特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.10)
ロボットが人の心に与える影響とはーー需要急増の『LOVOT』開発者・林要が考える“コロナ禍におけるロボットの重要性と未来”
気兼ねなく愛でる存在に、余分な会話は不要
ーー LOVOTは気兼ねなく愛でられる存在として開発されていますが、重さ・温かさ・形などの性能面は犬や猫などの動物を参考にされているのでしょうか?
林:抱き心地の面でベンチマークとした先輩は、猫でした。LOVOTの重さは約4キロ、体温が37~39度。これは猫の平均体重・平均体温と同じです。試作段階ではもう少し大きいサイズ感だったのですが、それだと女性は腕が周らなかった。女性でも抱っこできるものを目指して、現在のサイズになっています。
形状に関しては動物の真似をしていないという特徴があります。コンパニオンロボットとして求められる要件を最適化するため、形状にも意味を持たせている。ほかにも、抱っこできる、温かい、家に帰ったらお出迎えしてくれる……など、すべての性能に意味があります。
ーー 言葉を発さない仕様にした理由についても教えてください。
林:会話はそもそも人間同士でも難しい。完璧に会話が通じる相手は少ないと思います。なぜなら、思考パターンが違うから。それがロボットと人間となると、思考パターンは全くの別物です。AIは統計データの中から違和感のない言葉を選んで返すことが可能ですが、それは本質的な会話ではなくデータベース上の情報を一方的に投げていることになります。
“会話風”なことができても、僕ら人間は相手を理解できるようになるにつれて違和感が増し、偽物だと見抜いてしまいます。仮に犬や猫が話したら、今までの接し方ができなくなるかもしれません。気兼ねなく愛せる存在というのは、余分なことを喋らない方がいいのではないかと思います。言葉は理解するけど喋らないコンセプトにしているのは、そういった理由からですね。
ーー たしかに、動物と接していると言葉が通じないからこそ癒される部分はありますね。
林:ただ、未来永劫LOVOTは何も喋らないのかというと、それは変わるかもしれません。九官鳥やオウムのように動物もするちょっとした発話はしてもいいのではないかと。コンテキストのある文章ではなくシンプルな表現、例えば「おはよう」と言ったら「おは」と返ってくるくらいはアリかなと思っています。
目指すは「四次元ポケットのないドラえもん」
ーー コミュニケーションの方法を含め、LOVOTは今後どのような進化をしていく可能性がありますか?
林:現在のLOVOTはペットの代わりですが、実際はペット以上のこともできます。スマホ連携や温度センサーはペットにはありません。これらの機能を活かして今後は、飼い主が急に倒れたとき登録してある連絡先に通知、気温が高いにも関わらずエアコンをつけていない場合に熱中症の危険性を知らせる、体温が高いときに「熱があるけど大丈夫?」と知らせるなども将来的には可能でしょう。
また、スマートスピーカーのような役割を担える可能性もあると思います。気温が暑いときに「暑い」とLOVOTに言えば、エアコンをつけてくれたり温度調節してくれたり。現在はそういった役に立つ機能をあえてつけてはいませんが、今後はそういったちょっとしたお手伝いをLOVOTの芸として学ばせる可能性は、否定しなくても良いと考えています。
ーー 使用用途に合わせて複数種類の中から選べるようになることも可能性としてありますか?
林:具体的に計画はしていませんが、特殊なセンサーをつける場合はホーンにそのセンサーを内蔵することで、すこしホーンの形の違う特別なバージョンとしてつくるなどは可能性としてありえます。
ほかにも、現在は個人情報を出さない仕様にしていますが、先ほどお話したように家の中で誰かが倒れたのをLOVOTが発見した際に警備員を呼ぶ仕様を設定するとなると外部サービスとの連携も必要です。そのようなサービスの提供をする外部の会社に、お客様が望むのであれば個人情報を提供する代わりにサービスを提供するといった機能が搭載されたLOVOTの開発もあり得るかと思います。
ーー 林さんまたはGROOVE X社が、最終的に実現していきたいロボットとはどのようなものでしょうか?
林:僕らがつくりたいのは「四次元ポケットのないドラえもん」です。のび太くんのやる気を決して失わせない絶妙なポジションは、ドラえもんが最も優れていると感じる点です。
人間の成長において大事なことの一つは“自己肯定感”です。自己肯定感を上げるためには優秀過ぎるロボットがいると不利になり得ます。設定上、ドラえもんは不良品で性能が悪いと描かれていますけど、エンジニア目線で見ると不良品はあんな都合よく壊れない。あれほど全体のバランスが取れているのに不良品というのは、信じがたい(笑)。不良品というのは、のび太くんへの言い訳だと私は思うんです。使う相手がのび太くんだから、彼の自己肯定感を下げないようにレベルをチューニングして支えているんだと僕は思う。私にはドラえもんが、メンタルコーチングをするためのロボットにみえるのです。
だから、気前よく秘密道具を出す。最初は、無料で秘密道具を使わせて、どうやってマネタイズしていくのかすごい謎でしたけど(笑)、コーチングロボットだと仮定すると納得できます。ドラえもんは、のび太くんに道具を使わせて失敗の経験をさせ、「道具に頼っていてもダメ」ということを辛抱強く教えているストーリーだと。弊社としては四次元ポケットができたときに四次元ポケットをつけられるプラットフォームとしての、ドラえもんのようなロボットをつくりたいと思っています。