サカナクションのオンラインライブにおける“超立体サウンド”の裏側ーー佐々木幸生&浦本雅史に聞く
「生のライブと配信の両方に対応できるエンジニアが必要とされる」
――「配信用の音」という話で言えば、マスタリングはストリーミングサービスなどで最近言われている「ラウドネスメーター」やサービスごとの特性に合わせて変えていくことが主流とされていますね。浦本さんは、オンラインライブにおける音の特性を、見えない状態からどうやって把握していったのでしょうか。
浦本:配信サイトからのラウドネス値は確認したんですが、正確な数字は出てこなかったので、ラウドネスメーターを見ていましたけど、最終的にはしっかり作っていればどのプラットフォームで流しても大丈夫だと確信しました。あと、テスト配信を、ゲネプロの時点でさせてもらえたことも大きかったです。メンバーとも相談して、配信のマスタリングで狙っていたのは「iPhoneのボリュームをマックスにしたときに一番よく聴こえる音」でした。そこまで上げた時に音が割れがないようにして、見ていただく方の耳を守ることを意識していました。
――イマーシブな音響については、ここ数年色んな形でスピーカーやヘッドホン内で実現させるための技術が発展してきていますが、オンラインライブにおいては、こんな形で解決するんだと感動しました。
浦本:オンラインライブをする上で音作りとして面白いことができるとすれば、「どこにでもいられる」ことなのかなと。このライブを終えてさらに実感しました。
ーー「どこにでもいられる」というと?
浦本:サンプリングリバーブがあれば、空間の情報を幕張メッセにも渋谷クアトロにもできてしまう、ということですね。
――なるほど。それは面白いです。大きい会場でやっているけれど小さい箱の鳴りに、みたいなこともできると。
浦本:そういう意味では、オープニングの音響はそういう音の違いを意識したかもしれません。(山口)一郎くんが外から中に入っていくところで、音がだんだんモノラルからステレオ、ステレオから3Dに変わるという。
佐々木:3Dサウンドがいまいちわからなかった、という方でも感じていただけるような音響演出、という意味で、このオープニングはすごく大きかったですね。
ーー最後に、オンラインライブがこの後どうなっていくかについて、お二人の意見をお伺いしたいです。
佐々木:コロナが収まるまで、オンラインライブは確実に発展していくと思うんです。ライブハウスでの公演は少しずつ戻ってきていますが、しばらくはお客さんを入れた状態でのライブ配信が増えていくと思います。だから、エンジニアとしてはライブハウス、ホールのPAと配信用の音作りのどちらも同時にできるようにしておかないといけないのかな、と考えています。
浦本:サニーさんが言ったように、生のライブと配信を同時に行うことは絶対出てくると思うので、その両方に対応できる人材はやはり必要とされてくると思いますし、価値観をアップデートして、新しく業界に入ってくる子たちにも教えていきたいですね。
(ライブ写真=Masato Yokoyama)