『初音ミクシンフォニー2020』“ブラボー”の代わりに万雷の拍手が響いたサントリーホール公演をレポート
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、開催が延期されていた『初音ミクシンフォニー2020 ~5th Anniversary~』が9月21日、東京・サントリーホールでファン待望の公演を迎えた。今週末10月17日にはパシフィコ横浜国立大ホール、11月27日には大阪・フェスティバルホールでの公演を控えるなか、万雷の”拍手”が送られたこの日の昼公演の模様をレポートしたい。
2020年で初開催から5年という節目を迎え、いまやボーカロイドシーンの一大イベントとなった『初音ミクシンフォニー』。音声合成技術の進化により生まれた“ボーカロイド”と、歴史あるオーケストラを結び、多くの音楽ファンを魅了してきた。今回は史上初となる、全曲フルオーケストラの生演奏となり、世界最大級のパイプオルガンを備えたサントリーホールのクラシカルな雰囲気とともに、普段の公演とはまた違う、心地よい緊張感が生まれていた。
一曲目に演奏されたのは、Mitchie Mによる『初音ミクシンフォニー』のテーマ曲、「未来序曲」だ。お馴染みとなった指揮者・栗田博文と東京フィルハーモニー交響楽団による卓越した演奏はこの日も冴え、観客を鼓舞するように響き渡る。「未来序曲」は名曲のタイトルが散りばめられた、ボカロシーンへのリスペクトに溢れる歌詞も印象的な一曲だが、前出のようにこの日はボーカロイドの歌唱も、MVを映し出す大スクリーンもない。しかし、歌うようなオーケストラの演奏から、ソーシャルディスタンスの確保を目的とした両隣の空席で、ボーカロイドたちが笑顔で歌いかけているような、あたたかいイメージが伝わってきた。
この日、司会を務めたのは、初音ミクのキャラクターボイスを担当する藤田咲。「このようなご時世でございますので、皆様にはご声援をご遠慮いただいております。ミクちゃんへの愛情や、オーケストラの皆様への感謝の気持ちなどは、拍手でお伝えいただけますと嬉しいです。フルオーケストラで奏でられる、ボーカロイドの名曲の数々。上質で贅沢な時間をお過ごしください」と、あらためて本公演のコンセプトを説明し、「Tell Your World」(kz(livetune))、「メルティランドナイトメア」(はるまきごはん)と、それぞれに儚くも美しい“つながり”を描いた楽曲をつなぐ。「悪ノ娘」~「 悪ノ召使」(mothy_悪ノP)のメドレーでは、パイプオルガンが中世を思わせる世界観を見事に引き立てていた。
休憩前最後の一曲となった初演奏曲「Alice in Musicland」(OSTER project)では、トランペット、トロンボーン、サックス、ウッドベース、アップライトピアノ、パーカッションのジャズ隊が参加し、目まぐるしく変わる楽曲のストーリーに彩りを添える。各パートのソロ演奏には、歓声を抑えるのに苦労した観客も多そうだ。
休憩明けのおなじみ、ファンが多い小編成コーナーも印象的だった。「紅一葉」(黒うさP)、「番凩」(仕事してP)、「千年の独奏歌」(yanagi)と、和のテイストを持った人気曲たちを盛り上げたのは、琴、三味線、尺八、和太鼓という和楽器演奏をゲスト出演で行った「AUN J クラシック・オーケストラ」。このように、『初音ミクシンフォニー』には観客を飽きさせない仕掛けが満載だ。
Nintendo Switch用ソフト『初音ミク Project DIVA MEGA39’s』の主題歌として、ゲームファンにも愛されている「Catch the Wave」(kz(livetune))、パイプオルガンがうまく活かされた「カンタレラ」(黒うさP)~「サンドリヨン」(Dios/シグナルP)のメドレーと続き、どの曲にも増して“歌う”演奏に思えた「from Y to Y」(ジミーサムP)へ。日常の憂さを忘れる、陶酔感のある時間が続く。
ここで藤田咲がステージに登場し、「今回、5周年のために新アレンジでお届けする、“最高速の別れの歌”『初音ミクの消失』(cosMo@暴走P)、そして最後の曲は、ジミーサムPさんが5周年のために書き下ろしてくださったアニバーサリーソング『舞台』になります」と、本編のラストを飾る2曲を紹介。人間の手で演奏することが果たして可能なのか、という疑問を覆し、「初音ミクシンフォニー」というコンサートの成功を決定づけた「初音ミクの消失」と、この大舞台そのものをコンセプトに、前向きなイメージを広げる「舞台」という新たな名曲の初演は、まさに本公演のハイライトと言えた。
歓声の代わりに万雷の拍手を送る観客に応えたアンコールは、圧巻の三曲だ。「ブラック★ロックシューター」(ryo(supercell))、「ハジメテノオト」(malo)と、ボカロシーン黎明期から愛され続ける名曲の連続。藤田咲があえてタイトルを言わず、「もうバイバイしなくちゃいけないの? 今すぐ わたしを 抱きしめて! …なんてね」と、歌詞を引用して呼び込んだ最終曲「メルト」(ryo(supercell))は、原曲に近い再アレンジが施されており、懐かしくも、今も色あせない輝きを感じさせた。ボーカロイド楽曲を聴いてきてよかったと、心から思えるエンディングだった。
「ブラボー」の言葉は心に秘めて、観客が送ったスタンディングオベーションは、ソーシャルディスタンス対策の空席の存在を感じさせない、力強く、大きなものだった。万全の感染症対策をとった上で、感動は薄まるどころか、さらに増したものにすることができると証明した本公演。続く横浜公演、大阪公演を心から楽しみにしたい。
■「初音ミクシンフォニー2020 ~5th Anniversary~」
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■初音ミクシンフォニーオフィシャルサイト
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■初音ミクシンフォニーオフィシャルグッズ
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