『ゲーミングお嬢様』での提起が話題に “企業系wiki”に横たわる問題点とは

“企業系wiki”に横たわる問題点

 9月8日、“あるワード”が一部のゲームフリークの間でトレンド化した。

 発端は、『少年ジャンプ+』にて連載中のWebマンガ・『ゲーミングお嬢様』での一幕だ。同作の主人公である祥龍院隆子(しょうりゅういん りゅうこ)が、主要登場人物である二回堂転子(にかいどう てんこ)とのやりとりの中で、『企業系wiki』(※)に言及。これが問題提起として読者を巻き込み、SNSなどで賛否が飛び交った。かねてからゲーム分野(特に対戦格闘のジャンル)における“あるある”や問題提起を多く取り上げていた同作。そうした作品背景もあり、ワードの登場が大きなムーヴメントとなった形だ。

実際の内容はコチラ

 一般的な『企業系wiki』の問題点は、どのような点にあるのか。トレンド化をきっかけに深く掘り下げていく。

※特定の企業が運営する、閉鎖的な攻略サイトのこと。

『攻略wiki』とは体質の違う『企業系wiki』、隆盛の裏に蔓延る問題

 『企業系wiki』の問題点としてまず挙げておきたいのが、同サイトに見受けられる質の低い攻略情報についてだ。

 古くから『攻略wiki』の文化は、有志たちの並々ならぬ「愛着」と「情熱」の下に醸成されてきた。しかし営利を目的に運営される『企業系wiki』の場合、「いかにアクセスを集められるか」が、タイトル選びやページ構成、記事内容における最優先事項であり、「愛着」や「情熱」という基準の優先度は低い。そのため、腰を据えたプレイに基づかない情報が記載されるケースも多く、プレイヤーにとって価値の低いサイトとなっている実態がある。

 また同様の理由から、人気タイトルほど多数の『企業系wiki』が乱立される傾向にあり、その結果として起こる検索上位の寡占が、プレイヤーの体験を悪化させている点もやり玉にあがりやすい。知りたい情報を得ようと検索すれば、ヒットするのは同サイトばかり。念のため覗いてみても、求めた情報は見つからない。結局、プレイヤーは『企業系wiki』を避けながらの捜索を余儀なくされ、目的までの所要時間が増えてしまう。

 この点だけを考えれば、同サイトへの批判は、ややとばっちりのようにも感じられるが、本当の問題はその後にある。ブームが去り、大きなアクセスが見込めなくなったタイトルでは、一切情報が更新されなくなり、検索上位に表示され続けるだけの内容の薄いページとなってしまうのだ。

 運営側にしてみれば、そこから得られるアクセスも貴重な収入源ではある。しかしながらプレイヤーにとっては、形骸化したページが検索の障害となり続けるだけであり、それらに好意的な印象を持つのは難しい。こうしたプレイヤーの体験置き去りの運営から、『企業系wiki』は逆風を強めている。

モラルの欠如が大きな問題となったケースも

 過去には『企業系wiki』の行動が大きな問題となったケースもある。

 2019年11月、人気シリーズ『ポケットモンスター』の攻略情報を掲載するサイト『ポケモン徹底攻略』が、『企業系wiki』4社による一部テキストの盗用を批判。当該ツイートが2.6万件も拡散される騒動となった。

 同サイトは『ポケモン』プレイヤーにお馴染みの個人攻略サイトで、2002年より運営されている。話題に上がった4社は、記事作成フローの簡略化などを狙い、信用のある同サイトからの盗用に至ったのだろう。

 当該ツイートによると、投稿の時点で4社は謝罪をおこなったようだが、一部その後も盗用が続いているという。モラルの欠如も看過できない問題点となっている現状だ。

信頼性の低い情報は、ゲームカルチャーそのものにも影を落とす

 情報の質や更新の放置が、ゲームカルチャーに与える悪影響にも触れておかなければならない。近年台頭するマルチプレイを前提にしたタイトルでは、正しくない情報・古い情報がプレイヤー間に軋轢を生じさせている。

 私は過去、MOBAに分類されるタイトルを熱心にプレイしていたが、同タイトルでは、「協力プレイによるPvP」という特性上、知識の差によるセオリーの違いが頻繁にプレイヤー同士の衝突を生んでいた。多くの場合、彼らの情報格差は、プレイヤーのレベルや更新日時が明記されない(あるいは、明記された更新日時が詐称されている)質の低い情報に由来しており、その一端が『企業系wiki』である場合も往々にして存在していた。もちろんこの問題の裏には、質の低い情報を鵜呑みにしてしまうプレイヤーのリテラシー欠如があるが、その一方で、発信者側のモラルの欠如も表裏一体である。ソースとしての『企業系wiki』が情報格差の温床となり、結果的にゲームカルチャーの発展を阻害している点も、問題点として無視できないのではないだろうか。

 こうした衝突の経験により、体験を悪くしたプレイヤーの中には、そのタイトルから身を引く人間もいた。「ゲームカルチャーと切っても切り離せない『企業系wiki』の存在であるからこそ、文化全体に与える影響にも目を向けてほしい」そう考えるゲームフリークは多いに違いない。

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