ゲーム『Tell Me Why』とコミック『違国日記』、“近しい人の死”にどう折り合いをつけるか? にまつわる物語

『Tell Me Why』と『違国日記』の共通点

※この記事には『Tell Me Why』の序盤のストーリーと、『違国日記』の一部設定のネタバレが含まれます。

 Xbox OneとPCでプレイできるアドベンチャーゲーム『Tell Me Why』をプレイしたのだが、素晴らしいゲームだった。

 本作は『ライフ イズ ストレンジ』を手掛けたフランスのゲーム開発会社、DONTNOD Entertainmentの最新作。自分たちを理解しようとしない母親のことを殺傷してしまった“タイラー”と“アリソン”という名の双子が、過去と向き合うことで事件に折り合いをつけようとする物語だ。

 ふたりの母親、メリーアンは、決して“良い母親”ではなかった。世間一般的な型にはめた教育をしようとするメリーアン。対してタイラーは、生まれたときの身体は女性のものだが、心は男性のものという性別違和を抱えており、これがメリーアンにとって受け入れ難い事実であったろうことは想像に難くない。そして最悪の事態は起こってしまう。

 メリーアンの死から10年が経過し、更生施設を出たタイラーは、アリソンと再会。身辺整理のため、かつて家族3人で住んでいた家を訪れる。かつては滅多に入ることのなかったメリーアンの部屋で、彼女の持ち物を整理していたふたりが見つけたのは、「性同一性障害を持つ子の子育て」というタイトルの本だった。

 メリーアンは自分たちのことを、本当は理解しようとしていたのではなかったか? タイラーとアリソンは動揺する。そしてふたりは当時のメリーアンを知る人物たちに話を聞きに行き、幼い自分たちでは気づけなかった、メリーアンの想いを探りはじめる……というのが本作序盤の展開だ。

 このゲームをプレイしていて、近い感慨を受けた作品がほかにもあったような気がしたのだが、少し記憶を辿ってみると、それはヤマシタトモコの漫画『違国日記』だった。

憎むほどに嫌っていた姉の、母親としての知られざる顔

ヤマシタトモコ『違国日記』

 『違国日記』では、中学3年生の女の子“朝(あさ)”の両親が、交通事故で帰らぬ人となる。葬儀のとき、ほとんどの親戚がひとり残された朝を引き取るのを遠回しに押しつけ合う中、見かねて彼女を引き取ったのは、朝の母親を憎むほどに嫌っていた、叔母の“槙生(まきお)”だった。

 朝の母親であり、槙生の姉である実里(みのり)は、かつて槙生に対し、いつも高圧的な態度で接していた。自分だけの価値観を持ち、ひとりでいることを好み、やがては小説家になった槙生。対して“普通でいること”を良しとし、それを妹の槙生にも押しつけようとした実里。ふたりは大人になると、それぞれが実家を出て絶縁状態になる。

 槙生は引き取った朝との同居生活を通して、自分の知らない“親”としての実里の痕跡を垣間見る。身辺整理で見つけた、朝を生んでから実里がつけていた日記や、朝の友人の母親の証言と、自分の記憶の中の“姉”との間に、齟齬を感じる槙生。

 “普通でいること”に固執していた姉は、結婚し、朝を生んで、何を感じていたのか。しかし、それを本人に確かめる術は、すでに失われてしまっているのだった。

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