャンルや国境、時代は関係なく気になったものをチェックして、そこからどんどん深堀していく、という聴き方になってきていると思います。グローバルで先入観を持たずに聴いてくれるリスナーが増えた、という印象です。特に「Tokyo Rising」だったり「Edge!」、「Early Noise」もそうですが、インディー的な音楽は先入観や国境、ジャンルの壁とかも軽々と越えて広がっています。以前は「日本語で歌っていたら世界にはいけないから、英語で歌わなきゃ」みたいな先入観があったと思うんですが、今は歌詞よりも全体的なサウンドとして好みかどうか、アートワークや映像を含めた世界観がどうか、という視点で広がっていってるアーティストが少なくありません。
――今回の『Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020』でe+の「Streaming+」をパートナーに選んだ理由は?
芦澤:昨年7月にSpotifyとe+はパートナーシップを締結していて、アプリで好きなアーティストの曲を聴くと、アーティストページ上にコンサート情報が出てきて、数タップでチケットを買うことができるんです。そういった連携基盤があったからこそ、必然的にオンラインライブという新しいエンターテイメントの形を実施することになった時に、「Streaming+」と組むことになった、というわけです。パートナーとの連携を高めていくというのは、オーディオ配信に特化したSpotifyにとってすごく重要なことなのかもしれないと思いました。
――各アーティストのブッキング意図についても聞かせてください。
芦澤:Spotifyの方から「ブッキングの方向性」や「どんなアーティストにこのイベントに出てもらいたいか」という希望を出したうえで、それを元に組み上げていただきました。
たとえば嵐に関しては、昨年の10月から11月にかけてカタログがストリーミングに開放され、そこから海外マーケットにも目を向けたデジタルシングルや代表曲の”Reborn”シリーズをコンスタントにリリースするなど、活動休止までの約1年間という限られた時間軸で精力的に活動されている中で、いろんな取り組みをご一緒させていただいたり、「Listening Together:ARASHI」や「ARASHI Summer Feelings」というメンバーそれぞれがボイスコメントと共に選曲したプレイリストを展開したりと、積み重ねてきたストーリーがあってのブッキングとなりました。End of the Worldも、昨年の『Spotify On Stage in MIDNIGHT SONIC』ではSEKAI NO OWARIとしてヘッドライナーを務めてもらったり、「Lost」というClean Banditとのコラボ曲をこのステージで初披露してくれていました。そういったアーティストとSpotifyとの関係性やストーリーを重視しているところがあります。急成長中の2組であるビッケブランカとVaundyに関しても、「Early Noise」という新進アーティストをバックアップするプログラムから大躍進を遂げたアーティストということで、今回のライブに参加していただいています。