『マリオカート ライブ ホームサーキット』にみる、任天堂の「現実とフィクションの境目を無くす」試み
「道具」と「場所」を手に入れたユーザーの自由な発想から生まれる新しい遊び
そうして、魅力的な「道具」と「場所」が与えられると、遊び手は自然にあることを始めるようになる。「新しい遊び」を自分たちで作り出すようになっていくのだ。『どうぶつの森』でロールプレイに勤しんだり、『大乱闘スマッシュブラザーズ』でゲームにはない新しいルールを勝手に考えて遊んだり、『Nintendo Labo』で作った楽器でバンドを組んだり、『スーパーマリオメーカー』で計算機を作り出したりするのである。そして、これこそが任天堂が目指す一つのゴールでもある。何故なら、現実とフィクションが交わることでしか生まれ得ない、今までにない「新しい遊び」がそこにあるからである。そうして生まれた遊びが、次のゲームの種となって、また新しいゲームへと繋がっていくのだ。
『マリオカート ライブ ホームサーキット』も既にこの「新しい遊び」が生まれる可能性を大きく秘めたゲームであると感じることができる。本作には、冒頭で書いた通り、カートで自由に走って描いたルートを実際のコースとして楽しむことができるモードが用意されている。もちろん、自分で考えたコースを楽しむことができるという時点で魅力的ではあるのだが、これではコースの形が実際には見えないわけで、せっかく家の中でサーキットをやるからにはもうひと工夫欲しいところである。例えば、家にある本や雑誌などを並べたら、よりサーキットっぽく見えるんじゃないだろうか。あるいは、スニーカーの外箱を積み上げたり、台所にある余ってる紙コップも使えそうだ。だったらいっそステッカーで装飾して......といった具合に、自分だけのオリジナルのサーキットを作りたくなってくる。そう、ただルートを描くだけだからこそ、そこには沢山のクリエイティブの余白が存在するのである。
とはいえ、ここまでは任天堂がある程度想定している遊び方といえるだろう。トレーラー映像でも、オリジナルのサーキットを作って遊んでいる様子が映っており、お手製のゲートにカートがぶつかって崩れてしまう様子まで描かれている。きっと、発売後には様々なオリジナルのコースの様子がSNSなどを通してシェアされることになるはずだ。そして、それを見て、また新しいアイディアをひらめいて、もっと素敵なコースを作るという流れも生まれていくだろう。そして、遊び手ならではの自由な発想によって、これまでにないアイディアが生まれる瞬間も沢山出てくるはずである。そして、そこからまた、まだ見ぬ新しい遊びが生まれていくのである。
『マリオカート ライブ ホームサーキット』は、任天堂のインターフェースへの取り組みにおける一つの集大成であり、同時に部屋自体をサーキットにすることで新しいコミュニケーションの場所まで創り上げてしまうという、現実とフィクションの境目をなくしてきた任天堂の遊びづくりへの向き合い方が凝縮されたゲームとなっているように思う。だからこそ、今からプレイする日が待ちきれないし、それ以上に、そこから生まれる新しい遊びに驚かされる日が来ることが楽しみでしょうがない。そして、そこで生まれたアイディアが、また次のゲームへと繋がっていき、遊び手と共に、ゲームはさらに進化していくのである。
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura